7話 デートプラン
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超絶な騒ぎがあった朝が過ぎて、訪れたお昼休み。
私は、向かい席で歯をギリギリと
「ごめんって。本当にごめん。私もついつい口が回っちゃって……」
「だよな~ついつい見たこともない俺のあそこのサイズなんか口走ってさ、そんなこともあり得るんだよな~」
「……ご、ごめんって。私がやり過ぎた。認めるから」
ここは社会科準備室。浅風が担任の先生にお願いして、こうして話し合える場所を作ってくれたのだ。
普段は
まあ、浅風はパンを食べてはいるけど………私は、袋も開けずにもただただ平謝りするしかなかった。
「認めるからってなんだよ。許してって?」
「……まあ、許してくれたらいいかも?」
「絶対に許さねぇ……お前のおかげで学校中にふにゃチン扱いされてるんだからな!?俺のプライドを返せぇえ!!」
「だ、だから言ったじゃない。ごめんって、何度も……あんたも私のこと、顔だけの女だとか、唇カサカサとか散々言ってたくせに」
「あのな……俺には意味が分からねぇわ。顔はまあ、そう。俺が悪かったとしてもよ、唇!!唇がカサカサなのは本当にそこまで気にするもんなの?正直に言うと俺、お前の唇の感触なんか覚えてねぇんだよ!!」
「………えっ、本当に?」
「いや、当たり前だろ。あの時は俺もその……緊張して、何が何だかよく分からなかったんだよ。唇の感触なんか、感じていられる場合じゃなかったし。でも、そのまま言うのがちょっとアレで……適当に誤魔化しただけだけど。でも、お前が唇のことをそこまで引きずるとは思わなかったわ」
「…………へぇ。緊張したんだ」
「………なんだよ」
「ううん、別に?」
ふうん、ふううん~~そっか、ちゃんとこいつも緊張したのか。
……実は私もよく分からないんだよね。キスした時の感触。なんか、私もめっちゃ緊張してわけわからなくなっていたし。
とにかく熱かった、という感覚しか残ってないけれど。唇の温度なんかを堪能していられる余裕なんか、私にもなかったわけで。
だからこいつも同じように緊張してたのかと思うと、どこか嬉しかったり……する部分がなくもないかもしれない。うん。
「はあ……どうすんだよ。お前が俺と別れるって口走ったせいで、最初からやり直しじゃねぇか。お前バカだろ?」
「あ、そのことなら気にしなくていいよ。なんか……ほら、私たちが喧嘩するのっていつものことだから、恋人になっても同じノリなんだ~~って、みんな勝手に納得しちゃってるし」
「………本当に?ならいいけど」
「うん、たぶんそうじゃないかと思う。
と言っても、今朝の発言が軽率だったことに変わりはない。
私は、あくまでも浅風に頼む依頼人の立場。浅風は、そんな私の頼みを仕方なく受け入れてくれているだけで、本来なら今すぐ止めると言われても仕方がないのだ。
……自分でも、ちょっと言い過ぎた自覚はあるけど。
「ごめん……ちゃんと反省してる」
「…………はああああ」
「……ファミレス2回奢ってあげるから」
「うっせぇ、要らねぇよそんなの。はあ………クラスのやつらに生暖かい目で見られるたびに、マジで死にたくなる……もう勘弁してよ」
「そ、そんな下ネタはもう二度と言わないから。約束する」
「………二度と言うなよ。分かったか?」
「うん」
ちょっと怖い目で睨まれたりはしたけど、浅風はもう一度ため息を吐いてから後ろ頭を
そして、姿勢を取り直して私と視線を合わせてくれた。
「お前は大丈夫なのか?他のやつらには、お前もう非処女だぞ?自業自得だけど」
「言い方……まあ、私は別に構わないけどさ。どうせ学生でいる間は彼氏とか作る気も、暇もないし。身近な子たちは、もう大体の事情分かってるから」
「………俺も
「ちゃんと説明してよね?あんたと性的な意味で絡むのがいいってことじゃないから」
「それはこっちからごめんだ、このバカ女」
「………ふん」
自分もバカなくせに、生意気な。一応、私が悪いから今は黙っておくけど……後で覚悟しなさいよね。
頬を膨らませながらも、私はついに袋を開けてパンをかじりながら、浅風と目を合わせる。幸い、もう機嫌を直したのか浅風も特にこれといった
そして、買ってきたパンを全部食べ終えた後。
浅風はパンの袋を丁寧にたたみながら、身を乗り出してくる。
「それじゃ、本題に入りますか。デートスポットはどこがいいんだ?」
「………え?本題?」
「うん?なんだよ」
「あ……いや、あんた。怒ったんじゃないの?」
