洛楽倶楽部!〜京都のボッチ大学生が学生生活を彩るために京都を堪能するサークルを作ってみます〜
大原銀杏
第1話 ひとりぼっち
千年の都、京都。この場所は、東京に遷都するまで、長きに渡り政治・文化の中心地であった。今でもその残り香は色濃く香り、古く美しき日本に思いを馳せることができるとして、日本人のみならず海外からも愛されている一大観光地である。
実は、この京都という都市にはもう一つの顔がある。それは学問の都という一面だ。現在、30を超える大学がここを拠点とし、日々研究や講義を続けている。ともすれば、学生の数も多いわけである。おそらく、街で小銭を落とせば、必ずどこかしらの大学の学生が拾ってくれるだろう。
そんな学問の都の北側を本拠地とし、関西のトップ私大の一角を担う
「ちくしょう……こんなはずじゃなかったのに」
本を開く音にすらかき消されてしまうほどのか細い声でぼやく。この春2回生になったトオルであるが、彼には友人が1人もいない。そんな彼の大学1回生時の生活は、講義を受けるときもボッチ、学食で昼食をとるときもボッチ、空きコマも帰宅もテスト勉強もボッチボッチボッチというあまりに悲惨なものであった。
頭を抱えていた両手を顎に移動させ、鼻でため息をつく。
友達とは黙っていてもできるものではなかっただろうか。小中高では普通に友達がいた、というか、いわゆる1軍のグループに属しているタイプでもあった。それなのに大学では全くできない。今まで友達作りで悩んだことも努力したこともなかったのに、大学生になった今では非常に困難な課題となってしまっている。誰かが話しかけてくれるのを待ち続け、何にも縛られたくないという理由でサークルにも入らなかった結果が、この無様な今の姿なのだ。
顔を上げ、周囲を見渡す。図書館で勉強をしている人は皆ボッチに見えるが、実はそうではない。友達と横に並んで座り、勉強をコソコソと教え合ったり、待ち合わせとして図書館を利用しているだけであったり、友達が講義を受けている間の時間潰しをしていたりと、利用者のどこかしらに友人の影が見える。トオルのような正真正銘の孤独の者は利用者の1割程度ではなかろうか。なんだか、お前がここにいるのは場違いだと言われているような気分になったトオルは、大学を出てどこかに気分転換しに行くことにした。
図書館を出て左に折れ、正門を目指す。イチョウが縦に並び、綺麗に舗装された正門までの道は、まさに輝かしい生活を送る学生のためのランウェイだ。すれ違う誰もがその隣にいる誰かと会話に花を咲かせている。トオルはなるべく存在を認知されないよう下を向き、少し早足で歩き去っていく。
正門を出る途中でふと気がつく。京都に住んで1年経つトオルだが、神社仏閣に行ったことがほとんどない。この1年で行った寺社と言えば清水寺と北野天満宮くらいなものだ。山梨県出身のトオルであるが、別に京都が好きだったわけでも、神社仏閣に興味があったわけでもない。さらに言えば、1人で観光名所に赴くということをひどく虚しいものであると思っている節があった。こうしたトオルのひねくれた考えが、彼から観光地京都を堪能するという行為を遠ざけていた。
右ポケットから冷えたスマホを取り出す。せっかく京都に来たからには神社仏閣には行っておくべきであろう。それに、静謐な空間に飛び込めば良い気分転換になるかもしれない。そう思い立ったトオルは、検索エンジンを起動させ、【近くの寺】と打ち込む。
「あ、この寺ってこんな近くにあったのか」
検索結果の1番上に、京都音痴のトオルでもなんとなく知っている寺の名前が表示された。過度な装飾もなく、自然と調和した白い庭を持つこの寺ならば、湿気た、それでいて、瞬時に熱くなり干上がりそうな今の心を落ち着けることができるかもしれない。
ほんのりと温かくなったスマホをポケットに仕舞ったトオルは、正門を左に曲がり、
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