第13話 他の人なんていらない



 朝食を終えて戻って来たアクアオーラの下にはすでに面会の求めがいくつも届いていた。

 舞を終えてすぐ感じた好奇の視線。あの瞬間から皆動き出していたのかもしれない。

 恐ろしさに肩を震わせると長く仕えてくれている女官が心配そうな目を向けた。

 重苦しい気持ちを全て出すようにゆっくりと息を吐いて気持を切り替える。

 黙って流されているわけにはいかない。

 控えている女官に指示を出してまずは身の回りの安全から整えることにした。






 何日かしても面会の申し出は減らなかった。

 面会は全部断っているけれど、王宮へ通す判断はお父様の領分のためどうにもならない。

 偶然にでも会う機会を作ろうと、彼らはアクアオーラの自室の周りや裏庭をうろついている。


 身の回りを元から仕えている女官たちだけに戻せたので誰も部屋に通さないよう徹底させているけれど警備の増員はどうしようもない。

 この状況で信頼のおけない者が側にいることの恐ろしさを実感し、女官たちも警戒を深めていた。


 窓から外を眺めることもできずに鬱屈した気持ちでソファに肩をもたれさせ、開いたソファの片側をぼんやりと見つめる。

 あれからアイオルドとは会えていない。

 領地にいるのか、王宮に来ることができないのか、来ようとしていないのか。

 何もわからない。送った手紙の返信すら来ないから。


 ただ……。


 何も言わずに関係を断つなんてことはしないと知っている。

 まして手紙の返信すら来ないなんて、ありえない。

 誰かの、お父様の思惑が働いていることは間違いなかった。

 空のまま残っている晶石を見つめ、手を伸ばす。

 舞台のような空間を作るための晶石。

 手の中に隠せるほどの大きさでありながら込められる力は段違いのそれは通常は出回らないほど希少な晶石だった。

 普段アクアオーラは程々の魔晶石しか作らない。

 高品質すぎる魔晶石は婚約者とはいえ一臣下に渡すには利益供与が過ぎる品物だし、アクアオーラも体感として気づいていた。

 赴くままに力を込めれば危険であると。


 左手で握りしめた晶石が限界を示すように耳障りな共鳴音を発する。

 金属を打ち鳴らすのに似た甲高い音に不快を覚え魔力の供給を止める。

 青玉よりも深い深い青に染まった魔晶石を摘まみ光に透かす。

 感情は凪いでいるはずなのに、その下で何かが煮えたぎっているような、おかしな感覚。

 多分、珍しいことに、アクアオーラは怒っているらしかった。



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