第48話 人食いに食われた
ゲルダの瞳にやられた。
何というか、その・・。敵だった訳ではない。
むしろ好意的というか、なんというか。
はっきり言うと性的にやられた。あいつかバイセクシャルってやつなのか、それとも百合ってやつなのか分かんない。
だって私の経験値が少ない。
ノーマルな恋愛さえ、相手が死んで未成熟なまま終わった。体がエロくなっても心は未熟者だ。
大した経験がない私は、酔った勢いでゲルダにひんむかれて、見つめられた。ドキドキして、なされるがままになった。
で、朝だ。
「えへへ、ついサーシャが可愛かったもんで」
「・・いいよ、別に」
「いやあ、普段の態度とその体から、経験豊富と思ってた」
「以前の経験は男が一人。以上」
「ふふ、まあいいや。感度もすごかったし。これはこれで、楽しませてもらったから。チュッ」
「んむ・・ばかたれ。そりゃ悪くなかったけど」
まさか、沼様にもらったスーパーフェロモンボディーの最初のお相手が女だとは・・
「なんだろ、嫌悪感はないな」
沼様が反応しなかったのは、邪気がないからか。
ゲルダはマツクロ子爵への復讐のため、私と行動を共にしている。
私も自分の死の偽装をするため、ゲルダと一緒にいる。
ゲルダはまだ直接人を殺してないけど、私達は出会って2日目から「殺人鬼コンビ」という、これ以上ない強烈な関係にある。
「まあ、その中にエッチが加わったくらいじゃ、ドライな関係に水を一滴垂らしたみたいなもんか」
「ひっひっひ、何を垂らしてたって?」
「精神的な話よ・・スケベ」
「えへへ、切り替えましょ。サーシャ。マツクロ子爵の四男と五男が本格的に私達の捜査を始めるわ」
「この前の牧場跡地の商会に100人規模で集まるんだね。四男と五男だけ集結前に倒そう」
「あの2人は他領にいるから、商会に行くのは10日後だね。1ヵ所だけ林道があるなら、そこで奇襲かな。中級の火魔法使いが2人いるのが厄介だね」
「2人なら先に潰せる。ゲルダはリクエストある?」
「子爵の四男、五男に止めを刺したいけど、贅沢言わないわ」
「OK。できれば生け捕りね。昨日、水もたっぷり収納指輪に入れたでしょ。派手にばら蒔くよ」
しばらく冒険者らしく、ウサギを捕まえたりした。一緒にご飯を食べて、たまに一緒のベッドでキスしたりして過ごした。
◆◆
10日後、ゲルダは「赤いサーシャ」、私は「白銀騎士ナイト」になり林道にいる。
敵が目指す牧場風商会の3キロ手前で待ち伏せた。ちょうど雨も降ってきた。
「あと100メートル。4台の馬車に30人くらい。魔法使いもどっかにいるのか」
「36人で魔法使いは最後の馬車に乗っている。魔力量が違うから間違いないと思う」
「そんな細かなとこまで分かるんだ」
「逆に高レベルっぽい「ナイト様」が分からないのが不思議よ」
「我が能力は、魔獣召喚と人食い水魔法に全振りである」
「そっか、あれだけの能力ならリスクもあるよね」
「無駄話は終わりで、行くでござるよ。人食いサーシャ殿」
「くく、キャラ作りへたくそ」
「うふふ」
まあ、作戦は簡単だ。私の腕力で魔法使いの馬車に鉄球を投げまくるだけだ。
ひゅるるるる。
「ゴキタ様」
「どうした!」
「なにか飛んで・・」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「魔法使いの馬車が狙われてるぞ」
馬車から五人が飛び出して来た。
「くそっ、3人やられた。魔法使いも1人やられたぞ」
「あっ、木の影から誰か出てきた。聞いてた奴らだ」
雨に濡れた地面は「沼」を隠しやすい。
「ナイト様行くわよ。「人食い水溜まり」」
まあ、ただのショボいウオーターボールを雨で濡れた林道に打ち込ませただけだ。
ぽちょん。
そこに2・5メートル沼を走らせた。
「うわっ」
「足が抜けん。まさか!」
「え?嫌だ、死にたくねえ」
ぼそっ。
「ゲルダ、魔法使いの方にウオーターボールを撃って」
ヘロヘロのウオーターボール4発を30メートル先の魔法使いに撃たせて、私も走った。
「80センチ泥団子発動、投擲」
炎の魔法をセットした魔法使いの10メートル圏内に入ると同時に、そいつの膝に向かって泥団子を投げた。
「これが「人食い」の水魔法か。打ち落としてやる。ファイアウオール!」
ぱちゃっ。じゅわっ。じゅわっ、じゅわっ、じゅわっ。
ぺちょっ。ぬぽっ。
ウオーターボールが弾けて蒸気が上がったが、遅れて泥団子が魔法使いの膝にくっついた。
「ひっ、蒸気が何かに変化した。食われる、嘘だろ!」
転倒させられて、膝から空中の水の飛沫に吸われているように見える火魔法使い。
「火魔法使いごときが、人食いサーシャ様の餌食になってしまえ!」
棒読みだが効果はあった。
「やってらんねえ、逃げろ」
なんと20人ほどが逃げ出した。
「おらあ、逃げんな!」
「何が人食いサーシャだ」
「あれが、ターゲット?」
「うん・・。ナイト殿、四男のゴキタと五男のタランガ」
180センチ越えの長剣持ちと戦槌持ちを見た瞬間、ゲルダの目の色が変わった。
『おい、誰だサーシャと一緒にいるのは』
ぼそっ。
「あ、沼様。ゲルダだよ。話したでしょ」
『強烈な憎悪だな。お前に向けられるもんでもないのか。つまらんな』
「沼様は憎悪も好きなんだ」
『まあな。だかそいつ、すでにお前に好意的だ。メロンとカリナくらい興味が沸かんな』
「白銀騎士様、ぼーっとしないでよ」
「そうだった。ゲルダ、サービスにもう1個だけスキルを披露する。60センチ小沼、4個発動」
ぽちょん。
◆
「おら、正々堂々と勝負せんか、いでで」
「拘束を解け、ぐぐぐ」
見物人もいないし、小沼で2人の両足を捕まえ、足をまっすぐにして立たせている。
膝から下は小沼の不思議引力で固まっているから、体を動かすと足に激痛が走る。武器を下に突いて、立っているのがやっとだろう。
「ふふっ、ゲルダ好きにして。私が解かない限り、この2人は拘束されたまんまよ」
振り向いた私はドキッとした。
「私が・・殺していい?」
私が貸した2・5メートル鉄槍を握りしめるゲルダ。
「ゲルダ、きれい・・」
目から光が消え、「沼」を覗き込んだときと同じ深い闇の色をしていた。
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