第16話「防犯装置付コンクリート倉庫」
お昼になるだろうかという頃にシャーリーが部屋からドタバタと出てきた。手にはしっかりと貼り紙を持っているので何か思いついたということなのだろう。
「お兄ちゃん! 画期的な売り方を考えました! これを読んでください」
「何だよ画期的な売り方って……見せてくれ」
「どうぞ」
差し出された紙には『防犯機能付コンクリート倉庫! 頑強! 堅牢な倉庫をあなたに!』と書かれていた。
「なるほど、コンクリートと組み合わせて考えたのか」
「はい! お兄ちゃんの作ったコンクリート製の建物なら安心感が違います。その上防犯装置付ですよ? これはもう売れるしかないでしょう?」
なかなか良いところに目をつけている。コンクリートなら木造と違って燃えないので貴重品を保管するのに向いている、その上防犯も完璧なら文句のつけようがないだろう。
「確かに売れそうだな。なかなか良いところを考えていると思う」
「ですよね! これは結構儲かると思いますよ!」
ただ、俺が気になったことについて訊ねてみた。
「価格が書かれてないようだが……いくらにするんだ?」
シャーリーはいいところに気が付きましたねという顔をして答える。
「価格は建物の規模に合わせて応相談です! 大豪邸につける時と細かいどうでもいいような建物につけるのとでは違って当然でしょう?」
「それもそうだな、建物に付けるものなのだからそれに価格が引っ張られるのは当然か」
うんうんとシャーリーは頷いている。我が意を得たりという顔をしていた。
「そうです! お金持ちの訴求するのです! コンクリート製の建物を注文してくれる人はお金を持っているはずです、そこを狙います」
金持ち相手の商売か、今までもそうだったが今回の売り物はかなり高額になりそうだな。金持ちでもないと守る資産がないから当然の話なのかもしれない。
「では貼ってきますね!」
そう言って急いで玄関を出るシャーリー。新サービスも出来たことだし、また何か金になりそうな匂いがするな。防犯設備はどこまで作れるのだろうか?
自分の部屋に戻って防犯設備を色々作ってみた。
粘着スライムや防犯ライト、アラームのような比較的穏健なものから、自動発射式ボウガン、機密保持用爆破装置まで物騒なものを作ることが可能になっていた。また、侵入自体を妨害するために鍵や手をあてる認証装置、カメラに向くと認証される特殊鍵などの様々なものが作れるようになっていた。
シャーリーが引っかかったら大変なので防犯設備を全て無効にしておいた。どうやら防犯にはオーバースペックなほどの設備を売れるようになったようだ。
「お兄ちゃん貼ってきましたよ……ってなんですかこれは!?」
数々の防犯装置に驚くシャーリー。無理もないなと思った。個人の部屋にこんな数の防犯設備を付けるなんて無駄が過ぎる。なにより無効化しているとはいえボウガンや自爆装置は物騒すぎる。
『防犯設備を破棄します』
パラパラと壊れていき空気に混じって消えていく。これはどんな仕組みで作られているのか知らないが、ものをゼロから作る魔法なんて結構レアなものだぞ。
「相変わらず馬鹿げたスキルですね……壊すのも作るのも自由ですか」
「ああ、殺意高めの防犯設備も作れるみたいだ。正直言って怖いまである」
「私が下手にお兄ちゃんに夜這いをかけたら殺しにか買ってくるようなものもあるんですか……」
まず夜這いをかけないという選択をして欲しいと殊に思う。常識的な行動をしていれば危険は無いのが防犯設備だぞ。リスクを取るというのは無駄に危険なだけのところへ突っ込むということとは違う、そのはずだ。
「まあこの部屋の防犯装置は破棄したから安心しろ、でも夜這いはやめろ」
「お兄ちゃん的にはウェルカムじゃないんですか!?」
「誰がいつそんなことを言ったのかお前の記憶を覗いてみたいよ」
都合のいいことを捏造する力に欠けてはシャーリーの右に出る者がいない。楽観論者だが実際それで上手くいっているので、俺も強く言うことが出来ない。
「とりあえずキッチンに行くか」
「そうですね」
この部屋をじっくり観察しているシャーリーに危機感を覚え場所をキッチンに移した。部屋の構造を記憶に残しておこうという鋭い目には恐怖さえ感じた。
「さて、防犯設備ですが、売れませんかねえ……」
「建物とセットならすぐには無理だろ。じっくり待つ商品なんじゃねえの?」
貼り紙を見て『そうだ、家建てよう』と思う人はいないだろうと思う、そんなことを考えるのは大富豪だけだ。家を建てるのに決心と土地が必要なのは言うまでもないので年に一件でも注文が入れば儲けものではないだろうか。
「私はすぐにお金が欲しいんですよ!」
「そんなことを言われてもな……俺だって何でも作れるわけじゃないからな」
「お兄ちゃんは何で万物創造のスキルをもらわなかったんですか!」
「それは八つ当たりだぞ、都合よくそんな激レアスキルがもらえるわけないだろ。というかそんなスキルがあることすら知らないし聞いたことも見たこともない」
「お兄ちゃんは正論で妹を殴って楽しいですか? 正論なんて言われても反論のしようがないじゃないですか! 私はお兄ちゃんの甘い言葉を所望しているのですよ!」
「そら正論は反論出来ないからな。お前がいつも暴論を突っ込んでくるからたまには正論を言ってみただけだよ」
「「……」」
静かな部屋で何事もなく時間が過ぎていった。少し喧嘩のようになってしまったが、当の妹は俺の方をじっと見つめていた。何か反論の種でも探しているのだろうか?
「お兄ちゃん、今日の晩ご飯は新しいものが作れるようになった記念に少し豪華にしますね」
「大丈夫か? 金は無限にあるわけじゃ……」
「大丈夫ですよ、そのくらいの資金は余裕です! ただまあ美味しいご飯を作ったら私を褒めてほしいものですね!」
「大いに褒めてやるから美味しいのを頼むぞ」
「任せてください!」
シャーリーは自信満々に晩ご飯の材料を買いに出ていった。俺は窓から道行く人を見ていると、時々足を止めて貼り紙を見て行く人が割といたので、案外金には困らないのかもしれないなと、まだ手に入れたでもない収入に期待を持つことが出来た。
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