第28話先代って結構恨み買ってたのね 後編

 その足で、今でもエールとは交流があるという先代【神龍の巣シェンロン】メンバーが経営しているという喫茶店へ向かう。

 そこでも先代の話を聞くためだ。

 エールから事前に手紙を送ってもらっているので、今日、俺が行くことは伝わっているはずだ。


 商店街の一角に、その喫茶店はあった。

 店の名前は【星空の幻燈】というらしい。

 扉を開くと、取り付けられた鈴がチリンチリンと音を立てた。


 すぐに店員が出てくる。

 店長と約束していることを伝えると、その店員は厨房に引っ込んだ。


 そしてすぐに店長が出てきた。

 それは、腰の曲がったおばあちゃん店長だった。

 白髪を大きなお団子にして、エプロンをつけている。


「あらあら、今の総長さんは随分可愛らしい方なのね」


 ホワホワとおばあちゃん店長は笑うと、俺を客席へと案内した。

 客席はほどよく空いていた。


「それで、以前の【星空の幻燈スターライト】の何が聞きたいのかしら?」


 …………ん??


「【星空の幻燈スターライト】?

 え、【神龍の巣シェンロン】じゃないんですか??」


 俺とおばあちゃん店長が顔を見合わせ、互いに首を傾げ合う。


「あら??」


「んんん???」


 少しして、ぽん、とおばあちゃん店長は手を叩いた。


「あ、クィンズ君が名前を変えたんだったわね」


 なんて言ってきた。


「え、ということは、元々は違う名前だったんですか??

 それが、【星空の幻燈スターライト】?」


「そうそう!

 そうなの!

 元々は私が作ったクランのなのよ。

 これでも初代総長だったの。

 でも、怪我が原因で別の人に【星空の幻燈スターライト】の総長をやってもらって、私は裏方にまわったの。

 まぁ、雑用係ね。

 クィンズ君の代で、たしか十代目だったかしら」


 つまりは先代【神龍の巣シェンロン】の前身となったクランがあった。

 それを作ったのがこの人だったと。

 というか初代総長だったのか。


「クィンズ君が新しい総長になって、だいぶクランの雰囲気が変わったのは覚えてる。

 王国一の強いクランにするんだーって言ってたわ。

 私はそのお手伝いをしてた。

 そうして、気づいた時には名前が変わってた」


 え、気づいた時にはって。

 俺は耳を疑った。

 だから、つい、


「……嫌じゃなかったですか?」


 そんな質問が俺から滑りでた。

 俺の質問に、おばあちゃん店長は目を丸くした。


「あら、なんでそんなふうに思うの??」


「え、だって、自分が作って来た物が否定されたように感じません?

 雰囲気が変わる、メンバーが変わる、代替わりするのは組織として仕方の無いことです。

 でも、勝手に名前を変えてしまうのは……」


 ましてや、前身だったクランのメンバーが残っているにも関わらず、なんの相談もなく変えたというのは、かなり問題がある気がした。


「名前に、拘るのね」


「俺の育ての親が言ってました。

 名前というのはとても大事なものなんです。

 極端な話、魔力が無くても誰にでも使える魔法の一種なのだと」


まじない】といえば、しっくり来るかもしれない。

 この人がなにか思いを込めて名付けた名前だったはずだ。

 それを、この人に断りなく変えてしまった。


「なるほど、そんな考えもあるのね」


 寂しそうに、おばあちゃん店長は呟いた。

 この人はきっと、その名前に思い入れがあったはすだ。

 そうでなければ、自分が作ったクランと同じ名前を店名にしたりはしないだろう。


 ここで俺の中に、ずっと考えていたことが形を成してきた。

 テッペンをとったクラン。

 依頼は完璧にこなし、失敗はなかった。

 羨望を集めていただろう、そんな先代のクラン。


「あの、とても失礼なことを聞いていいですか?」


「なにかしら?」


「店長さん、あなたはクィンズという男を、そんな彼が作ったクランを憎んでいましたか??」


 おばあちゃん店長は、やっぱり悲しそうな顔をした。

 そして、


「思うところが無かったか、と言われると否定はできないわね。

 でも、死んで欲しいとまでは思わなかった。

 可愛らしい総長さん、あなたが聞きたいのはそういうことでしょう??」


「……はい」


「正直者ね。それに、素直。

 だから、これは貴方にだけ言うわ。

 エールちゃんには言わないで」


 おばあちゃん店長は、そう前置きをする。

 俺は頷いた。


「私はたしかにそう思わなかった。

 けれど、私とは違う考えの人間はたしかにいた」


 おばあちゃん店長は優しい目をして、俺を見つめ返してくる。


「具体的には、クィンズ君の【神龍の巣シェンロン】を憎み、潰したい、殺したいって考えてる人はいた。

 そうでなければ、あんなことにはならなかったと思うの」


 あんなこと、とは、先代達が帰らぬ人となった討伐依頼の事だろう。

 俺は、更に尋ねた。


「その時のことも、覚えている限りでいいんで教えてください」


 おばあちゃん店長は、微笑んだ。

 そして、色々教えてくれた。

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