第4話 まずは目標設定だ

 翌日。

 とにかく、今後のことについてエールと話し合った。

 冒険者クラン【神龍の巣シェンロン】を、王国一のクランにするために何をすべきか?


「テッペンを目指すために名前を売るってのはそうなんだけど、具体的にどうすればいいと思う?」


 エールが淹れたお茶を一口飲んで、俺は訊ねた。

 なにしろ、俺は冒険者になったばかりだ。

 ド素人もいいところだ。

 しかし、エールは冒険者としても、クランの運営に関しても大先輩なわけで。

 表向きは、俺がこのクランのリーダーだけれど実質的なリーダーはエールと言っていいだろう。


「そうですね。

 やはり、大きな依頼を達成していく、というのがいいかなと」


 もっと具体的なことを言ってしまえば、高額な依頼だ。

 国際指名手配されている賞金首を捕まえるだとか。

 災害級とされているモンスターを討伐するだとか。

 そんな依頼をこなして、知名度アップをしていくしかない。

 しかし、ある意味出来たてホヤホヤといっても過言ではない、【神龍の巣シェンロン】に、そんな依頼を回すだろうか?

 答えはNO。

 受付で、遠回しに別の依頼を勧められるのがオチだ。

 俺は、その考えを口にした。


「ですよねぇ」


 エールもその点は考えていたようだ。


「結局、地道にコツコツとやっていくしかないですね」


 ちなみに、個人の冒険者にもだが、クランにも格付けランクというものが存在しているらしい。

 依頼の達成率が多ければ多いほど、上位になるらしい。

 もちろん、高難度の依頼達成率も多ければそれだけランクは上になる。


 名前を売る。

 知名度を上げる。

 そうすれば、今は俺たち二人しかいないこのクランにも、人が集まって来るはずだ。


「それはそれとして、メンバー募集はしておきましょう。

 やはり人数も必要ですし」


「それな」


 俺は賛成した。

 もしかしたら、俺みたいにあちこちのクランをたらい回しにされてる人が、最後の藁として掴みに来るかもしれないからだ。

 とりあえず、当面の目標は決まった。

 あ、そうだ。


「そういえば、聞いておきたいんだけど」


「はい?」


「エールは、この新生【神龍の巣シェンロン】をどんなクランにしたい??」


「どんな??」


「そう、あるでしょ?

 こう、滅茶苦茶強いクランにしたい、とか。

 強きをくじき、弱いものを助けるクランにしたい、とか。

 そういうの」


「そう、ですね」


 むむむ、とエールは眉をよせて考えはじめた。

 そして、どこか懐かしそうに。


「お兄ちゃんが生きていた頃の、あんな優しい場所にしたいです」


 優しい場所。

 ちょっとふわっとしてるなぁ。


「それじゃ、聞かせて欲しい。

 お兄さんが創ったクラン、先代【神龍の巣シェンロン】はどんなクランだったのか?」


 そうして、色々話を聞いてわかったのは、エールのお兄さんはどうもヒトが良すぎた、ということだった。

 誰も彼もが断っていた割に合わない依頼を中心に、嫌な顔をせず受けていた。

 そのことが、エールの記憶の中には【優しい場所】として残っていたのだ。

 それが幸をそうしたのか、彼の周りにはいつしか仲間が集うようになっていたのだという。

 そして、気づけば王国一のクランとなっていた。

 最高であり、最強として先代【神龍の巣シェンロン】はテッペンに君臨していた。


「なるほど」


 ただテッペンを目指すだけじゃなく、そんなクランにするのも目標だな。


「難しいのはわかってるんです。

 私にはお兄ちゃんみたいな、誰かに慕われるような才能はないし。

 だから、誰もいなくなっちゃったんです。

 そして、人も集まらなかった」


「大丈夫大丈夫」


 急にエールが暗くなった。

 なので、俺は手をパタパタ振って続けた。


「結果なんて後からついてくる。

 まずは、先代のやっていたことを真似ていこう。

 知ってる?

 真似るは学ぶに通じてるんだ。

 なにもかも、全て新しく始めることはないと、俺は思う」


「はい!」


 俺が笑って言うと、エールも笑顔になった。

 うん、この子には笑顔がピッタリだ。



 今後の活動について、大体のことを決めた。

 当面は地道に仕事を受けて、アジトの維持費のためにエールがしていた借金を返済しなければならない。

 運営って金かかるよね。

 わかる。



 その後、俺とエールは冒険者ギルドへとやってきた。

 仕事を受けるためだ。


「それで、お兄さんは、どんな依頼を中心に受けてた?」


 依頼が張り出された掲示板。

 それを見ながら、俺はエールに訊ねた。

 しかし、エールはキョロキョロと周囲を見て落ち着かないようだった。


「どうした??」


「あ、その。

 なんか、見られてる感じが」


 言われて、俺も周囲をみた。

 たしかに、冒険者ギルド内にいた冒険者たちが、俺たちを見てコソコソとなにか話している。

 感じ悪いな。


「うん、見られてる。

 エール、なにか悪いことでもした??」


「し、してませんよ!」


 冗談で言ったら、エールがそう返してきた。


「知ってるよ。

 うん、これはエールのせいじゃない。

 多分、俺のせいだから。

 気にしない気にしない」


「え?」


 エールが、わけがわからないとばかりに疑問符を浮かべる。

 この空気を、俺はよく知っていた。

 俺の妹と弟をイジメた、歳上の不良集団を壊滅させたあと、世間から向けられた空気によく似ていたのだ。


「あ、これにしよう!

 ゴブリン退治、ちょうど相棒も使いたかっ」


 俺の言葉は途中で止まる。

 なぜなら、いきなりぶん殴られそうになったからだ。

 俺は、飛んできた拳を片手で受け止める。

 そして、殴ろうとしてきた相手を見た

 あっぶねぇ。

 エールも巻き添えくうところだっだぞ、これ。


「ウィンさん?!」


 エールから驚きの声があがった。

 それに構わず、俺は殴りかかってきた相手の拳をギリギリと握る。

 そして、


「ご挨拶にしては、些か乱暴ではないですか?」


 殴りかかってきた相手へ、俺はそんな言葉を投げた。

 それは、昨夜に続いてまたもガラの悪い男だった。

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