第17話

 大人の錬金術師に囲まれて台に寝かせられる。


「ティア、お前に呪いをかける!」


「呪いを解く方法は1つ」


「15の成人になってから王位継承権を破棄するのだ」


「さもなくば老人の姿のまま一生を終える事になる」


「殺さない慈悲に感謝するのだな!」




【ティア視点】


 私は汗を掻いて起き上がる。

 また、あの時の夢。


「私は、もうすぐ、15才」

 

 ポーション作成と魔石の、違う、カモンのおかげ。

 私の生活は楽になった。

 

 私は力が無いのに孤児を助けようとした。

 そして私の生活は苦しくなった。


 でも今はギルドの宿も余裕で支払いが出来る。

 ポーションを売ったお金で親の居ない子供に食べ物を配る事も出来る。

 ファフとステップにお腹いっぱい食べさせることも出来る。


 ポーション作りで時間が無くなると、子供も料理を手伝うようになって、更に楽になった。



 孤児を見ていると子供の頃の私と重なる。

 私は食べ物はあったけど、王位継承権が高くて周りからは死んでほしいと思われながらお城で育った。

 王家の者なら体力・魔力・器用の値を限界まで上げる。

 でも私は魔石を与えられなかった。

 その代わりいじめのように厳しいスキル訓練や、礼儀作法の指導を受け続けた。

 私は暗殺に怯え、人の目を気にして生きてきた。


 ここの生活は天国のよう。

 泥で出来た釜に穴が開いていて壊れかけていても、宿に隙間風が吹き込んでもそれでも、それでも安心して眠る事が出来る。


 全部カモンのおかげ


 カモンがギルドに入って来る。


「カモン、お帰り」

「お帰り、なのかな?」

「そうだよ。パンを焼いたの。一緒に食べましょう」


 私はすぐにパンを持って来てファフやステップと一緒にギルドのテーブルに座る。

 パンを食べさせながらカモンと話をする。


「ダンジョンの狩りは順調?」

「そうだね。前より楽になってるよ」

「カモン、口に食べ物がついてるよ」


 私はカモンの口を拭く。


「姫様、元気そうで何よりです」


 王の使いである女性がテーブルのそばに立った。


「気にせず食事を続けてください。終わった後に話をしましょう」

「そう、ね」


 ファフとステップが怯えて私に抱きつく。


「怖がらせてしまったようですね。私は外で待ちます」


 そう言って寒い外に出て行った。


「ティアおばあちゃんは姫様だったの?」

「そう、ね、色々あったのよ」


 そう言いながらカモンはパンを急いで食べだした。

 邪魔にならないように出て行こうとしている。

 私はカモンの服を掴む。


「一緒に話を聞いて欲しいの」

「分かったよ」


「かもんいて!」

「かもん、ここにいる」


 ファフとステップも何かを察したのかカモンを引き留めた。




 王の使いが戻って来ると姿勢を正したまま話を始めた。


「姫様はそろそろ15才です」

「え?15才!?おばあちゃんなのに?」


 カモンが驚く。

 王の使いは無視して話を続けた。


「王位継承権破棄の正装を用意するようにとの事です。王は今の服装ではお怒りになり、派手過ぎる服装でもお怒りになるでしょう。……正直何を着ていってもお怒りになるでしょう。ですがその、この都市では姫様に服を作らないよう息がかかっているのです」


 王の使いが困ったような顔で言った。

 王の嫌がらせね。


「私がみじめな姿のまま王位継承権を破棄する姿をみんなに見せたいのね」

「……はい、通信魔道具で姫様の姿は3都市すべてに映し出されます。その、完全に王の手がかかっています。ですが、王位継承権を破棄する事で見た目が老化する呪いは消えます」



「おばあちゃんになる呪い!」

「カモン、私はおばあちゃんになる呪いをかけられているの。王位継承権を破棄すれば呪いが解けて元の姿に戻るのよ」


「僕が作るよ!代金は投資と同じで後で貰うよ!」

「姫様、作って貰いましょう」


「……お願いするわ。でも、ドレスではなく、ローブにして欲しいの」


「確かにローブも魔導士の正装とみなされます。王はどんな服装でもローブでもお怒りになるでしょう。ならば、使い続けられる衣装の方が良いかと」


 王の目的は私の排除。

 私が惨めな目に合えば合うほど王にとって都合がいい。

 何を着ても私を落とすなら、長く使う事になるローブがいい。

 もう、王家とは関わりたくない。


「最後に1つだけ、あなたに呪いをかけた勢力はあなたを生かすために呪いをかけたのです。悪を演じ、あなたが暗殺されぬよう守る力も働いているのです。その事だけは忘れないでいて欲しいのです」


 礼をして女性は立ち去った。


「ローブを作るならシルクワームのローブがいいよね!?」

「そんなにいいものじゃなくていいわ。高くない普通の布にしましょう」


「行って来るよ!」

「話を聞いて!」


 カモンが走って行く。


 インスティが現れて走って行くカモンとすれ違った。


「カモン君はどうしたんですか?」

「それが……」




 ◇




「なるほど、それでカモン君が走って行ったんですね。でも、服装が揃っても、人前に立つ勇気はありますか?」


「私は……怖いわ」


 前に立った瞬間に矢が飛んでくるかもしれない。

 毒の塗られたナイフが飛んでくるかもしれない。


「思ったんですけど、会場にカモン君を執事見習いとして一緒にいてもらうのはどうでしょう?私やプロテクタさんが隣にいると王に排除されますが、子供のカモン君なら大丈夫かもしれませんよ」


 一人でいるよりカモンが一緒にいてくれたら。

 心は楽になる。


 でも、それをしてしまったら、

 私は何回助けて貰うんだろう?


 カモンに何回助けて貰うんだろう?


 私は外に出てカモンが出て行った西門を見つめた。

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