第5話

【ポーション王子・クラッシュ視点】


 私はポーションタワーの最上階で優雅にティータイムを楽しむ。

 私は4つある会社の社長を支配するオーナーだ。


 社長より上にオーナーがいるのだ。

 何かあっても責任は社長だ。

 私まで責任が回って来る事はそうは無い。


 ポーションビジネスはうま味が大きい。

 薬草は誰でも取れる関係で一束の売値は300ゴールドだ。

 そして薬草ダンジョンはEXPスティールを使うゴーストとスケルトンがいるおかげで適度に皆が成長しにくい環境が整っている。

 つまり安い給金で働かせ続けることが出来る。

 社員の能力が上がるのは良いが、能力が上がりすぎると新たに会社を立ち上げ自立しだす者が現れる。

 それを防ぐことが出来るのだ。


 300ゴールドの薬草と1000ゴールドのポーションビン、つまり1300ゴールド分の安価な素材を調合スキル持ちに供給し続け、ポーションを作らせる。

 すると売値最低グレードでも10000ゴールドのポーションが出来上がる。

 店頭販売した場合15000ゴールドにもなる。


 希少な調合スキル持ちには高い給金を払いつつ、離脱されないよう手を打っている。

 ポーション会社大手4社をすべて買収した。

 調合スキル持ちの大部分を囲い込み、調合スキル持ちが会社を辞めても私がオーナーを務める別の会社に就職し同じ給金で働くことになる。


 ポーションは医療に使い、消耗品である点も見逃せない。

 

 冒険者が傷を受ければポーションを使う。


 大工が腕を切ればポーションを使う。


 後天的な病気や状態異常もポーションで治せる。


 光魔法を上げれば回復魔法を覚えるが、上がりにい上都合よく回復魔法を持っている者が近くにいる可能性は低い。


 要する、ポーションは利益が大きく作っても作っても高値で売れる。

 そしてこの都市のポーション覇権は私が握っている!

 更に瓦礫化し廃墟同然だった都市南部の開発を進めポーションタワーを作り上げた。



 私は自分のステータスと資産を眺める。

 あえて紙で眺める事で私自身を客観的に見つめるようにしている。



 クラッシュ 男

 上級魔導士(????)

 体力:300/300 EXP0/3010

 魔力:500/500 EXP0/5010

 器用:300/300 EXP0/3010

 才能:40

 スキル『★魔法威力上昇(????)』『生活魔法レベル5』『水魔法レベル5(????)』『炎魔法レベル5(????)』『土魔法レベル5(????)』『風魔法レベル5(????)』『光魔法レベ5(????)』『闇魔法レベル5(????)』『調合レベル5』

 武器:ヘンデルの杖500

 防具:ヘンデルのローブセット250


 

 株式資産

 ブラックポーション   15億ゴールド

 グリーンポーション   100億ゴールド

 シルバーポーション   50億ゴールド

 ブルーポーション   70億ゴールド


 預金          15億ゴールド

 不動産         50億ゴールド


 総資産       計 300億ゴールド



 まず強さからだ。

 Bランク冒険者の資格を持っている。

 私はこの都市で最強クラスの力を持っているが、まだ道半ばだ。

 中期目標としてスキルを上げ、Aランク冒険者の資格を手に入れる。


 次は資産だ。

 金持ちは株と不動産とは、よく言ったものだ。

 私は株と不動産で300憶の資産を築いている!


 株の配当金や不動産の賃貸料金により何もせずとも金が入って来る。

 『金持ちは株と不動産』の言葉を皆が知ってはいても株や不動産を買おうとする者は少ない。


 株を買う者が少なければ株価は上がらんが配当金が多くなる。

 不動産を開発する者がいなければ賃貸住宅の値段は高いままだ。


 つまりみんなが手を出さないおかげで私は多くの不労所得を得ている!


 愚民どもは分からない未来の為に投資をする知識すらないと見える。


 ポーションタワーの最上階から人を見下ろしてつぶやく。


「ふ、愚民どもが!」

 


 私の野望は2つある。

 長期的には『1000億の資産 』そして『S級冒険者の資格』この2つを得る!


