5話
「……先に手を出したのは、テメェらだかんな」
だったらクズとて、命を取ることに抵抗する理由もない。
クズは錬金術で作り出した重い剣に力を込め――。
「――はぁッ!」
2人を押し退け、隙が生じた神饌組2人の身体を――剣の刃が切り抜く。
「……ちっ。金にならねぇ人殺しなんか、させんじゃねぇよ」
叫び声すらあげず、血に伏せった2名の神饌組。
そして――死の瞬間、最後に燃え盛る蝋燭の炎の如き揺らめいた瘴気。
完全に命の火が消えると同時に、瘴気は霧散して宙に消えて行く。
残ったのは、2人の遺体とワンワンと吠える犬のみ。
かつて何度も人を斬って来たが、何度経験しても気持ち良いものではない。
それも今回は、まるで人形のように不気味な存在を斬ったと、クズは苦々しく剣を握り――。
「――ワイは何者じゃ!? その神饌組の遺体、吠える犬。まさか、その犬を斬るつもりか!?」
野太い声が響いた。
下らない感傷に浸っている間に見られたとクズがハッと、男を見る。
野太い声を出していた男は――神饌組のような羽織は着ていない、綺麗な着物姿で大柄な男だった。
「ちげぇちげぇ! 俺は犬なんか斬って喜ぶ趣味はねぇ!」
「なに!? だが、この状況……。まさか、長門藩の刺客か!? 神饌組に追われ、2人を無傷で切り伏せる程に腕の立つ剣士……。そうとしか思えん! クソ、護衛を置いてきたのが失敗じゃったか」
「オイオイ、勝手に盛り上がるな、剣を抜くなっての! 俺も仕舞うからさ!」
人殺し趣味はない。
さっきの神饌組のように瘴気も纏ってないこの男なら、斬らずに済むかもしれないとクズは必死に説得を試みる。
もう勘弁してくれとばかりに――だが、急に斬りかかられても捌けるようには構えておく。
「その体捌き……正しく手練れじゃな。オイは確かに右手の神経がやられて剣は弱い。だが黒霧藩の剣は、一太刀振れれば十分。オイとて、唯では殺られんぞ!?」
「だからちげぇっての!」
「問答無用! チェストォオオオッ!」
「――うおっ!? 錬成!」
刀を抜き、構えた大柄な男が――全体重をかけた刀を、上から下へと振るって来た。
それは――受けようとすれば、クズが作り出した錬金術製の剣も押し切られんばかりの威力を感じる太刀だった。
たまらずクズは錬金術で大地ごと後ろに飛び退く。
目を剥き驚いた大柄な男だったが――覚悟を決めたように、安らかな表情を浮かべた。
「……錬金術、か。類い希なる天賦の持ち主……。オイの命も、ここまでか」
右手が動かないのか、剣を振り下ろした姿勢から男は動かない。
そんな、良い闘いだった。
さらば、みたいな態度を取られても――クズはメッチャ困る。
「だから話を聞けよ大八洲人! この善良な目を見れば分かるだろ!? 犬っころもあんたも、俺は斬ろうとしてねぇ!」
「……なに?」
「俺は神饌組とやらが子供と犬を襲おうとしたのを助けただけ! 犬とはもう、マブダチよ! な、犬っこ――あいたぁあああ!? てめ、命の恩人の手を噛みやがったな!?」
クズは犬をワシワシと撫で――腕を噛みつかれていた。
血を流しながらも、クズは犬を斬る様子もない。
唯、素手で犬とバトル――いや、戯れているだけだ。
大柄な男には、それが嘘偽りない姿と察した。
「これは……オイとした事が、失礼をした。長門藩とのドンパチが多くて、過敏になっていたようじゃ」
「本当だよ! 大八洲には、まともな人間がいねぇのか!? 自分の夢や理想を語って、信念持って生きるのは勝手だがな!? ちっとは話を聞けよテメェらは!」
「なに? ワイはまさか、大八洲人じゃないのか!?」
「そうだよ! 正式に入国を許可された大陸の傭兵だ! 嘘だと思うなら幕府の重臣、
「なんと……。あの勝殿が……」
男は勝の名前を出すと、心底から驚いたように声を漏らした。
一か八かで名前を出したが――勝はどうやら、有名人らしい。
「いや、信じよう。あんたを疑って刀を向けたオイに、ワイは危害を加えようとしなかった。これが何よりもの証拠だ」
その言葉で、クズはやっと息を吐く。
剣を鞘に収め、男と向かい合う。
「改めて、失礼した。オイは黒霧藩の――
手の皮が分厚く、ごつい右手を左手を補助に使い――クズに握手を求めてきた。
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