夜明け

 その夜、魔女グルトからカルナに、“魔法回廊鍵”を渡すようせがまれた。希星魔女院の高等研修生しか、魔法回廊鍵はもっていない。魔法回廊鍵は異次元にある魔女界と人間界とをつなぐパスポート券“魔法のドア”だ。一日一回しかつかえず、貴重な代物である。カルナはジャージのポケットに手を突っ込んだ。

「貸してくれ」

「なぜ?」

「“ソレ”が偽物でないか試す、私が明日恨みを晴らす人間をつれてくるんだ、お前には関係ない」

「ちょっとまって……」

 カルナには考えがあった。いや、考えなどないから、こんな無茶をしているのかもしれないが。カルナはメモを取り出し何かをかきこんだ。

 「それならひとつ条件がある……私もつれていって」

 カルナはグルトの目をまっすぐみて、訴えかけるようにしてみせた。

 「いいだろう、余計な事はするなよ」

 魔女グルトはそういって、しばらくすると魔法回廊鍵で空を立てにひっかくようにして、こう呪文をとなえた。

 「マホロフロノス」

 「……やっぱり、ゲートを開く呪文をしっている、あなたエリートだったのね」

 「ふん、関係ない」

 次の瞬間、何もない宙に空間の裂け目ができた。

 「“どこ”とつなげたの?」

 「私の生家だ」

 「……」

 魔法のゲートをくぐるグルトとその後を追うカルナ、その向こうには、グルトの言葉通り、平凡な一軒家とのどかな田舎の景色が広がるばかりだった。

 「ここでまっていろ……」

 そういって、グルトは家のほうにむかっていた。10分、20分たっても何もなく、心配していたカルナだったが、しばらくすると後ろでに縄でしばりつけられ、口も、顔も隠された男女がでてきた。

女  「なにを、あなた何を!!誰なの!!」

男  「金ならいくらでも!!」

グルト 「黙ってろ、このクソ野郎ども」

  その様子に少し動揺したカルナは、グルトに尋ねた。

カルナ 「それは誰なの?」

グルト 「私の家族だ、父と母だよ」

男女 「!!??」

 しばらくすると、彼らをつれて人間界に戻るというので、グルトの後を追うといって、カルナはグルトにyる二人男女のつれさりの様子を、苦悶の表情で見送った。グルトがゲートをくぐったのを確認すると、カルナはメモを取り出し、くしゃくしゃにまるめて、ゲートを開いた場所においておいた。グルトはしらなかった。魔法回廊鍵はかつて、“使っても痕跡が残らない魔法のアイテム”とされていたが、昨今、セキュリティ強化のためわざと魔法鍵には痕跡が残るようになったのだ。それに、エージェントと連絡を取らない行き来も普段はない、だからこの痕跡を追って、調査が入るに違いない。その時先ほどまるめた紙が役にたつだろう。カルナはそう考えたのだった。


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