第14話 その後


「ちょっといい?」


 昼休み。俺が図書館でラノベを読む最中、末石が控えめに声を掛けてきた。図書館の中であるため、声も抑え気味だった。


「どうしたの?」


 俺は本から末石さんに視線を移した。


 末石さんは俺の向かいの席に座った。


「どうしたのじゃないわよ。あのボイスレコーダーどうしたのよ?」


 末石さんは前のめりの姿勢でそう問い掛ける。事の事実について非常に気になっている様子だった。


「ああっ。あのボイスレコーダーね。それなら、末石さんのものともう1つのボイスレコーダーの2つを合わせて担任の先生に提出したよ」


 周囲には誰もいないため、内容を盗み聞きされる心配はない。現在、図書館に身を置くのは俺と末石さん、常にカウンターに座る職員の方だけだ。


「提出した!本当に?」


 末石さんは目を見開き、大きな声を漏らした。非常にびっくりしたみたいだ。


「静かに!図書館だよ!!」


 俺は口元の手前に人差し指を置いて、末石さんをたしなめた。だが、気持ちはわからなくもない。


 先ほどの末石さんの声に反応して、職員の方は怪訝な表情でこちらを見ている。


 末石さんは事態を把握すると、申し訳なさそうに職員の方に頭を下げた。


「だから、松本が教員に説教されていたのね」


 末石さんは先ほどよりも2段階声のトーンを落とした。


「見たんだ?その通りだよ。それで自然と松本の悪行が1年生の生徒に共有されたんだろうね」


 俺は再び、本に視線を戻した。


 ちなみに、最近、松本は学校に登校していない。それには理由がある。同級生に暴力を振るったり、末石さんを脅した事実が学年中に知れ渡り、白い目で見られたため、耐えられなかったのだろう。そのため、奴はいま不登校である。


「ふ〜ん。すべてあなたが仕組んだ通りになったわけね」


 末石さんはジト目をキープしながら、頬杖をついた。


「そんなことは1言も口にしてないんだけどなー」


 俺は敢えておどけて見せた。


「確かにね。でも、顔にそう書いてるわよ。明瞭にね」


 末石さんはビシッと俺の顔を指差した。その動きは高速だった。


「うぉっと・・・」


 俺は突然の末石さんの行動に驚き、わずかに身体を仰反った。


 キーンコーンカーンコーン。


 末石さんとやりとりをしていると、チャイムが鳴った。昼休みの終了の合図だ。


「ちょっとやばいね。このままだと送れちゃうよ?」


 俺は末石さんを急かすために、そんな言葉を投げ掛けた。反応はどうだろうか?


「確かにやばい」


 末石さんは素早くイスから立ち上がり、早歩きで出口へと向かってしまった。


 案外、色々と気にするだなと感じながら、俺も末石さんの後を追った。

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