第2話 能力発覚?ラルドレース場

『私はじいさんのギャンブル癖で昔から苦労した。だからあんたらは絶対にギャンブル何かしてはいけんよ?』


 ラルドレース場の入り口ゲートをくぐったときに昔ばあちゃんに言われた言葉が脳裏によぎった。


 ごめんなばあちゃん。


 でも、どうせ明日にはセラの奴隷になってろくなメシも食えなくなるんだから最後の日ぐらい好きにさせてもらうよ。


「おぉ」


 本当にここが建物の中なのか?


 円形状になっている客席には今まで見たこともないような沢山のお客さんで埋まっている。


 中央には楕円形のコースがあり正面にはデカい画面には本日のレースと大きく文字が流れていた。


 天井にはおびただしい数のライトがあり外よりも遥かに明るく感じる。


「ラルドレースってこんなに人気があるもんなのか」


『さぁ、本日の第一レース出場ラルドが入ってまいりました! まずは一番ジダイテイル今回は3番人気です!』


 上にあるスピーカーから流れてくる声に合わせて頭に1と書いてある旗の刺さったラルドがコースを歩きはじめる。


 客席にいる人達はラルドを見ながら紙に赤ペンで何かを書いている。


「歩いてるラルド見て何がわかるんだよ……ん?」


 そこで違和感を感じた。


「あのラルド頭に数字が浮かんでないか?」


 六本の足を器用に使い歩いているラルドの頭に2という数字が見える。


「何かの印……なのか?」


 次々に出てくるラルドにも同様に3とか10のように数字が浮かんでいるのが見える。


『さぁ! 次は今回勝てなければラルド料理にされる運命の最弱ラルドである12番サイキョウナンバーワンの入場だ! こんなところでコケて出場停止とか止めてくれよ!』


 そうして入ってきたラルドは俺から見ても貧相な体つきをしていた。


 中央の部分の毛が所々抜けてるし歩き方も下手くそだ。


 頭にある数字は……


「1だな……」


 今まで入場してきたラルドの数が12匹で、頭の数も1〜12まであった。


 もしかしてこれって順位の数字なのか?


 いや、でもさっきのラルドは最弱って言われてたよな。


『あと5分で今回の受付を締め切ります。まだの方はお早めに受付をお願いいたします』


 俺は隣りにいる貧乏ゆすりをしながら赤ペンをひたすら噛んでいるおっさんに一度聞いてみることにした。


「あの、ラルドの頭にある数字って……」


「はぁ? 何いってんのお前? こっちは昨日の負け取り返すために真剣なんだよ! 無駄に話しかけてくるな!!」


 めっさ怒られた。


 力入りすぎて赤ペン折れてたし。


 でもこれでわかった。


 他の人にはこの数字は多分見えていない。


 俺は受付カウンターに並び自分の番まで待つ。


 周りの人達は並びながらもまだ丸やらバツやらを書いてウンウン唸っている。


『次の方どうぞー』


「あっ、はい」


 受付はガラス越しになっていて口の高さに丸い穴がいくつか開いている。


 下には長方形の隙間があった。ここでお金を渡せばいいのか?


 受付の人の声は聞こえやすいようにマイクでこちらに聞こえるようになっているようだ。


『どのラルドに賭けますか?』


「あ、サイキョウナンバーワン? って名前のやつでお願いします」


『え?』


「え?」


『サイキョウナンバーワンに賭けるの?』


 受付の人がやたらびっくりした顔で訪ねてくる。


「はい、1000ギークでお願いします」


『貴方初心者でしょう? そうじゃなきゃあんなラルドに賭けるはずないものね……

いいわお金を無駄にするのも経験よね』


 俺の出した1000ギークを受け取り、代わりに第一レースサイキョウナンバーワン1000ギークと書かれたチケットを渡された。


『当たったら持ってきてね。換金できるからまぁ……ありえないだろうけど』


「ありがとうございます」


『負けても落ち込まないようにね』


 何故か受付の人に慰めの言葉を貰ったが俺は受付を後にして客席の一番後ろに座ることにした。


 さっきまで歩いていたラルド達は横一列に並んだゲートの中に入っていた。


 サイキョウナンバーワンはっと、いたいた。


 寝てるがな……


 頭の数字はやっぱり1なんだけど寝てるとか予想外すぎるわ。


 俺の目がおかしいだけなのか。


『さぁ! 全てのラルドがゲートに付き! 一匹を除いて全員やる気まんまんといった所でしょうか! それではラルドレース! ゲート……オープン!』


 声と同時にラルド達の前にあったゲートが開いた。


 サイキョウナンバーワン以外のラルド達が全速力で走って……全員ぶつかってひっくり返った!


『おーっと! 何たる事故だぁぁぁぁ! 1番から11番のラルドの接触事故! そして全匹裏返っている!』


 ラルドの性質上裏返ったら自力で起き上がるのにかなり時間がかかる。


 実際、ひっくり返ったラルド達は足を必死に動かしているが全く戻る気配がない。


『ここでサイキョウナンバーワンが動いたー!』


「おぉ!」


 今まで寝ていたサイキョウナンバーワンがもっそりと起き出してゆっくり歩いている。


 ひっくり返っているラルド達を意に介さずそのまま抜き去った。(この間五分)


 会場は悲鳴にも似た声で埋め尽くされている。


 サイキョウナンバーワンがゴールする直前に他のラルド達も起き上がり走り始めるが時既に遅し、サイキョウナンバーワンがゴールを決めた。(この間二十五分)


「やっぱり頭の上の数字通りの着順だ」


 これはどういうことだ。


 もしかして俺だけの能力なのか?


 ラルドレースの順位が見えるスキル?


 なんじゃそりゃ。


 俺の周りでは沢山のチケットが空を舞っている。


「まずは換金しないと」


 俺は当たったチケットを持ってさっきの受付に向かった。


「お願いします」


『奇跡が起きたわね! おめでとう! じゃあ今換金するから少し待ってて』


 そういやいくらになるのか聞いてなかったな。


 まぁ、1000ギークだし倍になったら最高だよな。


 いや、待てよ10倍だったら1万ギークになるのかそしたら肉食べれるな。


『はい、お待たせしました70万ギークになります』


「は? な、70万ギーク!!!」


『そうよ? だってオッズが700倍だもの』


 いきなり出てきたギーク束に俺の口は開きっぱなしになっていた。


『大金なんだから早く締まったほうがいいんじゃない?』


「ふっ! ふぁい!」


 変な声が出てしまったが俺は服のポケットにお金を詰め込んだ。


『じゃあ次の方どうぞー』


 俺は即座にトイレの個室へと走りドアに鍵をかけてからポケットのギーク束を数え始めた。


「マジかよ……本当に70万ギークある……」


 さっきまで1000ギークしか持ってなかったのに、これで今日は最後の晩餐……


 待てよ。


「このお金を利用して一日中ラルドレースで稼げば今日だけで借金返せるんじゃね?」


 どうせ最初はなかったお金だし。


 もし本当に俺の力が本物でラルドの順位が分かるのならば一攫千金のチャンスなんじゃね?


『私はじいさんのギャンブル癖で昔から苦労した。だからあんたらは絶対にギャンブルぶひゃあぁぁぁぁ!!』


 俺は脳内のばあちゃんの幻影に一撃を食らわした。


 ごめんなばあちゃん……でも店を守るためだから今日だけは許してくれよな。


 俺はギーク束を強く握りしめトイレを後にした。

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