反撃する時はきたりて

「陛下!リアン様がっ!」


 伝令の者がそう興奮気味に切り出す。国からの連絡は何かあったらするように言ってあったが………。


「あ……うん、どれだけの損傷をしたんだろう?」


 伝令の者が複雑な顔をした。


「なぜ言う前にわかったのでしょうか?」


「えっ、いや……なんとなく。じゃなくて、念のため先に聞くが、リアンは傷ひとつないんだな?」


「もちろんです。王妃様に触れるどころか近づくことすらできませんでした」


 あ、やっぱり。セオドアが後ろで何があったんですか!?と尋ねてくる。


「それなら良い。城は直せば良い」


「城!?」

 

 セオドアの驚きに伝令の者が汗を拭きながら、報告を続ける。


「へ、陛下がお怒りにならなかったので、良かったです。まぁ、王妃様も大丈夫よとおっしゃっていましたが」


「ああ。多少……多少の破壊は許可してきた。で、命知らずの暗殺者どもの口は割れたか?」


「なかなか……しかし言葉のなまりからして、ユクドールの者ではないかと」


 やはりそうか……。


「さて、反撃だな。これ以上は待たない。いくぞ!セオドア!」


 立ち上がる。セオドアがはい!と返事をして着いてくる。


 エイルシア王!と止める声を無視して、バンッとユクドール王のいる謁見の間に入る。宰相と何か話してた王は不機嫌そうな顔をこちらに向けた。


「エイルシア王、不遠慮だな」


「ユクドール王、我が国の王妃に使者を差し向けたようだな」


 ピクリと眉が動く。


「なんのことだ?」


 狸親父め……とぼけてるな。


「友好的にいこうと思っていた。だが、そちらがそういう考えならしかたないよな。エリック!」


 名を呼ぶと、はいはい〜と扉から顔を出す。三騎士の一人がようやくオレの傍に戻ってきた。


「やーっと出番ですね〜」


 のほほんした声とは裏腹に、持ってきたものは相手の息を呑ませるものだった。


「こ、これは!!ダレン副将軍!?」


 石化によって石像になった副将軍だった。その精巧な石像はまるで生きているかのようで不気味だ。


「オレは忠告したぞ」


 まさか……とユクドール王が恐怖に満ちた目を向ける。オレは剣を抜かず、柄のまま上から容赦なく鋭く躊躇うことなく振り下ろす。


 ダレン副将軍の石像がパンッと弾けて割れた。バラバラの石像が無惨に散らばる。まだ生きている者の命尽きる瞬間を皆が見た。


「うわあああ!」


「副将軍ーーっ!!」


 謁見の間に叫びがこだまする。


「エイルシア王!おまえっ!!よくも!!」


 オレは冷たい目で見据える。セオドアとエリックがオレを守るように意識を集中させているのがわかる。周囲からは殺意と敵意。


「捕虜の意味がわかっていなかったようだからな。どうする?これでもまだ交渉をせず、こちらの要望を突っぱねるか?」


 ギリッと悔しげにこちらを見て、ユクドールの王は言った。


「若造がっ!舐めるなよ!あの城の捕虜など、どうでもいい!この生意気なやつを、やってしまえ!」


「へぇ?いいのか?オレが無事に戻らない時は城ごと破壊する命令を出してある」


 ザワリと周囲がユクドール王の声に反応し、動こうとする。オレは余裕の表情を崩さずに腕を組む。セオドアとエリックはオレの横に立ち守りを固める。


 王の命で、一斉に飛びかかってくるかと思いきや、捕虜についてどうでもいいと言われ、仲間の兵たちを見捨てるのか?相手は本気だぞ!?と戸惑う者たちの囁きが聞こえる。目の前にいるオレたちに手を出そうかどうしようか迷いが生まれる。そしてユクドールの王がアッサリと兵たちを切り捨ててしまうことがわかってしまう。

 

「な、なにをしている!さっさと………」


「陛下!」


 兵たちの反応に慌てたユクドール王が再び命令をくだそうとした時、部屋に入ってきた者がいた。


 エリックがタイミング、バッチリでしょう?とオレに笑いかけた。オレは頷きで返す。良い仕事をしたな……と。

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