第17話 反撃開始
人間の技術力では、迷宮を制圧しても利用することは不可能。
実際、地下を掘り進めることにも苦労し、コアにすら届けないでいる。
悪魔はその間に反撃の準備を整える。そしてついに、ウォーロックや高位悪魔などの戦力が確保できたので、我らがダンジョンを取り戻すときが来た。小さく惨めな巣穴から神聖な迷宮に帰る時が来たのだ。
迷宮の大部分はすぐにでも制圧できる。人間達の目的はあくまでダンジョンコアだ。その周囲だけにバリケードを築いて、あとは地上までの通路を警備しているだけ。ただし地上には駐屯地があり、地下で異変が起きれば、すぐにそこから増援が駆けつける。なので、なるべく早くダンジョンを取り返して防衛の準備を整えなくてはならない。
「準備はできたか」
「ギュピー!(はっ!いつでも大丈夫です!)」
「よし、作戦開始だ!」
インプは命令に従い、地下の掘削作業を始めた。
ただし、準備の段階で作業の九割は完了していた。後はコアに繋がる隠し通路を迷宮と"連結"するだけだ。
これで、迷宮に魔力が巡回するようになり、魔力装置と罠が復活する。
「よし。迷宮の一部を取り返せたぞ。もっと稼働率をあげて地上の増援を抑えられるよう急ぐぞ!」
そして、連結部からインプ、アークデーモンなどの悪魔を解き放ち、迷宮の制圧を開始する。
「うわっ!どこから現れやがった!?」
「ギピーッ!(かかれー!人間どもを血祭りにあげろ!)」
「ギピピーッ!(イエッサー!)」
「ぐおっ。や、やめろ!・・・」
インプクラスの小悪魔でも数になればそこそこの戦闘力はある。
普段は赤ちゃんみたいに可愛いインプたちだが、人間に対しては特に獰猛で、殺戮を好むようになる。テンションが上がると、人間のはらわたを引きずり出し、糞尿をまき散らし、最後に頭部でフットボールを楽しむのだ。
迷宮内の警備はインプだけでも簡単に制圧できるほど手薄な警備だった。
戦力の大半を投下すべきなのは、勿論、ダンジョン中心部の作業区画―――。岩盤で塞がれた、コア周辺のセントラルエリアだ。
「急げ。時間をかければ奇襲の意味がなくなる。上から増援を呼ばれる前に」
セントラルエリア内、コアのある岩盤周辺に築かれたバリケードは、ひどく簡素なものだった。小さな木柵で、時間をかければインプにでも破壊できそうな耐久度。
今回は時間をかけてられないので、新たな戦力を使う。
新たに投下された悪魔は、バリケードを簡単に破壊して侵入に成功する。
「何者だ、貴様ら・・・人間じゃないな」
警備兵達は、迫り来る悪魔に恐怖を覚えた。
インプやアークデーモンより高位の悪魔で、「人間に近い姿」をしているが、それが悪魔だとはすぐにわかる。悪魔の持つ異様な雰囲気、人間の本能で拒絶される"邪気"のようながあり、高位の悪魔でも隠しきれないことはある。
「ウォォォォォォ・・・ウオオオオオ!!人間ごときが悪魔である俺様に抗うなァ!」
「・・・・」
人間の兵士達は、言葉を発することもなく、ただ殺されていった。
「オオオオ!!殺す!よくわからんけど人間はムカつくから殺す!!」
悪魔は、【雷撃】の魔法で人間共を根絶やしにしていく。
怒り狂ったこの悪魔を止められる者はいなかった。発する言葉も行動も、高位悪魔とは思えない知能の低さ。しかも彼は擬態能力も持たない。戦闘のみに特化した悪魔だからだ。
「うおぁぁぁ!!はぁ、はぁ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・はあ?」
怒りを通り越して錯乱状態になっている。
「ギュピー(どうか落ち着いてください。アバドンさま)」
「人間がいなくなったぞ!人間を殺さなければ気が収まらん!!」
「ギュピピー!(それならご安心を。中心部に進めばいくらでもいますよ)」
彼の中には煮えたぎるような人間に対する憎悪がある。
それは悪魔が持つ本能で、他の高位悪魔でも、ダンジョンマスターでも同じ本能を持つ。彼のように殺戮衝動として露骨に表現するか、それともダンジョンマスターのように蝕むような苦しめ方を考えるかの違いだけだ。
雷撃の魔法は強力で、マレーサ魔術学院では極一部の限りた才能を持つ上級魔術師だけが使える高等魔術。戦闘において、直接的手段で相手を捩じ伏せるのにシンプルで効果的。
「・・・・」
人間達はただの暴力に成す術なく、黙って殺されていった。
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