第16話 たぬき

 このお話も、遙か昔の出来事に始まり、段々と現在に近づいてきている。現在に追いついたところで、終わりにする予定ではある。


 ここで一旦五年ほど過去に遡って、猫の集会所(私の家の一番前の部屋)に集まった猫たちの中で、特に印象的だった猫の話をしよう。


 最初にその猫を見たときは、集会所にタヌキが入ってきたかと思った。体が大きくて尻尾も太く、毛が長めで全身がなんだかモコモコしている。


 その猫は、初めて会ったときは私を見て逃げて行った。でも集会所にカリカリフードが置いてあるのを知ったので、その後何度もやって来た。そのうちに、私を見ても逃げなくなった。


 私はその猫を『たぬき』と呼んだ。まあ私の命名センスからして、当然の帰結だろう。


 『たぬき』はその図体の大きさから、ほかのオス猫から恐れられ、距離を置かれていた。だが『たぬき』は、自分から喧嘩を仕掛けることはなかった。

 これがボス猫の風格なのかもしれない。


 『たぬき』の年齢は不明だったが、時が経つにつれ、だんだん毛並みが悪くなっていった。もしかしたら老猫だったのかもしれない。

 冬の間、『たぬき』は頻繁に集会所に来ていた。やがて『たぬき』は、私からソフトフードをもらうようになるまで慣れていった。




 何だろう、今日はちっとも筆が進まない(いや、パソコン使ってるんですが)。ここまで書くのに、もの凄く時間がかかっている。文章を打ち込んでは消し、打ち込んでは消し、さっぱり前に進まない。

 本当は書きたくないのかもしれない。でも、もう少し頑張ろう。




 春になり、『たぬき』は姿を見せない日も多くなった。オス猫だからしょうがない。でも、次に来たときには、「無事だったか」とホッとした。


 その『たぬき』が、とうとう二週間も姿を見せなくなった。でも、今までもこうして消えていった猫は多い。『たぬき』もそのうちの一匹になっただけだ。

 私はそう思うことにした。


 ところがある朝、『たぬき』が集会所に来ていた。何だか様子がおかしい。ヨレヨレというか、フラフラというか、普通に立っていられないような状態だった。

 よく観察してみたが、足が折れているわけではないようだ。何だろう、この泥酔しているような歩き方は?


 とりあえず私は『たぬき』にソフトフードをあげたが、できることならすぐに病院へ連れて行きたかった。


 だがその当時、私は管理職とヒラ職員を兼ねていて、しかも毎日何らかの締め切りに追われ、休むこともままならない状態だった。確か、年次休暇の消化が年間二日か三日とかいう年だった。それも、法事かなんかの理由で休んだのだったと思う。


 おそらくこの状態では、『たぬき』は集会所から出て行くことはできないだろう。だから仕事が終わったら、必ず病院に連れて行こう。そう決心して私は家を出た。



 帰ってきたとき、『たぬき』は集会所からいなくなっていた。

 私は近辺を探し回ったが、『たぬき』はとうとう見つからなかった。



 都合の良い考えだというのはわかっている。それでも私は、『たぬき』が最期の挨拶に来たような気がしてならなかった。



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 『たぬき』が来たばかりの頃の写真がありましたので、近況ノートにアップしました。

   ↓

https://kakuyomu.jp/users/windrain/news/16817330648405992035

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