第15話 ブライアス隊の追跡

「へい! らっしゃい! そこの兄さん達、おっかねぇ顔してねぇで鍛冶でもしていきな!」


 ガンドルフの町は何度か訪れたことはあるが、あまりに様変わりして驚いた。

 これがあのドワーフか?

 以前は活気があるというより、職人気質のドワーフが口を開かずに仕事に精を出していたように思える。

 客引きなど彼らの性分ではないと思い込んでいたのだが、そうではないのか?


「ずいぶんと変わったな。この町で何かあったのか?」

「ブライアス隊長、あの町の看板を見てください」

「なになに……『英雄から託された少女、現る! ラグタイト鉱石を持つ者が立ち寄った町!』だと? まさか……」

「職人の町で有名だった頃からは考えられないくらい軽いですよ」


 そういえばレセップの町でも聖女の再臨だとか聖女の生まれ変わりが現れたという話があった。

 噂話といえば町人の娯楽であり、その類だろうとあまり気に留めなかったが衛兵達まで嬉々として話すのだ。

 デクトロ一味というならず者を単独で捕まえた少女と聞いて、あの似顔絵を見せるとあの異世界の少女だった。

 続いてこのガンドルフの町だ。

 やはり私の中では同じ少女というフレーズが引っかかっている。


「ううむ、とにかく私は聞き込みを始めよう。副隊長はここでも何らかの痕跡があれば追跡トレースを頼む」

「ハッ!」


 聞き込みといえばまずは宿屋だ。

 人が立ち寄った時、この施設の世話にならないはずはない。

 しかしレセップの町では宿屋を利用した記録はなく、教会のシスターが嬉しそうに少女について話していた。

 とても明るく素敵な女性だったと記憶している。おっと。

 それより宿屋だ。どうかな?


「いえ、こちらは利用されてませんね」

「そうか……。ではこの町の看板にある英雄から託された少女について何か知っているか?」

「はぁ、私も詳しいことはわからないんですがね。なんでもドワーフのドグをとっちめたと評判ですよ」

「なに? ドグとはあの『地壊のドグ』か?」

「はい、それにドワーフはびびっちまったんですかね。まぁこんな騒ぎになってるとか……」


 地壊のドグは依頼されたら自らの手で鉱石をとりにいって鍛冶を成功させる猛者だ。

 レベル50超えのグランドドラゴンを単独で討伐した実績は一級冒険者すら震え上がらせるエピソードと聞いている。

 ドワーフの基礎ステータスや戦闘能力は人間のそれより高く、そんなドグを異世界の少女がとっちめた?

 この宿の主人は詳しいことは知らないようだ。


「何が起こってるのだ……」

「ブライアス隊長! 当たりですよ!」

「副隊長、何かわかったのか?」

「ボボリとかいう鍛冶師がその少女と接触しています!」


 聞けばボボリは人間の鍛冶師であり、暴利を吹っかけて商売をしていた小悪党だという。

 彼の下に異世界の少女が訪れたとあっては、これは偶然ではない。

 異世界の少女は一定以上の戦闘能力を有しており、クリア報酬というスキルの特性に気づいている可能性が高かった。

 ならば次はドグ本人に聞き込みをしよう。


「あぁ、あの子か。油断していたとはいえ、手も足も出なかった」

「特徴を聞きたい」

「使っていた武器、ありゃ火宿りの杖だな。滅多に見ない代物ってのもあるが、驚くべきは威力だ。下級魔法のファイアーボールが痛ぇのなんの……」

「ということは高い魔攻を誇るわけか」

「それ以外のステータスもたぶん高かったんじゃないか? 他にもプロテクトリングにヒラリボン……どれも市場にはないものばかり身につけていた」


 このドグは勝手に商売を始めたミリータという少女を脅した際に異世界の少女が襲いかかってきたと話す。

 かなりの正義感の持ち主であることはうかがえるが奇襲とはいえ、このドグがここまで弱気になるとは。


「ドグ、レベルはいくつだ?」

「俺のレベルか? 42だな」

「その時、お前は大した装備品を身につけていなかったんだろう?」

「そりゃ仕事中だったからな。でもなんていうかな……それでも勝てる気しなかった。装備とかステータス以前に、あの子からは得体の知れない執念みたいなのを感じるっつうか……」


 圧倒したのはヒラリボンやプロテクトリングの恩恵が大きいだろう。

 プロテクトリングは王族の結婚指輪として使用された歴史があり、ヒラリボンも最高級の献上品とされている。

 手にした者は長らく一族の繁栄を続けられるという言い伝えもあるので、非常に縁起がいい。

 とある貴族が全財産をつぎ込んでそれらを探して破産したなどという話もあるくらいだ。

 そんな上流階級の者達すら魅了するアイテムを二つも少女は装備していたのか。

 となるとクリア報酬はやはり――。


「ラグタイト鉱石を持っているという話だが、どうなのだ?」

「それはミリータのやつ……あぁ、まだガキんちょなんだがな。胸当てに加工していた。あいつの鍛冶はたまげたぜ……ありゃ俺より上かもな」

「どこで入手したかは聞いているか?」

「言えないって言ってたな。とにかくありゃ只者じゃねえぜ」


 クリア報酬、これはおそらく何らかの条件をクリアすればそのレベルのアイテムが手に入る。

 そう確信したところで思わず身震いするところだった。

 副隊長や隊員も同じで、表情が引きつっている。


「ブライアス隊長、スキルってのはそんなものまであるんですかね」

「我々の常識では考えられないが異世界からきた者であれば考えられるな」

「異世界からきた者は強力なスキルに目覚める。それも世界の根幹を揺るがすほどの……」

「すでにレセップ、そしてこの町を変えてしまったな」


 陛下にこの任務を任されたのは幸いだった。

 異世界の少女の真意はわからないが、いずれにしても捨て置ける存在ではない。

 かつて英雄が使っていた剣に使われていた幻の鉱石ラグタイトすら手に入るスキルだと?

 これがもし悪しき者に知れてしまえばどうなるか。

 良くも悪くも、私はやはり異世界の少女をどうにかしなければいけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る