23話

 失楽の飛燕団のキャンプでは、急遽バーベキューが開催されることになった。

 飢えていた兵達は、降って湧いた食糧で大いに喜んだ。


「――精霊の火で調理された羊肉、たまらないっす!」

「血抜きも筋切りも完璧っ! さすがクズ団長!」

「僕が何をするまでも無かったね。……おや、この肉は柔らかいね。誰が調理したのかな?」

「それは、新入りのチチが仕留めたズラトロクの肉。……殴りまくって殺したらしい」

「わぁ、すごいね。叩いたお肉かぁ、お礼いわなきゃだね。そのチチちゃんはどこにいるの?」

「――あっちで、羊の丸焼きを食べてる。……力の代償は、大量の食糧らしい」

「へぇ、そうかい。ふんふん鼻歌を歌いながら、上機嫌に団員達と話しているね。上手くやれそうでよかったよ。家族のような団員同士の絆、連携。それは僕の美しい筋肉にも似ている」

「ナルシストの筋肉は、ズラトロクの胴体と似てる」

「マタちゃん!? それはいくらなんでも酷いんじゃないかな! 僕の腕はあんな毛むくじゃらじゃないよ!?……所で、大活躍だったクズくんはどこにいったんだい?」

「クラウスは……一人にして欲しいって」

「そうかい。……彼は、まだ脱退したことを気にしているのか。珍しく、先陣を切ったしね。あるいは、僕たちに怒っているのか……」

「……多分、違う」


 不安そうな顔をしているアナやナルシストとは違い、マタは――冷めた目線で肉を囓った。

 一方、噂のクラウスと言えば――。


「……もう少しだったのに。お互い合意のうえだったのに……っ」


 ――うむ、そうじゃな。残念だったのう。


 草むらの中で静々と肉を食べながら、精霊に愚痴を吐いていた。


「いっつもそうだ。俺が童貞卒業しそうになると、何かが邪魔をするんだよ……」


 ――だが、良かったんじゃないか。


「何が? 何が良かったって言うの……っ」


 ――妾も良かったと思うぞ。初めてが、あんな理性を失った獣状態ではなぁ。

 ――がっついて痛い思いをさせて、怖いって思われるよりも良かっただろ。仕切り直しだ。


「……そっかぁ。そうだよなぁ……うん。俺、急ぎ過ぎてたよな。嫌われたくない……」


 普段の自由奔放かつ尊大な姿からは想像もつかないぐらい――弱々しくなっていた。

 それだけ思春期の男の子にとって重要な場面だったのだ。

 そんな傷心状態にあるクズの傷口へ塩を塗るように――。


「――食事中、失礼する! 我らはヘイムス王国近衛騎士団である。ここにギルバート殿こと、クラウス・ヴィンセント殿がいらっしゃると聞いて参った! 王が面会を望まれている。我らと一緒に王都までご同行願いたい!」


 よく通る爽やかな声をした男が、厄介ごとを携えやってきた――。



―――――――――――

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