第十五話 古代遺跡ウィルベル探索初日 ~前編~
ミルキアで遺跡探索依頼の手続きをした俺達は、ロブルース領のある街から現地へと徒歩で向かった。そこでは十数組の冒険者達が集まっており、既に内部の探索が始められているようだった。
少し怪しそうな奴らもいるので、しっかり周りを警戒しておいた方がいいかも知れない。
今回の依頼は公爵家からだということで、しっかりと支援が行き届いているようだ。仮設住居としての天幕が遺跡の周囲に立ち並んでおり、自由に使うことができるらしい。その中の一際大きな物の中に案内されると、そこにはレイベルさんの姿があった。
「やあ、よく来てくれた。補給物資なんかはこちらで用意しているから、各自邪魔にならない程度に所持して、準備が整い次第内部の探索を開始してくれたまえ」
「あっ、クルルの実だ! 食べてもいい?」
リュカがそこで、山と積まれた補給物資の中、目ざとく見つけたアイテムに瞳を輝かせた。クルルの実――栄養価が高く、良く糖蜜漬けなどにして保存食にされている木の実だが、これが彼女は大好きなのだ。
「後にしとけって……」
「ハハハ、どうぞいくらでも。その代わり、しっかり内部の探索を頼むよ」
「チロル、色々見せてもらお!」「はいです!」
多くの食料品やその他便利アイテムに目を輝かせる二人達は放っておき、俺とライラはレイベルさんに話を聞いた。
「入り口はどこになるんですか?」
「あそこだよ。初めてだと驚くと思うが……丁度彼らが今から入る所だから、良く見ておくといい」
外に案内され、俺達は少し離れた一つの石碑に目を向ける。
傍にいた冒険者の一団は全員一塊になり、いずれも緊張した面持ちだ。
先頭のリーダーらしき男が手に持った何らかの道具――恐らくレイベル氏がこの間見せてくれたメダルのような物……それを押し当てる。
――すると一瞬で、彼らの姿は光に包まれどこかへ消えてしまう。
「ひゃわっ……て、手品ですか!? どこかに隠れてるです?」
天幕の入り口をくぐり後を追って来たチロルがその場で飛び上がり周囲を見回す。
「違うよ。転送魔法で遺跡の入り口に送られたんだ」
「わぁ~……おいら初めてだこんなの! ドキドキして来た、あにき、早く行こーよ!」
興奮したリュカに腕を引っ張られる俺に、苦笑するレイベル氏がさっき使われていたアイテムと同じものを手渡してくれる。
「これが、あの遺跡の鍵となるアイテムの複製品だ。無くすと出られなくなるから、必ず身につけておくように。ま、万が一戻って来なくても、入り口で待っていれば後で僕らが助けに行くけどね」
《
詳細説明:古代遺跡の鍵を現代技術で複製したもの。
所定の位置で使えば、使用者を遺跡の各所へと転送する。
彼から渡されたチェーン付きのメダルを鑑定して首に掛けると、俺は彼から内部の情報を貰っておく。
「どの位の大きさがあるのかって分かってます?」
「ああ、地図の作製も進めている途中だ……。では基本的な事から説明させてもらおうか」
そう言うと、レイベル氏は遺跡の内部について今現在判明していることを詳細に語ってくれる。それをまとめると概ね以下のような感じだ。
・遺跡に入ると、まず《
・一層の規模は大体全ての部屋を回りつくして三、四時間程度。下の層に下りる階段に直接向かえば一時間程度で済む。
・この遺跡も同じ構造かはわからないが……他の遺跡では、概ね五層ごとに特別な部屋が出現し、その部屋を通過したものは以後、再度侵入の際にその場所から探索を始めることが出来たようだ。
また、それとは別に、強力な魔物が待ち構える特殊な赤い扉の部屋が出現し、それを打ち倒すことで特別な財宝を得ることが出来たという。なお、この魔物だけは再度復活せず、恩恵を得られるのは最初に討伐した者達だけであるらしい。
・内部構造は、概ね一週間程度で造り替えられ、魔物の配置や罠の位置も保存されない。
・遺跡の最奥に潜む最後の魔物に挑戦する前には、精霊により警告が出されるらしい。それを撃破すると遺跡の攻略は成功となり、未知の財宝が出現するとともに、現在侵入している冒険者達は外部へと転送され、遺跡は以後閉鎖される……等々。
一応、転送される第一層の始まりの場所と、各階段の設置してある広間は安全地帯として魔物達が入って来れないようになっているようで、随分と至れり尽くせりと言った感じだ。
後重要なのは、依頼自体についての報酬説明だったが、今回大半の準備物を公爵家が負担してくれている為、条件としては少しシビアだ。
ほぼ無限に生み出される魔物達や、遺跡から得たアイテムは持ち帰っても構わない。だがロブルース家が買い取ってくれるのは貴重なアイテムのみで、内部で成果を出さなければ赤字となってしまうだろう。
とはいえ、安全かつ補給の心配もせず、戦闘の訓練が出来る機会と考えれば、悪くはないのかも知れない。
