第37話 戦いよりおいしいもの、それは報酬

 フクロウ伯爵が言うにはマウちゃんはお父さんの言うことに反対で、できれば人間とはことを荒立てたくない。

 だから私に地位がある人間と話し合いをするためにかけ橋になってほしいとのこと。

 報酬はマウちゃんのお父さんであるスタロトスが持たせたエンチャントカード・殺戮。

 殺意を高めるほど戦闘時のステータスが上がる。

 信頼できる手下に託せと言われて渡されたらしいけど、使う気はないみたい。

 レイムゲイルとフリスベルクはそれを貰おうと、必死に評価を上げようとしていた。

 まぁ依頼内容の無茶はどうでもいい。


「わかったよ。この国の女王様とお話をしてみるね」

「……すまない。父上には申し訳ないが、魔界全体が変わらねばならんと思っている」

「その志、素晴らしいです。人も魔族も変わらなきゃいけない時代なんですよ」


 なんだか都合のいい言葉がすらすらと思いつく。

 殺戮のカードは何に差そうかな?


「なぁ、マウ様。おめぇなんでまた人間と仲良くしてぇんだ?」

「……一度だけ、お忍びで人間の町に行ったことがあるのだ。レイムゲイルとフレスベルクは猛反対したがな」

「それで?」

「そこでアレがな……。その……」


 ミリータちゃんの追求に対して急に押し黙っちゃった。

 人間みたいにモジモジしちゃって。


「……かったのだ」

「なんだって?」

「メシが……うまかったのだ。ふわとろクレープにビーフシチュー……」

「ははぁ、なるほど。オラも国を出て初めて食った時はほっぺた落ちるかと思ったからなぁ」


 その比喩表現ってこの世界にもあるんだ。

 魔族でもおいしいものには正直、わかるよ。

 私も報酬の後の食事が何より楽しみだ。

 アイテムをテーブルに並べて眺めながら食べる以上の喜びはないね。


「マウ様はお父上に厳しく育てられました。しかしマウ様は小手先のスキルしかない私のような弱小魔族にもお優しいのです。お父上はそこが気に入らなかったのでしょう」

「私もスキル脳の王様だった人を知ってるよ」

「殺戮を司る自分の前で他人に優しさを見せるなど、とお怒りになったあのお方はマウ様を私と共に人間界に追放しました。その際にレイムゲイルとフレスベルクは出世を約束されたのでしょう。常に野心に溢れていて、マウ様をどこか軽んじていました」

「暇つぶしに町にきて迷惑全開だったからね」

「あなた達があの二人を倒したことは知っております。だからこそ、お願いしたのです」


 柄にもなくフクロウ伯爵と話し込んじゃった。

 今にして思えば討伐ミッションが出なかった理由がなんとなくわかったかな。


「あれ、ミリータちゃんは?」

「マウ様もいらっしゃいませんな?」

「おいふぃいいぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 魔道車の中から奇声が聞こえてきた。

 見に行くと、ミリータちゃんが手料理をマウちゃんに振舞っている。

 あれは作り溜めしておいたシチュー!


「マウ様!?」

「しゅごい……もっとぉ……もっとほしいよぉ……」

「マウ様! あぁ、なんてだらしない顔を……」


 一口しか食べてないのにすでに陥落している。

 恍惚とした表情で身体がビクンビクンと痙攣していた。

 料理でこんな風になる?


「オウルーク……やはり人間界とはうまくやらねばいかん……。どれも魔界にはない資源で作られていて……我らも学ぶべきなのだ」

「はぁ、それは良いのですが……む!」

「どうかしたのか?」

「ま、まずいですぞ! この城に人間の集団が迫っております!」


 フクロウ伯爵が目を見開いて翼を広げている。

 なにそのポーズ。スキルかな?


「なに? どういった集団だ?」

「全員、武装しております。おそらく我々に対する討伐隊でしょう」

「お前のスキルの索敵範囲に入ったということは、到着までに少し時間があるな……。さて、どうしたものか」

「ここで争えばマウ様の望みも叶わなくなります」


 そうか。そりゃそういうのが来るよね。

 どこかの王様はなぜか一人だけ魔王討伐に向かわせてたけど、本来はこれが普通だ。

 だとしたらフクロウ伯爵の言う通り、ここで戦ったら話がこじれかねない。


「ねぇフクロウ伯爵、他に手下はいないんだよね?」

「はい。今まではフレスベルクが城の周辺を守っていたので、あのような連中は近づけなかったのです。というかフクロウ伯爵って……」

「そうなると私の報酬も遠のく。かといって平和的な話し合いが通じる相手とは限らない。難しいね」


 討伐隊か何か知らないけど大方、報酬に目がくらんだ欲深い人達に違いない。

 私みたいに相手が魔族であろうと、正義の心をもって真実を見抜く。

 それが大切だというのに、これだから人間は。


「マテリ、なんとなくだけどな。今、おめぇが言うなって思っただ」

「な、何を言ってるのかな?」


 なんてことを。

 私だってこれでも悩んでいるんだ。

 どうすれば和平に持っていけるか。

 こういう時こそ冷静になって――


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新たなミッションが発生!

・勇勝隊を全滅させる。報酬:エンチャントカード・マーダー

・アルドフィンを討伐する。報酬:アンバックル

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「ぶち滅ぼしィィーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「マ、マテリ様!? は、離してください! 一体何を!」


 あんなことを言ってたミリータちゃんも察してノータイムで魔道車を動かした。

 大迷宮を抜けるためにフクロウ伯爵を拉致して、私達は魔王城の外を目指す。

 平和を愛するマウちゃんの思いを踏みにじるような連中は私が許さない。


「ダァァーーーーーシュッ!」

「いくべぇぇーーーーーーーーーーー!」

「お、お二人とも! どうされたのですか!」

「いいから道案内ィィッ!」

「ひぃっ!」


 魔王城の外へ出ると、平和を乱す集団が遠目に見えた。

 許さない。私の報酬を台無しにするなら報酬になってもらう。

 許さない。このタイミングで攻めてきて、本当に許せない。

 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。

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