後宮に集う王妃候補達

 流行りのドレス、身につけたきらびやかな宝石は他の誰にも負けなかったが、嫌味を言われる。


『どこの令嬢?クラーク男爵ですって!?』


『知ってるわ。成金貴族ね』


『見なさいよ。お金がいかにもありますって言わんばかりの見せつけるための服ね』


『宝石はつければいいってものではありませんわ』


 ヒソヒソと聞こえるように言っている令嬢達。一緒に連れてくるメイドは一人という規則。小さい頃より一緒にいてくれたアナベルが震えていてる。


「な、何なんでしょうか?こんな……こんなふうに言われるなんて………」


 緊張ではなく、さすが私のメイド。怒りで震えてるのだ。私はどうでもいいわと肩をすくめる。彼女たちと競うつもりはない。


「言わせておけばいいわよ。そのうち私なんて相手にしなくなるわ。放っておきなさい」


 パラリと扇子を広げて、ファ~とあくびを隠す。昨日はイライラして、よく眠れなかった。


 私を含めて三十人ほどの王妃候補がいる。どの女性達も美しさに自信がありそうな人ばかり。


 ガチャッとドアが開いて、偉そうなおじさんが来た。


「国中の美しいレディ達に集まってもらい、陛下もさぞお喜びだと思う。これより後宮で過ごしてもらい、陛下とのパーティーや会などを催して行く」


 その他、もろもろ、外出できないこと、両親との面会は月に1回であること、妃候補同士の部屋の行き来は自由であるが、申請をすることなど細かいきまりを伝えられる。


 私はきまりを一つ聞くごとに自分の自由が奪われて行くことを感じ、気持ちが沈んでいく。


 他の人は何も感じてないの!?ちらりと目だけ動かす。特に皆さん、違和感を感じてないらしい。はぁ……と重いため息を吐く。


 思った以上に後宮の部屋は広く、快適だった。


 早速ドレスを脱ぎ捨てて、広いベットに寝転ぶ。アナベルがお嬢様ーっ!と怒る。


「もー、いいじゃない。当分籠の鳥なんだし、ゴロゴロと怠惰に過ごすわ」


「陛下がおいでになったらどうするんですっ!?」


 私はそんなわけないわと笑う。アナベルが眉をひそめる。


「どういうことです?」


「さっきの説明聞いてたでしょう?たぶん陛下は後宮に興味ないわ。おじさんが……」


「おじさんではないでしょう!?なんとか……っていう後宮お世話係の方でしょう!?」


 アナベルだって、名前覚えてないじゃなーいと私は笑う。


「陛下もお喜びだと………『思う』って言ったのよ。普通ならお喜びでしたとかお喜びですって言うわよね。あのお世話係のおじさんの主観を言ってるにすぎないわ」


 確かにと頷くアナベル。


「陛下は若くして即位し、すぐに、南北の蛮族を抑え、前王の時の腐敗した者を粛清し、獅子王と呼ばれるほどの有名な武人。それを行ったのが14歳のときだっていうから驚きよね」


 話を聞きながら、テーブルに置かれていた茶器からお茶を淹れてくれるアナベル。


「花嫁探しをしている暇はないと言って、ストイックに政治を行っているとか……評判は良く、完璧な王様らしいわ」


 すごいですねぇとアナベル。その評価に頬を膨らませる私。


「女はつまらないわ。私だって武勲たてたりとか大臣とか目指していきたかったわ」


「お嬢様は素晴らしい才能をお持ちですけど……しかたありませんわ。旦那様と奥様の意向に従わなくては」

 

 自分にどれほどの能力が本当はあったのか試すことも許されず、ここにいるなんて、悲しすぎるわ。


 布団を被って、目を瞑る。


「お嬢様、もう寝るんですか!?」


「お昼寝するわ〜。もうすることないもの」


 拗ねてますねぇと言うアナベルの呆れた声を聞きながら、私は、布団に潜ったのだった。

 

 これから好きなだけ、ゴロゴロしてやるーーー! 

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