第10話 天使で悪魔
私はアリサちゃんと一緒にタクト先輩の家に来ていた。
話によると、タクト先輩はしばらく家に帰っていないとの事だった。
タクト先輩の家に押しかけたのは3日前。それからは仕事に忙殺され、ご飯を一度も作りに行けていない。
あのあとすぐに家から出たとして最大三日家に帰っていないという事かな?
「本当だ。先輩いないみたい」
ドアをノックしても反応がない。
「開けますね」
アリサちゃんはそういうと、慣れた手つきでタクト先輩の家のドアをピッキングした。
「ちょ、ちょっと。アリサちゃん!」
「え?どうかしました?」
「いや、えっと。ピッキングは流石に……」
「兄様の家に妹が入るのは普通のことですので、問題ありませんよ」
そう言ってにっこり笑う。その顔は天使そのものだ。
あれ、まぁ大丈夫……なのかな?
「開きました。兄様の靴とマントがありません。マントを着ているってことは遠出してますね」
「ところでアリサちゃん。何でタクト先輩がいないって気がついたの」
そういうとアリサちゃんは部屋に飾ってある木彫りの人形を指差した。
「あれ、私が8歳の時、兄が鷹の爪で働くことになるっていうから作ってプレゼントしたんですよ」
可愛い木彫りだ。
アリサちゃんとタクト先輩かな?
幼い女の子が男の人に寄り添っている木彫り人形だ。
8歳が作ったにしてはクオリティが高い。
「あのアリサ人形を兄様が見つめると、私の所持している水晶に見ていた時間と回数の通知が来ます。その通知がしばらくきていませんでした」
「へ?」
あれ、なんだ?聞き間違いかな?
「あとあれ」
「オルゴール、だよね」
「オルゴールに見せかけた集音器です。これも私がプレゼントしたもので、兄様を盗聴していました。何の音も拾わなくなったので、流石にそれは異常かと思って……」
「え?盗聴?盗聴?」
「はい、妹が兄の生活音を聞くのは普通のことですよね?」
ちょっとやばいよこの子!
というか盗聴?
ってことは私が家にきた時の事聞かれてた!?
「あのー、盗聴って事は……」
「あーやっぱり壊れてる。最近ノイズだらけでほとんど聞こえなかったんですよね。あとで修理しなきゃ」
危なかった!
あの日の音声聞かれていたらきっとやばかった気がする!
アリサちゃんはタクト先輩の家にあるコップを新品と入れ替え、古いものを自分のバックにしまっている。
「な、何してるの?」
「え?これですか?兄様って家のものとか買い替えたりしないから、ほっといたらボロボロになるまで使ってるんですよ。だから私が定期的に新品と入れ替えてるんですよ」
そう言ってフフフと笑っている。
「ふ、古いやつは、どうするんですか?」
「フフフ、フフフフフフフ」
これ以上は聞かないでおこう。
「あ、兄様のお風呂場も見ておかなくちゃ!」
「ちょ、ちょっと待ったぁー!!!」
お風呂はまずい!私の髪の毛とか落ちてるかも!
もし私がタクト先輩の家のお風呂に入ったなんて知られたら……非常にまずい気がする。
「……そうですね。まずは兄様がどこにいるのか突き止めて無事を確かめるのが先決ですよね」
何だろう。命拾いした気がする。
私は急かすように、アリサちゃんをタクト先輩の家から追い出した。
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