戴冠式は行われる

 戴冠式の日が来て、オレとリアンは特別席に案内される。ユクドール王国と懇意にしている国がその席に座れるらしく、知った顔が多い。


「華やかだし、規模も大きいなぁ」


 ズラリと並んだ人々や王城の広場の面積、音楽隊に騎士たち………栄華を誇るユクドール王国はやはりすごいと感じる。


「……リアン?」


 なんだかリアンが大人しい気がして声を掛ける。今日の彼女はとても綺麗に着飾っていて、美しく結われた髪、そして青色のドレスはオレの目の色と合わせてくれたのかなと嬉しくなる。


「な、なにかしら?」


「元気無くないか?体調悪いのか?」


「元気よ!じゃ……なくて、陛下の気遣い感謝しますわ……」


 え!?何だ!?この返し!?おかしくないか!?丁寧な言葉に優雅な仕草……そしてやけに静かでオレが尋ねるまで返事をしない。


「怒ってないよな?」


「私が陛下に対して怒るなんてとんでもないですわ」


 やはりリアンの調子が変だよな?なんかオレ、怒るようなことしたかな?変だと思っているうちに戴冠式が始まってしまう。


 白い鳥が何百羽とよく晴れた空に舞い上がり、ラッパの音が響く。


 長いマントを後ろからついてくる子どもが持ち、きっきりとした詰め襟の服を着たコンラッドが中央から歩いてくる。自信に溢れるように見え、微笑みを浮かべている。


 兄になったような気持ちで、つい見守ってしまう。立派になったなぁ……あの庭園で二人で無邪気に走り回っていた頃が嘘のように遠い。


 赤い絨毯の道を歩き、止まった時、コンラッドは儀式の中央にいた。そして司祭から頭上に冠を載せられる。高鳴る音楽、鳴り響く空砲、人々は手が痛いくらいに拍手する。


「美しい光景ね。ウィルの時もこんな感じだったの?」


「オレ?そうだなぁ。大体は似てる流れだな。ユクドール王国よりも簡素だけどね」


「そうなのね。見てみたかったわ」


「そうだな。招待すればよかったんだけど、黙っていたから……リアンには王としてあの時はまだ見られたくなかったんだ」


 王になって、捨てなきゃいけないのに捨てきれなくて、未練がましく顔をこっそり出していた師匠の私塾。そこにリアンがいて、その時だけウィルバートではなくただのウィルでいられた。まさか宰相が花嫁探しを始めてしまい、リアンの父がそれにのっかり、リアンが後宮に来るなんて思いもよらなかったんだが……今更だけど、断られなくてよかったと安堵する。


「ウィル、私、あなたが……他にも後宮に王妃を入れたいなら、それでもかまわないわ。大丈夫だから」


「えっ?……はっ!?」


 思わず驚いてリアンを見た。リアンはこちらを見ない。無表情で、戴冠式の方を眺めている。その顔から表情は読み取れなかった。

 

「なんでいきなり、そんなことを?オレは望んでいないけど?」


「今は望んでいなくても未来はわからないわ。私、覚悟を決めておきたいの。大丈夫だってことをウィルに言っておこうと思ったの」


 こちらをやはり見ない。ユクドール王国に来てから、少しリアンは変だ。違和感がある。いつものいきいきとしたリアンはどこへいった?


 戴冠式は進んでいく。それ以上リアンは何も言わなかった。

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