「は……?そりゃもちろん怒ってるけど。でも、昨日言っただろ?デートしたら効果的だって。だから、そのためのスポットを決めるために呼び出したんだが」
「………………」
「なんだよ、その
「いえ、なんでもない……」
……ウソ。朝にあんなこと言われたのに、まさか自分からこんな提案をしてくるなんて。散々怒られたあげくに終いだと言われても、仕方ないと思ってたのに。
なんで?こいつちょっと優しすぎない?こんなの、おかしい……。
「……あんたさ」
「なんだよ」
「もしかして、私のことけっこう本気で好きだったりする?」
「俺帰るわ」
「あっ、ちょっとちょっと!!軽く、軽く冗談を言っただけじゃない!!」
本当に出て行こうとするから、私は素早く立ち上がって浅風の手首を取って引っ張り出す。
ようやく振り向いてくれた浅風の目には、確かな呆れの感情が含まれていた。
「もう二度とそんなバカなこと言うなよ。分かったか?」
「ああ~はいはい、分かりました。もう……冗談も言えないんだから」
「はあああ………もういいから早く答えろ。行きたい場所とかあんのか?」
浅風が再び椅子に腰かけると、私もしたがって彼の向かいの席に戻る。
今度こそ本当に帰りそうだったので、私は真面目な案を出すことにした。
「行きたいところ……ゲーセン?」
「ゲーセン?アリだけど、お前ゲーセンとかよく行くんだっけ」
「週末にちょっとね。音ゲーとかストレス発散用にたまたまやってるし。ほら、こうしてパンネルタッチするゲーム。知らないの?」
「うん?ああ……涼と一緒に行った時に見た気がするな」
両手を動かしながら機械のパンネルをタッチする仕草を見せると、浅風も記憶を思い出したのか頷いて見せる。ていうか、こいつも知らないんだ。私がゲーセンを通っていることを。
まあ、当たり前だと思う。友達と言っても、お互いのことを全部知っているわけじゃないし。
「ゲーセンか、悪くないだろ。それじゃゲーセン入れて、次は?」
「……あのさ、こういうデートプランは普通、男が用意するもんじゃない?」
「デートだからって調子に乗るな。俺たちの仲だろ?デートというよりお出掛けの方が合ってるじゃねぇか」
「まあ、それはそうだけど……なんかロマンが壊された気分」
「ロマンは、本当に好きなヤツのために取っとけ。俺はただのパシリだから」
「パシリってなによ、人聞き悪いな………分かったわよ、ちゃんと考える。ゲーセンを先に行くんだよね?」
「ああ、午後に会って、ゲーセン寄って他の場所で適当に時間潰して、ご飯食べて帰り。これでいいんじゃねぇ?」
「あ、じゃファミレスその時におごるね。一応、あんたにはちゃんと感謝してるんだから」
「左様ですか。お昼はどうする?」
私は人差し指を頬に当てながら、考えを巡らせる。お昼、お昼か………
………やっぱり、家で食べた方がいいよね。お金も節約しなきゃだし。
「お昼は各自解決。夕食は私のおごり」
「分かった。じゃ、ゲーセンに行った後に何をするかだな……お前、七草たちと普段どんなところで遊んでるの?」
「うむ……主にショッピングとかカフェしか行かないけどね。普通にスイーツカフェとかでいいんじゃない?あんた
「アリだけど、時間潰すにはちょっと微妙だな…………時間を潰しやすいところが……あ、カラオケ」
「あ、カラオケ!」
「おう、いい反応。じゃ、カラオケでいいよな?」
「うん、私も賛成」
なんだか、思ってた以上にあっさり決められてちょっと拍子抜けしてしまう。
でも、浅風は本当の恋人なんかじゃないからしょうがないとも思った。そもそも、二人きりで外へ出ることは今回が初めてだから。
前は
「よっしゃ。じゃ、午後の2時にいつもの駅前に待ち合わせ。ウチの生徒たちがたくさんいるところの方が、カモフラージュにも効果的だろう。それでゲーセン行って、カラオケ寄って、夕飯。いいよな?」
「うん、文句なし」
「オッケー……じゃ、そろそろ戻るか。もう予冷鳴っちまいそうだし」
「あ、その………浅風」
「うん?」
立ち上がって背を向けている浅風に、私は言う。
「その………ありがとう。協力してくれて」
その言葉を聞いた浅風は、不思議そうな顔でこちらを見つめた後に。
本当に、仕方ないと言わんばかりの顔で笑って見せた。
「そうかよ」
「………改めて言うんだけどさ、今朝のことは……本当にごめんなさい」
「……何度も言うな。さっきからずっと言われっぱなしだし」
「………………」
……やっぱり、こいつはズルいなと思った。
なんか、いつにもましていじりたくなってくる。変に背中がムズムズするから。
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