13話 Z規制はしなくて良いか......

とある場所……


 男は走っていた。会社の仕事のため海外に出張していた。そして、丁度1時間前にこの国に着き、家に帰っている状態だった。

 自宅までタクシーに乗っており、着くまで携帯端末でニュースを見ていた時、男の顔面は血が抜けたようになっていた。

 同じ会社で働いている社員が2人、亡くなっているのを知った。詳しい死因はなぜか伏せられていたがあの2人が亡くなった理由なんて…… あれしかないと直感的感じた。


(クソォォォ…… まさか……バレたのか?? いや、横領の証拠はあそこにしかないはず…… 俺達が上木を屋上で突き落とした証拠もないはず……)


 頭の中が混沌の渦に呑み込まれていた所に前から声が聞こえ、我に返った……。

「お客さん、目的地に着きましたよ……」


「えぇ? あぁ……ありがとう。支払いはカードで」

 タクシーの運転手にカード支払いを終え、降りてすぐ自宅であるマンションの中に入った。

 エントランスに設置されている装置にマンション専用の鍵を差し込み、扉が開く。

 この中に入れば少なくとも2人を殺した奴が入ってくる心配はない。駐車場からマンションに入る扉はこのエントランスよりセキュリティーが脆弱だが、至るに住人が呆れるほど多くの監視カメラが設置されているので、不審な人が物理的に入ってきたらすぐにセキュリティー会社の人が入ってくる。

 エレベーターに乗り、自分の部屋がある8階まで乗った……。

 狭い箱で攻め込まれたら1発で死が確定するエレベーターの中だったが、特に何もなく8階に到達できた。

 8階の端にあるためエレベーターから少し歩く必要がある。

 何度も数歩歩いては後ろを確認している男。

(まさか……上木の女があいつらを殺ったのか…… だが、どうやってだ……)

 どんなに調べても殺された2人の詳しい死因の記載がなく、唯の心筋梗塞とだけ載っていた。

 しかし、あの2人がこれまで病気になったことはあまりないと記憶している。

 なら、警察がそう書かざるしかない状態で亡くなっていたと男の頭をよぎった。

 いつも歩いているマンションの通路。

 日ごろなら歩くのにそんなに意識しないが今は1歩1歩の足取りが重くなる……。


 このまま進んではいけないと身体全体が緊急事態サインを出していたが、現代社会の高度なセキュリティーシステムを侮ってはいけない。男はそう信じながら鍵をドアに挿し、中に入った。

 中に入った直後……。

 いつもの自分の家が何か違うと感じた。具体的に何が違うのかわからないが何かが違うと感じていた。男はリビングに入るための閉ざされた扉を開けた……。


「うぁぁぁぁぁぁぁっぁぁあ!!!!」

 男は何処から出したか分からないほどの音量で絶叫していた。

 悲鳴を上げながら腰が抜け、膝が地面に激突し跪いた……。


「なんだよこれはぁぁぁぁっぁぁぁあ」

 自分の家のリビング。拘ったソファーやテーブルなどの調度品、かなり大きいテレビで大画面で映画を観ることができるので気に入っており手入れもしっかりしていた。

 何処にでもあるリビング——。


 しかし、今のリビングの現状は、壁に何かが付着している。壁だけではなく床からテレビまで至ることろにこべりついていた。低い位置にあるテーブルの上に2人の男が宙に浮いていた。首に紐がついており吊るされている様子になっている。吊るされている男達の足のつま先から血が滴り落ちて、テーブルの中央に血溜まりとなっていた。


「ゴホッ」

 男はその場で前屈みになり、お腹にあったものを吐き出してしまった。

 見るに耐(た)えない悲惨な光景。グロ映画で良く見かける臓物が飛び出ていたり、刃物で切断され断面図が現になっている四肢。しかしあれはあくまで作りもの。本物ではない。

 だがこれは……。

 異常、尋常、普通の神経では絶対に行われない光景。


 カーテンが揺れた。

 外から風が入ってきたと思うがしっかり戸締りをしていたのに、扉は全開に開かれ外の風とカーテンが合わさり揺れていた。

 そして、カーテンの奥——ベランダ側に素顔は見えないが人が立っていた。


「どうかしら…… ワタシのアート…… 気に入ってくれたかしら」


 男は発せられた声に覚えがあった。

「お前だったのか…… あの2人を殺したのは…… 何故だ、何故2人を殺した…… 答えろ!!!」


「そんなの、お前らに殺された悟の仇に決まってるじゃない……」


「証拠は無いはずだ…… 警察も自殺で片付けた」


「えぇ、そうよ…… でもね、次の日がワタシの誕生日の為にプレゼントを用意していた人が、前日に自殺する訳ないでしょう? ワタシは何度も警察に再捜査をお願いしたわ。それでも警察は取り合ってくれなかった。途方に暮れていた時にね。空から降ってきたのよ。小汚い人形が…… 何であの時、人形に話したのか自分でも分からなかったけど、結果的にね。貴方達を殺せる姿になったわ。1人目を問いただしたらベラベラ喋ってくれたわ。命乞いだったのかもしれない……これから死ぬのに哀れな男だったわ…… 詳しく喋ってくれたおかげで色々、分かったわ。貴方達3人が会社の金を横領して至福を肥やしていたことをね…… それを知った悟は死んだあの日、貴方達を呼び出し証拠を突き出し警察に出頭するように促したこと。貴方が悟を屋上から落としたことをね……」


「あれは……事故だ。俺は何もやってない」


「なんとでも言えるわよね…… そこに吊られているの誰だかわかるわよね?」


 吊るされている人を見ると……殺された2人だった。


「お前……自分が何しているのか、分かっているのか……」


「はぁ……。何、言ってるのよ? 貴方達があんなことをやらなければこんなこの事にはなってなかったわよ。因果応報ってやつよ…… お前を殺れば私のアートは完成するわ…… そしてワタシは……」


(ダメだ、コイツ……イカれてやがる……)

 目の前の人影がしゃべっている間に扉のドアノブを握り、そっと開ける。

(今は逃げるしかない……これからのことは後から考えれば良い……)


 振り返ると……

「っ!?」


 そこにはキツネがウェディングドレスを着て待ち構えていた。

「——逃さないわよ」


「なんで……さっきまであそこに……」

 リビングの方に顔を向けたがやはりカーテンの後ろに人影があった。


「あれね……貴方が見てる幻影なの……」


 勢い良く首を掴まれ、宙に浮かされた。

「良い場所に貴方を招待するわ……そこでゆぅぅっくり、お話しましょう……」


 どんなに騒いでも助けが来ず、男は暗闇の中へと引き摺り込まれた………。



 ——数十分後


 靴を脱がないのは非常識だが現状、そんなことを言っている場合ではない。

 ズカズカ人の家に入って粗探しのように中を部屋をひっくり返したが目的の人は何処にもいなかった……


「クロ……いないね、あの人」


「まさか……既にソドールに……」


 携帯端末が振動し中を確認すると璃子さんからだった。

(これって……)


「クロ、これ——」


「ここね……居るとしたら」


 灯とクロは向かった——彼女が結婚式で使う予定だった教会へ………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る