Ⅰ.郷愁の日宮殿編
◆1◇ あんた、名前の意味間違ってるよ。
私のSNSからニュースに引っ張られる顔写真……不細工じゃないと良いな。
そこそこの性格と容姿である私からみて、初めて出来た彼氏は世話焼きなイケメンに見えた。図書館帰りの今日だって……緊張の手汗を念で抑えながら、手を繋ぐ位には打ち解けていたはずだった。
「
あんた、名前の意味間違ってるよ。彼女を踏切に突き飛ばすなんて。今からでも遅くないから、私を命張って助けたらどう?
「
絡んだ正の双眸は、すっかり日が落ちた宵でも異常な位に真っ黒で濁って見えた。
声すら出せない私は思ったよりも情けないやつだったらしい。既に交差しきった遮断機の内……黒と黄の警告色から逃げればいいのに、しゃがんだ身体がレールに張り付いたように動かない。一車両には車輪が八個ある。轢断死は、何度も何度も人体を切断するんだと……前に怖いもの見たさで検索した事を後悔してる。
【死にたくなかった】
図書館で借りた『和色図鑑』を縋るように抱き締める。
*_ + ◆◇◆◇+_*
「……とまぁ、私は青春時代を裏切られた訳だけど。
――今の私はニマニマを抑えられないくらいに……滅茶苦茶ハッピーだから!!
「いくら何でもアイは、引き摺らなすぎじゃない? トラウマレベルでしょ、普通は」
呆れたようにポテチを喰らう兄、ネリアルに改めて語った前世よりも、私は目の前の
「今生きてるんだから良くない? 過去は振り返らない主義なの、私」
「過去を振り返れば、成長出来るはずでは? 」
「うーん……私、頭弱いから分からない!! 」
それよりも、ウキウキと新しく与えられた色彩図鑑を舐めるように眺めるのに夢中だ。私は宝くじ一等レベルで、生まれ変わる世界を当てたらしい。次の
と、言うのもこの世界は、三度の飯を食わずに色彩図鑑を眺める程大好きなカラフルで溢れているからだ。
前世だって、洋服や街の看板、写真や絵画、宝石や植物からなる自然には沢山の色が溢れていた。目の保養、ご馳走様でした!
だがこの世界は一味違う。なんと、人を始めとする生き物達にも
ふわふわした
――カラフルな異世界人達は一体何者なんだろう。学名とかあるのかな?
以前、『異世界人は
確かに私も聞かれたら困るかも。『
前世の人間は猿から進化したというのが定説だが……異世界人の
カラフルそのもののはずの
【無彩色、漆黒。】
下層民は色彩を弾圧されていた。まるで、江戸時代の『
身分差を色彩で示し、民の贅を禁じる。確かにそう言う面もあるかも知れない。だが真の理由には、より明度の低い
【 生ける色彩である
あんぐりと開けられた、色を追求する為政者の口内に放り込まれる為だけに
自分達が絵の具である事も知らずに、パレットの上で何時か破壊される安寧の時を生きているのだ。 】
「私はネリアルの妹で、本当に幸運だった。折角生まれ変わったのに、
「なら、兄孝行してくれるんでしょ? 」
緩やかに私の頬に触れたネリアルは、憂いのある美貌で仄かに微笑した。
「愛する妹を手伝ってくれるならね」
挑戦するように笑み崩れた私は、カラフルな色彩を圧政から解放する道を踏み出す。
【 自由な色彩は、
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