 まずは経営からだ。

 資産を手に入れ、その後にスキルを上げて特級魔導士になる。

 そうなれば金の力で魔石を買い占めるだけでいい。



「次の段階に進む!影!」


 窓から黒ずくめの男が現れた。


「ゴリの監視は順調か?」

「はい、証拠は映像に収めてあります」

「そのまま続けろ」


 黒ずくめの男は窓から音もなく去って行った。


「ゴリ、ブラックポーションの行いは監視させてもらう」


 ポーション王子、クラッシュは口角を釣り上げて笑った。





【ブラックポーション社長・ゴリ視点】


「くそ!また壁役が辞めたか!」


 せっかくカモンを追い出し、家が出来たってのについてないぜ。

 最近壁役が4人も辞めた。

 理由は様々だ。


『母が倒れました』


『やりたいことが見つかりました』


『第一都市にいる親戚の元に行きます』


『結婚してダンジョンから足を洗います』


 まったく、運が無い。


 だがこういう事はたまに起きる。


 人を採用して落ち着くまで我慢の時だ。




 全員カモンが務めていた壁役を押し付けられるようになり耐えられなくなり会社を辞た。

 薬草ダンジョンで壁役を務める事は、スライムの粘液を浴び、攻撃を受け続け、更にはゴーストとスケルトンのEXPスティールを食らい続け、体力・魔力・器用の値を下げながら損をしつつ戦う事になる。


 体力・魔力・器用を上げるには、魔石を1個1500ゴールドで購入するか魔物を倒して魔石を手に入れ、自分に魔石を使う事で上昇していく。


 下の例で行くと、魔石を11個使用すれば体力が1上がる。


 ビフォー

 体力:10(現在値)/30(限界値) EXP0(今のEXP)/11(上昇に必要な値)

    ↓

 アフター

 魔石11個使用。

 体力:11【1UP!】/30 EXP0/12



  ゴリの横暴を分かりやすく言うと『損をして仕事をして怒鳴られ続けろ!』と言っているのと同じだ。


 普通の魔物狩りならEXPスティールを使うゴーストとスケルトンは一気に総攻撃を仕掛けて倒すのが定石だ。


 だがゴリは誰かを盾にするやり方を平気で強要している。

 自分の能力値が下がるのは嫌だが、他人は当然のように壁役にして搾取する。


 ゴリは頑固で思い込みが激しく自分に甘く他人に厳しい。

 そして上の者と下の者で態度が豹変する。

 カモンが会社から居なくなり、ゴリのターゲットが他の社員に変わった。

 その事でブラックポーションの経営に問題が起きつつあった。


 この世界で会社が勢いを増した背景は、皆が足りないスキルの中で協力し合い、釜や炉などの設備を効率よく稼働し続ける事で分業化を進め効率を上げることが出来たからである。

 

 もし、一人で斥候をこなし、戦闘をこなし、薬草を『採取』スキルで採取し、『ストレージ』のスキルですべてを一人で運び、ポーションビンを自分で作り『調合』スキルでポーションを作れる者がいるなら、その人間は会社の面倒な人間関係から抜けて全部自分でこなすフリーの道を選ぶだろう。

 だがそのようなスーパーマンはほぼ居ない。


 ジョブに関係なくスキルを覚える事は可能だ。

 しかしスキルを1つ覚える為に数か月の訓練を必要とし、しかもストレージや調合スキルは前提スキルが多く、数種のスキルを覚える必要がある。

 多くの者は始めから持っているスキルを活かして働く。

 


 会社は皆どこか足りない部分を補い合い、協力する事で機能するのだ。

 

 その事を理解できないゴリは解体班と皮なめし班全員を呼んで30分怒鳴りつける。


「お前ら!最近たるんでいるぞ!」


 ゴリは算数が出来ない。

 2つの班を全員呼び出し、30分怒鳴る事で全員の作業時間を30分奪い、やる気を奪う。

 そして作業が終わるまで帰らせない為体力も必要以上に奪う。

 解体班と皮なめし班の人が何人も辞めているにもかかわらずチームとして同じノルマを強要する。


「お前らノービスの無能はいつ辞めても構わんのだ!やる気が無い者は今すぐ出て行け!」


 その瞬間1人が出て行った。

 それにつられて更に2人が出て行きく。


「どうせ戻って来て泣きつくに決まっている」


 3人はその後帰ってこなかった。


 これによりゴリの立場は悪くなっていった。


 中央ギルドから『人が辞めすぎている』と警告が入り、それはクラッシュの耳にも入った。


 更に経営成績が落ち込み会社の株価が暴落した。


 そしてブラックポーションの悪い噂が広まった。


 

 これによりゴリはクラッシュに呼び出された。


 ゴリは焦る。




 成績が落ち込んでいる。


 まずいまずいまずい!


 な、何とかしなくては!


 あ、新しい経営計画を作成して提出する!


 カモン!カモンを呼べばいい!

 カモンを呼び戻せば壁役も、薬草採取も、解体も、皮なめしも全部やらせることが出来る!

 カモンは気に入らないが今は経営の危機だ。

 呼び戻してやろう。

 経営計画を急いで作らせ、時間までに準備を整える。


 


 ポーションタワーの最上階の会議室に入ると、目つきの鋭くなったクラッシュがおりそのサイドには、残り3社の社長が俺を見ていた。


 俺は汗を掻きながら中に入る。


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