第9話
少々、余談を行いたい。
以前、便宜的に説明したトリニティ・カレッジについてもう少しだけ説明したい。
以前説明したと思うが、
とはいえ、実際の所、利益をまかなえている
トリニティ・カレッジも例外ではなく、その研究は、今のところ特筆すべき『富』を生み出せてはいない。
シメオンの気象予報により『恐怖』は生み出せたが……。
しかし、トリニティ・カレッジは、しっかりと独立採算を行い、研究に充てる予算も充分に確保をできている。
何故か?
それは、生徒たちが学費を納めているからだ。
なお学費は生徒の自出によって差がある。
北方の辺境伯領内、オタベ卿の五男であるアンディシュは年に金貨六十枚を納める相応の上客であるし、〝
そして、学費を納めているのは、ナスカやシメオンのような、平民であっても例外ではない。
とはいえ、平民から学費は微々たるものだ(平民にとってはけっこうな額だが)。
大学に通う平民は、それこそナスカやシメオンのような特別な才能があるほんの一握りの例外だが、爵位を持つ家柄は違う。
長男以外の男子を積極的に大学に通わせ、こぞって多額の授業料を納めている。
教会や、政為者などの有力者とのコネクションをつなぐためだ。
同時に、
そして、もし、研究の成果が実り『富』を生み出すことが出来たならば、その利得権益は莫大なものになる。
話がそれた。
要するに、だ。多額の授業料を支払う、良いとこのお坊ちゃまが、
そう、余程の事をしでかさなければ。
今回は、その余程の事をしでかした、大馬鹿者。マシューについて話しておきたいと思う。
この大馬鹿者は、学友のレポートを盗み出し、金銭と引き換えに横流しした罪を問われ、トリニティ・カレッジから永久追放された。
報酬は、銀貨十枚~三十枚ほど。本人は、ちょっとしたお小遣いかせぎのつもりであったのだが、この大馬鹿者の盗んだレポートの中に、シメオンが書いた寒冷化のレポートがまざっていたのが運のつきだった。
シメオンのレポートは、丁度その頃発明された印刷と言う技術と、新聞というメディアによって、瞬く間に広がっていった。そして民衆は恐怖の波に飲み込まれていった。
民衆は、未曽有の危機に備えるのではなく、その恐怖の矛先を他の人間へとなすりつけた。これにより、罪のない人々がいわれない理由で、悪魔に魂を売った魔女にしたてあげられ、火刑へとかけられることになる。
俗に言う〝魔女狩り〟だ。
此度の寒冷化騒動で、冤罪であるにもかかわらず、火刑にかけられた魔女は、〝
しかし、その発端を作ったマシューは、全くもって反省をしていなかった。
そもそも火刑にかけられたのは、平民の、しかも賤業につくものばかりだ。
そんなやつらが死んだところでどうしたというのだ??
それよりも! この!! 俺様が!!! 受けた屈辱!!!!
誉れ高き爵位を持つ血筋の俺が、トリニティ・カレッジに、金貨弐百枚を納めていた俺が破門にされたんだ!!
苛立ったマシューは、飲んで売って買って、荒れに荒れた。
そして、自分の破門のきっかけを作ったシメオンを恨んでいた。
平民の分際で、この俺を破門に追い込みやがって!
しかも民衆どもをあんな大混乱に陥れた張本人にも関わらず、火刑にもかけられず、ぬけぬけとトリニティ・カレッジに戻っただなんて!!
おもしろくない! ああ、おもしろくない!!
おもしろくないと言えば、あのチビ助オンナのナスカもおもしろくない。
あのオンナからくすねたレポートは、荒唐無稽がすぎると新聞社にせせら笑われた。
降霊の術?
四百年先の異世界の魂を召喚する??
バカバカしい!!
バカバカしいとは思ったが、暇つぶしにはなるだろう。
もしこの術が本当なら、〝
〝ちょんまげ〟とやらを結っている、不可思議な民族を、酒の肴におちょくってやろう。
マシューは冗談半分でナスカのレポート通り魔法円を描き、その中に入って降霊の術を行った。そして、身体を乗っ取られた。
マシューは本当に馬鹿だった。
ナスカのレポートにはハッキリと、魔法陣と書かれてあったにも関わらず、おろかなマシューは、異世界の日本人に身体をのっとられた。
魔法円と魔法陣は、全くの別物だ。
魔法円は、西洋の黒魔術。その円に入り、召喚した魂や悪魔から自分の身を護る。
対して魔法陣は、東洋の陰陽術。その陣から魂や精霊を呼び出して使役する。
マシューは本当に馬鹿だった。
自分の身を護るつもりで、魔法陣に入り、四百年先の異世界の人間……レタスの輸送トラック運転手の魂に、その体をうっかり乗っ取られてしまったのだ。
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