王と三人の騎士
「ここで迎え撃つんですか?」
三騎士の1人、エリックが尋ねる。ウィルバードがそうだと頷く。
「長期の籠城できるだけの食料は見当たらないし、ずいぶん殺風景で何もない城ですね」
「籠城用の食料も水も用意してない」
私がスパッとそう言うと、エリックがイラッとして、私に食ってかかる。
「もしそうなったら……って考えないのか!?」
「もしそうなったら?」
私は首を傾げる。籠城するつもりなど毛頭ない。籠城するに相応しい城に見えるだろうか?それに大国相手に長期決戦はするべきではない。
「今回はさっさと終わらせる短期決戦。そんなことより、夕飯の時間になっちゃうから、気にせず用意をして。今日はあなたの隊が夕食係だったはず」
くーーっと悔しがるエリックをウィルバードがちょっといいか?と呼ぶ。セオドアが私の後ろからヒソヒソと耳打ちする。
「リア……ム様、からかわないであげてくださいよ。あの子は若いので、すぐに感情的になります」
「なるほど。他の三騎士にも会わせてくれる?」
は、はい?とセオドアが頷いた。
トラスと言う騎士は真面目だった……私と合わないわ〜と思いつつも、丁寧に挨拶をかわす。そしてなぜか……。
「陛下の小姓がお傍を離れる際は許可をもらってますよね?」
小言を頂いている。
「セオドアまで、傍を離れるとは、戦が始まる前だと言うのに気が抜けすぎているんじゃないですか?」
「リアム……さ…ま…じゃなくて、リアムが三騎士を見てみたいそうです」
説明口調で説明するセオドア。
「どこの貴族の子弟を小姓にしたのかは知りませんが、遊び場ではありません。来たからにはしっかり役目を果たしてくださいよ」
なんかすいませんって感じで、私は退散した。
「な、なんなの……あの真面目な人は!?」
「そういう性格なんです。でも彼がいるから三騎士はまとまれるんです」
そっかー。三人の中の兄って感じなのね。
「オーッス!なんの用だよ。一杯飲んでいくか〜?」
「フルトン、酒をどこから持ってきたんだ?」
大男の騎士は中身は水だとわかりきった嘘を言う。顔が赤くて酒臭い。セオドアは顔をしかめる。
「小姓の僕もどうだぁ?」
「やめてください!フルトン、陛下に言いつけますよ!」
セオドアが酒を飲ませようとするフルトンを阻止する。
「ったく、冗談だよ。おまえもトラスも真面目だよなぁ」
あなたが適当すぎなんですっ!と怒っている。
「酒は陛下に内緒にしておくけど、ほどほどに……いつ行けと命じられるかわからない」
私がそう言うと、片眉をあげた。
「いつかわからない?奇襲でもするのか?まぁ、こっちの倍は兵を連れてくるだろうから、奇襲でもしない限り勝てね〜かもな」
あら?意外と……思い、クスッと笑ってしまう。呑気に過ごしているようで、頭の中は戦のことでいっぱいじゃないの。
私は三騎士に会い、それからウィルバードのいる天幕へ帰る。
「どうだ?収穫はあったか?」
「ええ。三騎士、それぞれの性格を把握したわ」
ウィルバードは地図と地形図とにらめっこしている。
「リアン、この地を選んだのは理由があるんだな?」
「そうよ。わかってくれた?」
「……いつから、ここでの戦の想定をし、準備をしていた?」
私はウィルバードの鋭い視線を受け止める。
「コンラッド王子が来る一ヶ月ほど前から」
一ヶ月!?とセオドアが驚嘆の声をあげた。
「な、なぜ、リアン様はそれを皆に言わないんですか!?」
私は肩をすくめる。
「天才も先を見過ぎれば狂人と呼ばれる。数歩先に見えるものだけを人に言う方が良いのよ」
「リアン様はいったい……この戦の結末は……どのくらい見えてるんですか?」
「…………秘密よ」
セオドアはウィルバードの方を見た。
「あ、うん。いつものことだ」
慣れてるウィルバードは苦笑する。私は三つの駒を地図上に置いていく。
「三騎士にそれぞれ隊を任せるわ。作戦を行う時にはその性格に合わせて、配置を決めたかったのよ。適材適所よ」
「なるほどな」
ウィルバードはキングの駒を手の中で遊ばせている。私はヒョイッとそれをもらって置く。
「オレ……そこかよ」
「キングの駒をとられたら終わりなのよ」
わかってはいるが……と陣営に守られたキングのウィルバードはとても不満げなのだった。
「それにセオドアを私につけてるでしょう?自分につけなさいよね」
……バレてたか?と笑うウィルバート。相手はこんな私を狙うより王を狙うものなんだから、セオドアは自分につけときなさいよっ!と言いたい。
「リアン、セオドアをつけることがオレにとって最大限の譲歩だよ」
「命に代えてもお守りします」
セオドアの真剣な顔を見て、本気だわ……この人、命を賭けてるわ……私、無茶しちゃいけないわねと思った。
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