第5話

 ある日の朝高校の廊下で、デザ・ロアが一人の少女とすれ違う。

 「ねえ、最近元気なさそうだけど大丈夫?」

 「ああ、わかる?」

 「少しなら時間あるよ、話きこうか?」

 「ああ、実は」

 彼女は幼馴染のリサ。デザ・ロアの思い人でありトールズが気にかけて何度もしつこく誘っている美少女。青い瞳と透き通るような肌と黒いまっすぐストレートロングの髪、おしゃれな女の子。デザと少女は頭がよく優秀な生徒が集うこのミッドディア高校に進学した。かつてトールズとデザ・ロア、リサは同じ中学に通っていたのだったが。

 デザ・ロアはこの時ここ最近起きていることをすべて話した。あまりよくないらしいのだが、護衛魔女がついたことも、しゃべってはいけないという義務はない。それに護衛魔女もとても頼りがないから、つい喋ってしまった。リサはまっすぐな目で心配そうにこちらを見つめ返してくれた。それだけでありがたかった。


 デザ・ロアはリサの純真を信じていた。彼女はよく裏表があると噂されるが、美人にはつきもののうわさだ。そうして話を聞いたあとじゃあ、といってふりかえり別々の道をいく。その瞬間リサは誰もいないのを確認して、ガッツポーズをしてにやりと不気味に笑った。


 翌日。朝からそわそわしていた。昨日はちゃんと眠れた記憶もないし、何度も起きては寝て起きては寝てを繰り返していた気がする。護衛魔女もお灸をすえたのでまともに自分と関わろうとしなかった。それはそれでもし「魔法災害」が起きたときにどうすればいいか、不安は残ったが、それよりも日常を誰かに監視されるストレスのほうが彼にとっては苦だった。


 朝、普通に登校してホームルーム。


 その頃、別の場所で、暗がりの一室で魔女が何か粉の薬剤らしきものをまぜて、水晶に向かって独り言を言い放っていた。水晶の中には、デザ・ロアの教室。魔女はいった。

 「今日はよく眠れたようだねえ、アハハハ、ケケケ」


 午後になり昼食の段になる。学校の人々が皆一番リラックスしているであろう時間帯。その瞬間に異変はおきた。

 「皆、外を見て!!」

 校庭のグラウンドに、魔法陣らしきものがかかれている。一瞬デザロアは、カルナが何かいたずらをしに来たのだと思い毒を吐いた。

 「あいつ、学校まで何しにきやがった、暇人め!」

 だが窓際に近づき、外を見おろした瞬間、それは決してカルナではないと理解できた。頭の中に“魔女”の姿が思い浮かぶ、ぼさぼさ頭のするどく吊り上がった目、ひからびたような顔、真っ青に不安を感じさせるような肌色。

 「カルナじゃ……ない?」


 魔女は魔法陣を書き終えると、ホウキをとりだし、空中にとびあがる。そしてデザロアの教室の窓際にくると。何事か、呪文を唱えた。

 「ビブ~……ブブル……ビブルブル」

 魔女の言葉は微妙な振動をともない人間に聞きとれないような言語を形づくるという。呪文が唱えられたあと、ハリケーンのような風が教室の壁際から発生し、教室の軽いものをまきとり、窓ガラスをやぶりそれらを外に放りだされた。

  

 耐えきれず、デザロアは叫んだ。

 「くそ、もうきたのか、魔法災害!!!」  

 (このままじゃ、皆ハリケーンみたいにふきとばされる)

 魔女は窓際からにやにやとわらい、そして彼をみつけると、叫ぶように訴えかけた。壊れた窓のそとから、中空に浮かぶ魔女が大きな口を開いていた。

 「忘れたのかい!!デザ・ロア!!魔女の前で因果を考えると魔法の糧になるって」

 「やめ、やめてくれ、この風をとめてくれ、なんで俺がこんな目に!!」

 窓際に吸い込まれるデザ。やがてたえきれずふきとび、窓の冊子に両手足をかけ、外に飛ばないようにだけ必死でねばった。しかし魔女の笑い声が響き、耐えきれずついに、あの名を叫んだ。

 「カルナ!!何をしている!!」

 意識がふっととだえ、空中に吐き出された瞬間。その一瞬、五感と三半規管の狂いが逆転し、現実に戻った。布団をはいで、体がびっしょりと濡れていることに気づいた。そう、夢だったのだ。

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