ギルドをクビになり、俺は無職になりました

唐土唐助

第1話 これが大企業の現実ってマジですか?

 就職したい組織10年連続第一位の超大手冒険者ギルド『鷹の爪』


 そこに新卒採用、しかも本部勤務を命じられた俺は、その日幸せの絶頂であった。


 「よっしゃぁぁぁぁ!勝ち組確定!ホワイト企業万歳!残業なんてクソくらえだ!」


 「やったね、タクトおにいちゃん」


 義理の妹であるアリサもめちゃくちゃ喜んでくれている。

 

 8歳になる義理の妹アリサちゃん!目に入れても痛くないほどの俺の可愛い妹!

アリサにだけは辛い思いはさせない。

 

 「毎月たくさん仕送りするからな。学費の事は心配するなよ!」

 

 年の離れた妹アリサには、魔法の才能がある。絶対に名門の魔法学校に行かせてやる!そのために良い就職先!と努力を続けた結果が、ついに実を結んだのだ!


 ここから俺のサクセスストーリーが始まるのだ!



 10年後


 「タクト!明後日本部でプレゼンやる魔石節約対策の会議資料はできてる?」


 「とっくだよ。早く持ってって!」


 「タクト!冒険者がケガした!」


 「すぐここ運んで!回復術式作っとくから!」


 「タクト!南の洞窟の魔物の動きが活発化してる件について……」


 「もうゴーレム送って調査してる。今視覚情報共有してるからすぐに……あぁ、ケガしたドラゴンが住み着いているよ。誰かドラゴン言語分かる奴うちにいる?」


 「本部ならまだしも、うちみたいな弱小地方勤務でドラゴン言語話せるのなんて、普通いないわ!うちは奇跡的に2人もいるけど、2人の内1人は部長で今出張中」


 「そしてあと1人は俺、というわけか……。わかったよ、後で行ってくる」


 大手ギルドの『鷹の爪』はホワイト企業で残業もない。


 そんな風に思っていた時期が俺にもありました。


 俺は新卒で『鷹の爪』の本部に配属された後、新人研修をたったの3日で済まされ、すぐに激務の日々に堕とされたのであった。


 そしてある出来事がきっかけで上司と喧嘩して本部から左遷。


 今はこの小さな田舎ギルドの平職員として休みなく働く日々だ。


 まぁ大手だけあって給料だけはいい。それだけが救い。


 おかげで妹のアリサはこの国一番の魔法大学校に入学することができ、今年卒業も決まっている。


 卒論は「治癒魔法の疲労回復の効果と効率について」とのこと。


 お兄ちゃんを少しでも癒すために回復魔法を重点的に学びたいと言ってたからな、アリサ。可愛すぎるだろ!大きくなっても天使とか、うちの妹本物の天使だったんじゃね?


 「タクト先輩、仕事しすぎです!ちょっとは休んでください!」


 そう言って俺に紅茶を出してくれたのは数年前移動でうちの支部に来たエルフのユキちゃん。


 胸が大きくてお尻も大きい。スタイル抜群。エルフって釣り目の子が多いのにユキちゃんは狸顔で癒し系可愛い。もっと褒めると緑の髪がサラッサラで超きれい。うちの癒し、というか俺の癒しだ。


 抜群のスタイルとその可愛さのせいで、よく本部から視察に来た上司からセクハラを受けていたが、俺の部下にセクハラするとは言語道断。


 ちょっと隠密スキルと使い魔による尾行で調べたら、セクハラ上司の全員が会社の金を横領していたり、パワハラをしていたり、なにかしら問題のあるやつらばかりだったので、調査報告書を作成し、本部ギルド内にばらまいてやった。

 

 セクハラ上司たちは地方に飛ばされていったよ、というかクビじゃないのかよ。緩すぎるわ、うちのコンプライアンス!

 

 「ユキちゃん。いつもお茶ありがとう。でも別にお茶くみなんてしなくていいんだよ。俺が部署のリーダー任されてる内は部下にお茶くみとか強要したくないから」


 「す、好きでやってるからいいんです!それに先輩、私がお茶持ってたり、おにぎり渡したりしないと、飲まず食わずで仕事しちゃうんですから!昨日だって、何時に仕事終えたんですか?」


 「昨日はマジックポーションの在庫が無くなってたから夜中まで魔力抽出の仕事してたら魔力切れで寝落ちしちゃって、気が付けば朝だったからな、何時まで仕事してたか覚えてないや」


 「か、仮眠!早く仮眠とって下さい!」


 「えー、でもまだ昼休み前だし、一回ドラゴン行ってくるよ!」


 「いや、トイレ行くみたいな軽いノリで言わないで下さい!ドラゴンですよ!下手したら食われて死にますよ、先輩!」


 そう怒られていると他の職員から横やりが入った。


 「ユキちゃん、ほっときなって。そいつ言い出したら聞かないから」


 「そうそう。そんな性格だからいい年して彼女もいねぇし」


 「彼女いないは余計なお世話だ!」


 「どうだい、ユキちゃん?タクトと付き合ってやったらどうだ?顔はいまいちだが、案外いい男だぞ、これは」


 「へっ!?わ、私が先輩の彼女に!!!」


 ユキちゃんは同僚のセクハラに顔を真っ赤にして嫌がっている。

 

 こんな社畜の俺の彼女なんて嫌だよな。そもそもユキちゃんくらい可愛ければすでに彼氏いるだろ。俺はユキちゃんを守るために会話を終わらす。


 「はい、セクハラ禁止です。この話終わり!俺は南の洞窟行ってくる」


 ユキちゃんだけは心配そうに俺を見ているが、俺は構わずギルドの外に出た。


 「えーっと、空飛んでいくか」


 浮遊魔法を使えば南の洞窟まで3分で着くな。


 まぁちゃっちゃと済ませてユキちゃんの言う通り昼に仮眠しよう。


 ユキちゃんあれで結構うるさいからな。


 この日、俺は南の洞窟で一匹のドラゴン娘と出会うのだが、その後そのドラゴンに付きまとわれ、大変な目に遭うとは、この時は思ってもみなかった。

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