「危険な魔物は報告されてはいないが、もし見かけたら僕らが周知するから声を掛けてくれ。一応軽い状態異常程度なら完治できるポーションも備えてあるし、外では治療師も待機させている。命の危険がないとはいえ、危ないと思ったら引き返すのもいいだろう。赤い扉は入り口と同じよう複製鍵で出入りする形になるから、準備せずにうっかり触って入らないように気をつけて欲しい」
最後に改めて簡単な注意喚起を受け、俺達は中に入ることを許された。
「どうするの、テイル? あまり初日だから無理はしない方がいいと思うけれど」
「そうだな。取りあえず内部に入って感触を確かめて、行けるようなら第一層からどんどん踏破してみるか。よしそれじゃ皆、荷物の準備するぞ~!」
「「おー!」」
「遠足じゃないんだから気を引き締めなさいよ、あなた達は!」
「お前らなぁ……」
楽しそうに飛び跳ねる獣人二人を、腰に手を当て注意するライラ。
その姿を見ていると、レイベルさんの説明により盛り上がったせっかくの緊張感も台無しで、俺は密かにため息をつくのだった。
◆
転送は滞りなく済み、ここは古代遺跡ウィルベル入り口。
外と同じ石碑がある広間を見回すと、不思議なガラス質のような建材で囲まれており、透けて見えるのは先の見通せない灰色の空間である。
「なんだここ……どうすりゃいいんだろうな?」
『……新規冒険者及び■■■の参入を感知しました。
「わぴっ! ……だ、誰なのです!?」
(これか!? 精霊ってのは……
そして入ってすぐ、どこからともなく聞こえてくる声……これは耳を塞いでみても頭の中に響いてくる。なんとも不思議な感覚だ。
「ど、どこにいるの? 部屋の外、なにも見えない……気味悪いよぉ」
「落ち着け……なんか精霊やらなんやらがいるんだって伝えただろ?」
チロルは跳ね上がり、リュカはぞわっと尻尾を逆立たせて俺の腰にしがみ付く。
確かに直接届く声は無感情で少し不気味だ。だがとりあえずここは安全らしく、休憩している冒険者パーティーもいるので、一度周りを確認して冷静になる。
『繰り返します。
「ところどころ何言ってるかわかんないな……おっ」
レイベルさんから指示に従えとは言われたものの、少し躊躇していると、別のパーティーが、柱を囲んで手を当て始めた。すると……。
――シュウン。
その姿が光の粒となり溶けて消えた。
「ど、どこか行っちゃいましたよ!?」
「本当に、目の前で消えたわね……」
「遺跡内部に転送されたってことか。へー……」
あんまり品の良い行動ではないが、俺は仕事道具で透明な床を引っかいてみた。
だが、硬質な音を立てて弾き返されるだけで、毛筋ほどの傷もつかない。
しかも、試しに鑑定を掛けてみたが上手く行かない。俺の鑑定アビリティのレベルを超えた材質らしい。
「何で出来てんだろな、これ」
「傍から見ると氷みたいだけど……でも何だかつるっとしてて、気持ち悪いよ」
リュカは地面に膝をついて匂いを嗅ぎ、顔をしかめる。
他にも気になる物はあった。壁の一か所には大きな鏡のようなものが設置されており、そこには何か光の文字が次々と表示されては消えていく。
すると、離れた位置でシュッと音がして、安全を確認するためか先程のパーティーが戻って来ていた。周りを不思議そうな顔をして見つめたり、体を触ったりして首を傾げている。
「ま、これ以上ここでぼーっとしてても仕方ない。ちゃんと戻れるみたいだし、一度中に入ってみよう。ライラ?」
ライラは大鏡を眺めていた……まるでここに心あらずといった感じで凝視している。
(なんだ……。なんか呟いて)
声を発さずに動く口元を目で追う……。
(ま、り……し……す……きど……? なんだ、良く分からん)
何を言っているのかは全く分からない。
こんな彼女の姿は出会ってから初めてで、心配になり俺は思わず肩を叩く。
「おい! どうした、ライラ?」
「……え? ……いえ、なんでもないわ。ちょっと驚いただけ……。いいわ、行きましょう」
一瞬何か思い出したりしたのかとも思ったが、そうではないようだ。
考え込むような素振りで彼女は、柱の方へいた俺達の方へ近づくが……待ちきれなかったのかはしゃいだリュカが柱にぴたっと手を当て、慌てたチロルがそれに続く。
「おーいら、一番乗りっ!」
「リュカちゃん! 勝手は駄目なのですっ!!」
……し~ん。
だが、何も起こらない。遺跡の鍵は俺が持っているから当たり前なのだ。
追いついて来たライラがリュカの頭をぽんと叩く。
「こーらっ! はーもう、焦らせないでよ。お仕事なんだから、団体行動はちゃんと守りなさい! いいわね!」
「う~、ごめん、もうしない……」
「そん位にしとこうぜ。でも魔物と戦う時は気を引き締めろよ。そんじゃ皆いいな? 入るぞ……」
全員が頷いたのを見て鍵を持った俺が柱に手を当てると、視界がさぁっと端から光に塗りつぶされてゆく――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます