消えた王妃と動き出す者たち
リアンが消えた。
孤児院へ行ってすぐに帰る予定だったと何度も報告を聞いた。いつも行っている場所だったからと……。それがまさかこんなことになるなど。
護衛は孤児院の外で待っており、今日の護衛はフルトンだった。出入りできるドアは2つしかなく、どちらもしっかり見張っていたらしい。
『リアン様がなぜかいきなり怒り出して帰ってしまった』
そう言われて、慌てたフルトンは兵を何名か城へやり、確認した。フルトン自身は孤児院の中をすぐ調べた。……だが、みつからなかった。
リアンがいないとに気付いた時には遅かったということか。
相手は用意周到にずっと復讐しようとしていて、こちらが予想していた以上の用意をしていた。……で、なければ、あのリアンが簡単に罠にかかるわけがないと思うんだが。
誰が犯人は一目瞭然だ。善人ヅラしたお祖母様の行動を見張っているつもりだった。それだけではだめだったんだ。甘かった。たかだか老婦人一人ではない。立派な策士だ。
カタカタと怒りで震える手をグッと握りしめる。これがオレをおびき寄せるための罠だったとしても構わないし、証拠がなかろうが、後からそんなものいくらでも作ってやるさ!
「三騎士を呼べ!フルトン……落ち込んでる場合か?武器を持て!馬を用意しろ!行くぞ!」
うなだれて報告していたフルトンがハ、ハイッと慌てる。フルトンは武術に長けているが、こういうドロドロとした思惑には疎いところがある。陽気で真っ直ぐなところが良いところなんだが……。
「フルトン!おまえの処罰は後だ!急げ!」
そう叫んだ時だった。恐れおののくような表情で、宰相がお待ち下さいと言う。
「クラーク男爵が来ております」
こんなタイミングで、リアンの父が来ただと?……偶然ではないだろう。至急通せ!と命ずると、すぐに現れた。深々とお辞儀する。
「リアンがいなくなったと聞きました」
「そうだが……今から居場所を吐かせに行くところだった。手短にな」
オレの苛立ちに気づいているのかいないのかクラーク男爵は冷静に言葉を続ける。
「我が娘には王妃たる自覚はありません。自ら危険に飛び込んでいっている。絶対に罠だとわかっていて、飛び込んでいったに違いありません。こんな娘とは離縁し、他の娘を探すことを進言します」
なにを言い出す?と首を傾げる。
「オレはオレの持てるすべての力を使ってでもリアンを探して助ける」
迷いは一つも微塵もない。
「陛下、あのバカ娘の思惑はそれです」
「それならその策にのるまでだ!リアンの無茶には慣れている」
「私塾での出来事と国を巻き込んでの出来事は違います!あなたは王なんです。娘、一人くらい放っておけばいい」
「リアンが傍にいないとだめなんだ。オレはリアンがいないことに絶望し、この国を滅ぼすかもしれない」
譲らないオレの答えに、上を向いて仰いでから嘆息し、ボソッとクラーク男爵は小さく呟いた。
「強情なのは、嫌になるくらい夫婦そっくりだな……あ、すいません。聞こえましたか?失言でした。仕方ありません。そこまで娘を想っていてくださるなら、我々、世界商人の力を使って、陛下をお助けします」
世界商人……やはりそうだったか。
「オレの答えを試したのか?」
「どうでしょう?わたしにとっても大事な娘ですからね。陛下が助けると言ってくれたので、ありがたく思います」
クラーク男爵の思惑はよくわからない。一癖ある商人独特の愛想笑いを浮かべる。
そこへ、ドスドスとシザリア王と涼やかな顔をしたコンラッドが部屋に入ってきた。クラーク男爵は二人を見て、ニッコリと笑う。リアンと似ている笑い方だ。この表情はなにか考えがある時のリアンだ。
「おや?これはこれは。偶然にも2国の王が揃ってらっしゃるとは」
……そこで、オレはハッと気づく。リアンはこの王たちをもてなすようにし、国へ帰ることを引き止めていた。
その理由が今わかったのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます