13. 陽光の下
[
家に帰るなり気絶するかのように眠っていた間も、目を覚ましてからも、ライブの余韻が身体を支配していた。腹の底に響く音たちが、この世で一番好きと言っても過言ではない声が、何をしていても私の中を巡る。
そして何より、
——表現とか、言葉の使い方とかが、本当に綺麗で。
その
昨夜入れなかった風呂から上がり、遅い朝食をとりながらスマホを眺める。窓の外では蝉がやかましく合唱している。
田端さんからは、
〈ライブ、ほんとによかったですね! 楽しめましたか?〉
とラインが来ていた。少し考えて、返信をする。
〈めちゃくちゃ楽しめました! 本当に行ってよかったです。ありがとうございます!〉
ラインを閉じ、ツイッターを開く。
〈ツアー完走です! 見に来てくれた人も、来られなかったけど応援してくれた人も、本当にありがとう〉
大学生の飲み会か、とツッコミたくなるような雰囲気のセルフィーが三枚と、昨日のホールで撮ったらしい、バンドメンバーの集合写真が一枚。迷いもなくすべての写真を保存し、いいねを押す。写真を「
もし私が、「
満面の笑みでピースサインを送る
スマホが震えて、
〈今スタジオに帰っているのですが、よるさん、お疲れのようです〉
車の後部座席で、
それにしても、なんともかわいい。思わず頬が緩み、私はもう一度動画を再生する。車窓に街並みが流れていく。前髪が目にかかり、顔はよく見えない。車の揺れに合わせて、
ふっと没入感のようなものを覚える。心地のよい疲労と切なさ、寂寥。
彼が昨日、アンコールの最後に流した涙の理由を想う。その涙を、私は知っていた。二年前、新人賞を取ったあの時に、私が流したものだった。
「そっか」
呟きが零れる。
私たちは、同じなのだ。
決して相容れないのだと思っていた。神に愛されているのは
アンコールのMCで話していたじゃないか。一度全てを失ったと。彼だって、悩み苦しみ抜いてあの舞台に立った。彼だって、神に愛されてなどいなかった。
私たちはどちらも、身一つで創作に挑んでいるのだ。
私はスマホを置き、カーテンを引く。真夏の陽光は重く、途方もなく眩しい。それを頭から浴び、私は笑うことができた。
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