ハイキング


 広がっているのはふもとの森や湖が一望できる景観だった。

 風で削られた雄大な岩肌が見え、遠くの空には白い鳥の群れが飛んでいる。

 絶景だな。


「ん~~~~、空気が美味しいわね」


 ぐぐっ、とサリアが伸びをする。

 すると普段は意識しないようにしている大きな胸が強調される。

 ……でかい。

 これはこれで絶景かもしれない。


「……ユークは大きい方が好き?」

「な、なんのことだルル」

「私はまだない……」


 ぺたぺたと自分の胸元を触りながら呟くルル。

 なんだかこの話題は掘り下げない方がいいような気もする。


 適当な岩に腰かけて魔法鞄からファラ特製の弁当を取り出すことに。

 籠を開ける。


「「「おお~~~~っ!」」」


 メニューはサンドイッチにフライドチキン、フライドポテト。

 魔法鞄には保温・保冷効果があるためフライドチキンやフライドポテトは揚げたてのように湯気が立っている。

 さっそく食べよう。

 サンドイッチをかじる。


「美味い……」


 葉野菜がしゃきしゃきといい音を立て、塩気の利いた生ハムとともに口の中に広がる。わずかに塗られたマスタードが味を単調にさせない。

 フライドチキンにはハーブで丁寧に下味がつけられていて、食べる手が止まらない。

 喉がかわいたので水筒の中身を飲むと、さわやかなレモン水がしみわたる。

 こちらも魔法鞄の保冷効果でキンキンに冷えていて最高だ。


「本当にファラには感謝しかないわ……冒険者やっててこんなに美味しいもの食べられることって普通ないわよ……」

「フルーツサンドもある。甘くておいしい」


 ルル用に甘いクリームとスライムベリーをたっぷり挟んだ特製フルーツサンドも入っている。

 個人の好みにまで合わせるとは、さすがファラだ。


 綺麗な空気の中、自然に囲まれて、仲間と美味しい弁当を食べる。

 これぞ山登りの醍醐味といえるだろう。

 なんだか冒険に来ていることを忘れてしまいそうだ。


 ――ちかっ


「……ん?」

「どうしたの、ユーク」

「いや、今向こうでなにか光ったような……気のせいか?」


 確かに青い光が見えた気がしたのに、今はもう見えなくなっている。

 なんだったんだ?


「光が見えたの?」

「ああ」

「何色?」

「青だったと思うが……それがどうかしたのか?」

「……」


 ルルが考え込むように静かになる。

 なんだよその反応、ちょっと恐くなるじゃないか。


「ん、気のせい。多分」

「そ、そうか」


 絶対に嘘としか思えないが、まあルルがそう言うなら気にしないでおくか。

 食事も済んだので山を下りる。

 その途中で、変な光景を見かけた。


『キュアア……』

『『『キィッ、キィイッ!』』』


 なんか魔物が仲間割れをしている。

 珍しいこともあるもんだな。

 しかも同じ種類なのに。 


「レッドバード……仲間割れなんて珍しいわね」


 争っているのは赤い羽根を持つ鳥の魔物だ。丸っこい体が特徴的で、触れると常にちょっと熱い。高山にしかいないので俺もあまり見たことはない。


 バシッ!


『『『ケェエエエエッ!』』』

『キュイィ……』


 翼で殴られて虐められているほうのレッドバードが転がってくる。

 ……ううむ。

 なんかかわいそうになってきた。

 仲間に捨てられるのはきつい。レイドたちに切り捨てられた俺にはよくわかる。


「そこまでにしてやれよ。こいつに戦意があるように見えるのか」

『『『……!』』』


 俺が間に入ると、虐めていたほうのレッドバードたちは大人しく去っていった。

 レッドバードはそこまで強い魔物ではないので、レベル差に気付いたのかもしれない。


「冒険者が魔物助けてどうするのよ……」

「ユークやっぱり変わってる」

「う、うるさいな」


 と、虐められていたほうのレッドバードが俺の足元にすり寄ってくる。


『きゅい、きゅいい』

「な、なんだよ、懐くなよ」


 なんか熱いし!

 というか魔物がこんな簡単に人にすり寄ることってあるのか?

 テイマーのジョブとかならともかく、俺は魔剣士だぞ。


 しゅわんっ。


 そんなことを考えていると、レッドバードが光に包まれた。

 まるで俺たちのステータス変化のときみたいだ。

 そしてレッドバードの姿が変わる。

 一回りでかくなってクッションくらいのサイズになった。

 それになんか頭に綺麗な冠みたいな毛が生えた。

 ……なにこれ?


 しゅわんっ。


 今度は俺のほうにステータス変化の光。

 なんだ? なにが起こってるんだ?


「……! ユーク、ステータス見せて」

「な、なんだよ」

「いいから」


 ルルが慌てたように言ってくるので、ギルドカードにステータスを転写してみんなに見せる。



ユーク・ノルド

種族:人間

年齢:18

ジョブ:魔剣士(光)

レベル:60

スキル

【身体強化】Lv8

【魔力強化】Lv6

【持久力強化】Lv5

【忍耐】Lv4

【近接魔術】Lv10

【気配感知】Lv3

【跳躍】Lv3

【見切り】Lv2

【加速】Lv2

【精密斬撃】Lv1

【聖獣化】

・スザクLv1/【自在召喚】【火炎吐息】【火炎耐性】



「やっぱり……」

「ルル、なにか知ってるのか?」

「その鳥、ユークの使い魔になった。聖獣は特別な存在で、神に選ばれた者だけ【聖獣化】のスキルを使える。……本来は、神託の勇者しか使えないはずのスキル」


 ……はい?

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