第2話 大学クラウドファンディング

 国葬クラウドファンディングをきっかけに日本の指導者となった谷田部健一は、自らの政策にもクラウドファンディングを次々に導入していった。


 彼は日本の財政危機を打破すべく全ての国民にとって必要とは言えないものは原則としてクラウドファンディングで行うべきと主張し、オリンピックを含めた国際的なスポーツ大会、伝統芸能の支援、戦没者慰霊事業などは今後全てクラウドファンディングで予算をまかなうと発表した。


 それぞれのイベントや事業の関係者からは当然反発が生じたが、谷田部首相は特定のイベントや事業を例外とすることなく改革を断行し、血税を投入せずとも支援者の多いイベントや事業にはクラウドファンディングで資金が集まることから改革による社会への影響も限定的だった。



 谷田部健一の首相就任から3年が経ち、42歳になった私は母校である都内の私立大学の同窓会に足を運んでいた。


「鈴木、お前この歳で大学教授になったんだって? すごいよな、俺なんてまだ刑務官なんてやってるのに」

「何言ってんだよ、この時代に国家公務員がそんなこと言うもんじゃない。大体ヤタベノミクスのせいで、俺の大学はあと10年もすればなくなってるよ」

「どういうことだ?」


 大学のゼミ仲間だった同期は昨年度から地方公立大学の社会学部の教授を務めていたが、谷田部首相の経済改革であるヤタベノミクスの影響で大学自体がなくなるという。


「谷田部首相は全ての国民に成果を還元していない大学には国公立でも補助金を打ち切るって表明して、俺の大学がまさにそれなんだ。国立ならともかく、ど田舎にある地方公立大学は今や生き残りに必死だよ。私立の2大学と合併してもクラウドファンディングでやっていけるかどうか。俺も公務員になればよかったって今更ながら思うんだ」

「そうか……」


 同期が教授を務めていた大学は確かに東北の無名な公立大学だったが、大学もまたクラウドファンディングの対象になっているという話に私は驚いていた。


 それでも超高齢国家となった日本という国が生き残るには無駄な予算を削っていく他はなく、各方面の既得権益層から反発を受けつつも改革を断行する谷田部首相のことを私は支持し続けていた。



 それから7年が過ぎ、第三次谷田部健一政権が始まるまでは。

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