第15話 小さな友情

「うーん。何を書いてるのかまったくわからん・・・」


 デビルロードは、地下の研究室にある蔵書の一つを手にとってパラパラとめくる。これらの書物を収拾したのは彼自身だが、内容はちんぷんかんぷんだった。

 そして、これを応用研究に使うのはウォーロックの仕事だ。魔術は非常に奥が深い。中でも悪魔が使う魔術は高度である分、強力である。自然や社会の均衡を破り、使用者にもリスクの高い危険な魔術であるというデメリットも存在するが。


 フィオナは作業の手をやめ、子犬のようにデビルロードのもとへ駆け寄る。


「デビルロード様。やっとお会いできました・・・」


「私にか?どうかしたのか」


「いえ。私を悪魔の世界へ引き入れて下さったお方ですから」


「なんだ、そんなことか。迷宮を取り戻すために、お前たちの知能が必要だからだ。この間まで人間だったお前達がダンジョンマスター様に忠誠を示すためにも必ず結果をだせ」


「勿論です。迷宮主さまのため・・・そして、あなた様のためにも」


「・・・まあ別にそれでも構わんが、とにかく期待しているぞ」


「はいっ!」


「(そんなキラキラした目で見られても・・・)」




 ダンジョンが人間の手に落ちて、数ヵ月が経った。

 それからは、ダンジョンとしての機能は成していない巣穴に仮の拠点を作って隠れ凌ぐしかなかった。

 ただ耐え抜くだけの苦痛の時期だが、仕方がないことだ。生き残るため。


 ただし、耐えるだけで何もしないわけではない。ダンジョンがなくても、ウォーロックを配下に加えて魔術力の底上げと、生き残ったインプを使って地下を掘り進んでいき魔鉱石を見つけ出すことだけは出来た。そして、特に後者の恩恵は大きい。魔鉱石が見つかれば、新たな高位悪魔を生み戦力増強することが出来る。


 

「ギュピー・・・(こんなところ探しても見つからねぇよ)」

 

「ギピー!(諦めんじゃねー!魔鉱石が見つかったら高位悪魔だぜ?どれだけ人生変わると思ってんだ)」


「ギュピ(そうだけど・・・)」


「ギピーギピー(すぐ目の前にデッカイ鉱床が広がっていると考えろ。長い道のりなんてどうでもいいだろ?結果のことだけ考えるんだ)」


「ギピー(はぇ・・・)」


 相方に励まされ、諦めずに掘り続けたインプ。彼の言葉で何度折れかけても立ち直ることが出来た。その相方は応援することがメインだったが。


「!!」


 そしてついに、彼らが報われるときが来た。


 デカイ鉱床が見つかればよかったのだが、そこにあったのは魔鉱石一欠片だった。しかし、魔鉱石であることに変わりはない。インプの仕事のうちで最大の手柄であり人生を変えられる唯一の手段。彼らは成し遂げた。


 もちろん諦めずに堀り続けたインプは彼らだけではないが、彼らには特に運があったのか、とにかく数ヵ月振りに、インプ達の手によって魔鉱石が発見された。



「・・・それで。結局どっちが最初に見つけたんだ?最初に見つけたインプに半分を分け与えるというルールだったが」


「ギュピー(私は諦めかけていましたが、彼に励まされました。魔鉱石は彼にお与えください)」


「ギュピー!ギュピピー(最初に見つけたのは私ではありません。ルール通り最初に見つけたインプが魔鉱石を与えられるべきです)」


「・・・・・・」


 ダンジョンマスターはしばらく難しい顔でインプたちを見つめる。

 そして急に号泣しだした(?)。


「なんて、なんて可愛いんだお前たちは・・・んん~」


 ダンジョンマスターはインプを抱き締めて頬擦りする。


「本来ならコアを成長させることがダンジョンマスターとしての責務だが、今回はダンジョン奪還のための事情もあることだし・・・半分ずつを二人に分け与えよう」


 サタナキアの件でも一欠片を全て与えているが・・・・・・・というか、忘れてたけどアイツは何をやってるんだ。いつになったら帰ってくるんだ。


 まあいい。俺がインプに甘いのはいつものことだ。コアの拡張はいつでもできるし。


「ギュピ!?(ええ!?そ、それはおそれ多い・・・)」


「いぃーから取っとけ!」


 そして、また二体の高位悪魔が生まれることになった。

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