追放されたクズ傭兵と自由無双〜自由とは他者から嫌われること。出世街道を踏み外そうと、アンチを踏み越え我が道を征く!〜

長久

プロローグ

「デッケぇ腹した亀モンスターだなぁ……。ダイエットのためにもさ、腹の中のもんぶちまけようぜ、手伝うから! なぁ頼むよ、それがお互いの為だってばぁあああ⁉︎」

 

 成人男性三人が横になれそうな幅と、見あげる体高を誇る巨体の亀形の怪物。


 その前には、情けない表情を浮かべた青年が――たった一人で剣を構えていた。


 一体で正規兵百名はいなければ安全に討伐できないB級モンスターを――一人で相手するなんて無謀だ。


 キリムは七つの頭にそれぞれ七本の角に目を持つ。

 装甲のような鱗に囲まれた四つ足の怪物で、腹には食べた人間や宝が詰まっているというが――。


  三つの大国による紛争ふんそう拮抗状態きっこうじょうたいおちいった。


 国家間の戦乱が落ち着いて自領の内政に繰り出すも、内政なんて直ぐに効果が出ないものが殆どだ。


 それ故にモンスターによる被害や治安悪化による小さな諍いは尽きない――。


 だからこそ、傭兵団という存在は需要が高い。


 傭兵団は特にはぐれもの――社会から追放されたり、居場所を見失った者が集う傾向にある。


 そんな中で、メキメキと名を挙げてきた新進気鋭の傭兵団、『失落しつらく飛燕団ひえんだん』は――クセが強い事で有名だ。


 例えをあげるならば……失落の飛燕団でも、とびきり運と性格が悪い『クズ』と呼ばれる傭兵がここに一人――。


「――化け物退治ってのは、英雄さんの仕事だろうが! 俺は英雄なんかじゃねぇ。これは俺みてぇなクズが一人でやることじゃねぇっつのッ!」


 古来より、英雄が怪物を退治して民や姫を護ると行った物語は定番である。


 だが望んで英雄となる者もいれば、仕方なしに英雄に祭り上げされてしまった者――本質は凡人である者だっているはずだ。


 例えば心優しく、繊細せんさいな者だって。


 それでも彼等に共通しているのは、逃げずに強者と戦う『理由』があったはずだ。


 例えばそれは、英雄とは正反対の『クズ』と揶揄やゆされる男であったとしても。


 逃げたくない、戦う理由があれば、無理をして身の丈に合わぬ英雄の如く振る舞ってしまう――。


「「「――お前が言うなクズッ!!」」」


 おかしい。

 仲間であるはずの傭兵団から一斉に罵声ばせいを浴びせられた。

 世の中は理不尽だ。


「ちぃっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 彼の仲間達は手を貸すつもりはない。


 それもそのはずだ。

 何しろ、キリムを相手に戦う羽目になったのもクズが原因。


「――ギルバートさんッ! 私達の村を救って下さると言った言葉、信じていますから!」


「彼から貰った大切な結婚指輪、『美しい宝玉は美しい女性が持つべきだ』と言ってくれた言葉、忘れませんから!」


 仲間が命をして戦う原因――彼は仲間が反対する間もなく、ギルドから勝手にこんな依頼を受けていたのだから。

 かなりの格安で。


 ましてやその依頼を受けた原因が、クズの噂を聞いた若い村娘達に籠絡されてなのだから。



 逃げ惑うクズを目で追うキリム。


 だが、途中でピタリと止まる。

 腹の下に何か違和感がある。

 そう感じた時には既に遅い。


 直後、己の腹に感じ始めた熱気に慟哭どうこくをあげた。

 

「はっはぁ! 蒸気じょうきの熱さをなめんなよ!? その分厚い鱗、お暑いでしょうから脱いだらいかがでしょうか?――おっと、残念っ。脱げないんでしたね。自分の肌から生えてるから! ざまぁあああ!」


 直接の攻撃は鱗が硬くて難しい。

 なら、水の精霊や火の精霊に手伝ってもらえばいいじゃないか。


 鱗の隙間から肌を痛めつける蒸気の熱に苦しむキリムを指差してクズは悪辣に笑う。

 必死に逃げようとするが――。


「はい、残念。お水と熱でボロボロの大地ですからね! 逃げれませんよ!―― 錬成れんせい!」


 クズは錬金術の応用を使う為、大地に手をバンっと突く。


 途端、ボロボロの大地で身動きを取れないキリムをかま状に覆う石の塊が出現した。


 蒸気の熱に激しく抵抗する音を出していたキリムだが――やがて物音一つしなくなった。


 クズが錬成した大地へ魔力注入を止め、窯を破壊すると――そこには魚の蒸し焼きの如く、白目で全身真っ赤になり絶命したキリムがあった。


「――いやぁ。文字通り、熱いバトルだったな」


 ――ふざけるな、こんな卑怯な炎の使い方があるか!

 ――妾の主が情けないっ。鬼のような所業を平気な顔でやりある……。


「そうだそうだ! まともに戦えクズ団長!」


「……兄様、相変わらず汚い戦い方」


「変わらないね……。美しくない戦い方だよ、クズ君」


 自分が召喚した精霊や、仲間達からもブーイングが浴びせられる。依頼者である村娘達でさえ、ドン引きして批難の眼差しを向けていた。


「あーあー、アンチ共の声がうるせぇっ。勝てば良いんだよっ。鬼?―― 鬼道きどうだろうと道は道! 勝利に繋がる道なら俺は喜んで進むね!……さて、肝心のお宝はっと――」


 蒸し焼き状態のキリムを剣で裏返し、腹を捌き始める。


 噂によれば、キリムというモンスターは腹に宝を蓄えるという。


 実を言うと、クズが今回の依頼を受けた真の理由はそこにある。


 依頼では結婚指輪を取り返して欲しいとの事だっだが――。他にも入ってるであろう宝は俺の物。


 一攫千金いっかくせんきん、できちゃうんじゃね?


 そんな魂胆でこの討伐依頼を受けたわけだが――。


「――はぁ!? 指輪一個しか腹にないだと!? ふっざけんなぁ! お前、俺の金山の予定だったんだぞ!?」


 依頼にあった指輪を取り出したが、他に金目の物は無いかと狂気的きょうきてきに腹を剣でさばき血塗れになる姿は――。


「う、噂通り……この団長さん、腕は確かなクズですね」


 村娘を震撼しんかんさせ、流れる噂を確信させた。


 結局、金目の物は見つからず。


 貧乏傭兵団は、今日も貧乏なまま、また大陸を彷徨う事になった――。



―――――――――――

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