微笑みの後に残るもの

「なんで、お嬢様はシンシア様のことをお許しになってるんですか!?認めてらっしゃるんですか!?どーするつもりなんです!?」


 アナベルがお小言のようにずっと聞いてくる。私は嘘寝しているのが、バレてるようなのでソファーのクッションから頭を上げて、起きた。


「私はこのまま一人の後宮でいられるなんて、思ってなかったわ」


「えっ!?」


「国内のお嬢様方ならウィルバートが嫌だと言えば、そこまでよ。でも力の強い国からの申し出は断れないわ。私も国益になるなら、頷くわよ」


「でもお嬢様のお気持ちは!?」


 私は大丈夫よと笑う。姉のように心配しているアナベルを安心させるように。


「王妃の仕事を半分にできるなら、怠惰に過ごせるってものよ!」


「そんなこと微塵にも思ってないこと、アナベルにもウィルバート様にもバレてますよ」


 ……冗談に手厳しいアナベルだった。


 私は苦笑し、クッションをギュッと抱きしめる。ある程度の先を見越せる力とは本当に厄介だ。何も見ず、何も知らずにウィルバートにすべてを任せ、ただ愛されて後宮で過ごせば幸せなのかもしれない。


 そして普通の王妃として、心安らげる陛下の居場所となり、疲れた彼を優しく抱きしめてあげる。


 だけど彼は私を選び、私はそれを受け入れたのだ。


 私は知っている。優しいウィルが泣き虫であることを。傷つきやすいことを。


 だからこの国にふりかかるものを一緒に背負いたい。たとえ可愛げのない変わり者の王妃だと思われて、その後に私に残るものが何もなかったとしても。


 図書室へ行き、クロードに会う。ニヤニヤしている。


「陛下に新しい王妃候補がいるんでしょう?どうするんですかー?」


「またここでも、その話題?」


 飽き飽きよと私は言いながら、クロードから書類を受け取る。この国の内政状態の書類だ。パッと目を通すと上向きになってきたのがわかる。


「良い感じね。ウィルバートはやっぱり優秀だわ」


「その半分はリアン様が担っていますけどね」


「違うわ。決断するのはウィルバートだもの。彼のほうが責任が重くて大変よ」


 クロードは本と本の間に座りながら、ソワソワしている。……聞きたくて仕方ないらしい。恋愛話は蜜の味よね。特に人の話は。


「他国の王妃候補がいらして、そのままにしておくなんて、ガルシア将軍に手玉にとったリアン様らしからぬ。謙虚さですね。どうするんですか?」


 ククッとクロードが可笑しそうに笑う。


「大丈夫よ。そんな謙虚な王妃タイムは終了。そろそろ客人は、お帰り願うわよ!」


 えっ?それってどういう意味で!?とクロードが聞く。私は答えずにニッコリ微笑んだ。

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