閑話休題その4

ダイリルじぃじのおとぎ話

ーーライリル当時3歳



「ダイリルじぃじ、寝る前にお話しちて」


 布団を被りダイリルにお願いするライリル。


「いいぞ。それじゃあお話しを始めるぞ。昔々ーー」


 どこにでもある片田舎に生まれた一人の男と大聖女のお話し。


 男の子には幼馴染がいた。


 自分の家の隣に住んでおり、小さい頃はよく遊んでいた女の子である。


 昔に結婚の約束をしたりしたのももう過去の話、大きくなっていくに連れて顔を合わすこともなくなっていた。


 男の子はすくすくと成長し、国の兵士となった。


 初めて大きな会食の護衛に赴いた際、彼は驚くべき事実を知る。


 自分の隣の家に住んでいた女の子は大聖女と呼ばれ民に崇められる存在になっていたのだ。


「偉くなったもんだな」


 スキをみて彼は大聖女に声をかける。


「私は何もしてないわ。いきなり神官が家に来て連れてこられただけよ」


 彼はそれ以上何も言わずに大聖女から離れていった。


 ただの一般の兵士と大聖女が会話をすることなど周りから見たら異常な光景なのは明白であったからだ。


 その次に二人が会ったのは敵国との戦場であった。


 こちらの軍は壊滅的ダメージを受け、残ったのは数人の兵士と大聖女のみ。


 大聖女を持ち上げるだけ持ち上げ、国は戦場へと赴かせたのだ。


「ただの士気を上げるための存在ってことかよ」


 おかしいとは思っていたのだ。


 大聖女は本来戦場になど出向くことがあるはずがない。


 国が欲しかったのは象徴である大聖女だったのだ。


 一人がいなくなればまた違う女性を選び大聖女の生まれ変わりとして囃し立てる。


 一般民衆はそれを見て安心し、国に忠誠を誓うものは大聖女様のためと奮起する。


 そんなくだらないことに自分の幼馴染は利用されていたのだ。


 敵の群衆がこちらに向かってくる。


「私が行くわ。貴方達は逃げなさい」


 彼女も自分の役割を分かっていたのであろう。


 捕まったらどのようなことが起こるのか、そんなことはすべて承知の上で傷ついた兵士達の前に立つ。


「ねぇ、昔の約束覚えてる?」


 それは大聖女ではなく幼馴染の彼女だった。


「あれさ。いまでも有効かな?」


 自分の方を見て寂しげに微笑む彼女を見て彼は無理矢理身体を起こす。


「なに負けたみたいなこと言ってやがんだった。大聖女様はどいてろ。こんな奴ら俺一人で十分だ」


 彼女を押しのけ彼は敵の大群に向かい可能な限りの大声で叫ぶ。


「大聖女の命が欲しかったら俺を倒してからにしろ!!」


 彼の気概に敵の全員が一瞬怯んだ。


 その時だ。


 彼の身体は自然と右腕を天に掲げ、左腕を腰に回していた。


「(何だこの構えは?)」


 彼はわけも解らぬまま敵の大群に対し声を発する。


「かっ!!!!!!」


 その瞬間、敵の大群と彼の鎧は全て粉砕した。


 この戦いの後、全裸の悪魔と呼ばれた彼は大聖女と共に戦場を駆け巡り、遂には敵国の制圧に成功する。


 国に平和が戻り彼の役目は終わった。


 が、事態は思わぬ展開となる。


「和平の証に相手国の王子と結婚することになったわ」


 彼女からその話を聞いた時、彼の胸の中は締め付けられているかのような痛みを感じていた。


「そうか。良かったな。王妃になれるなんて名誉なこった」


 皮肉しか言えない。


 いや、それ以外の言葉を発してはいけない。


 戦場で功績を上げたとはいえ自分と大聖女が結ばれることはない。


 それを彼は重々わかっていたのだ。


「それじゃあ、私が他の人と結ばれてもいいっていうのね?」


「国同士がそれで平和であるならそれに越したことはない」


「……そう、じゃあさよなら」


 自分に背を向けて去っていく彼女に彼は何も言えなかった。


 その夜、彼が自身の家で散々泣き叫び、地団駄を踏んでから王子の横で幸せそうにする彼女のことを考えて3回ほど吐いた時にドアがノックされた。


「なんて連れ去りに来ないのよ!」


 ドアの前に立っていたのはいなくなったはずの彼女であった。


「ずっと来るの待ってたのに! あんた男なんだからきちんと来なさいよ!」


 全力でビンタされた男はニヤリと笑い彼女に言う。


「おっし! 逃げるぞ!!」


 彼は彼女の手を取り何も持たずに走りだした。


「なぁ! 俺のスキルどう思ってた?」


「今聞く? 凄いとは思うけど何であんたも全裸になるのか意味がわからない!」


「はっはっはっ!! 俺もそう思う!!」


 その後、男と大聖女は国を超え、名前を変えて今も幸せに暮らしている。


「ーとさ。おやっ? ライリルちゃん寝てしもうたのか」


 スースーと寝息を立てるライリルのズレた布団をかけ直し、ダイリルは部屋から出てゆく。


「ライリルは寝たの?」


「あぁ、ぐっすりじゃよ」


「あんまり甘やかさないようにしてね。ワガママな子になっちゃうから」


「わかってますよ大聖女様」


「その言い方止めてって言ってるでしょ!」


 肩を軽く叩かれたダイリルは幸せそうに笑っていた。

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