第11話 楽しい学院生活
マレーサ魔術学院への入学条件は三つ。
・二十五歳未満で不自由なく言葉が喋れて、尚且つ健康体であること。
・魔術の才能を持ち、入学試験に合格すること。
・三親等以内にラーバ族、アルテミア族の血縁が存在しないこと。
三番目の条件は、魔術の強大な力は限られたものだけが会得し、「悪魔の子孫」である者には継承されるべきではないという思想に基づく。
フィオナとクロノも、当然この条件をクリアしている。
入学当時は特に思いがけなかったが、ここには古く排他的な因習が根付いており、また、悪魔を過剰に嫌う気風がある。なので、じばらくこの学院で生活するうちに、やっとこの条件に納得した。
そして、フィオナだけは、嫌うばかりでまともな知識を持ち合わせていないということも見破った。
学院の人間は悪魔という言葉に過剰な反応をする。噂が広がる環境としては十分だ。ただし、誰もが噂話に留め本気にはしておらず、それが現実になるとは思っていなかった。
「なにか臭わないか・・・?」
「すん。・・・確かに」
生徒の一人が、校内の庭園で異臭がするのを感じた。
腐った魚を放置した臭い、酪酸の臭い・・・強烈な、いわゆる"死臭"がした。
異常事態を察知したもう一人の別の生徒は、校舎からスコップを持ってきて、その異臭の発生源を掘り返すことにした。
「ぐぇっ。鼻がまがりそうだ」
土の中から現れた物を見て、彼らは驚愕する。
「これは本気でヤバいぞ・・・」
見つかったのは、"人間の死体"だった。
かなり腐敗が進んでおり、すぐに身元を判別することは不可能だ。しかし、死体には大きな特徴がある。脇腹の部分が骨まで抉れ損傷しており、ほとんど円形に、ぽっかりと穴が空いていた。
後にわかったことで、腐敗の進行状況から亡くなったのは一学期が始まる前と特定された。
「うげ。もしかして殺されたのか?」
「・・・その可能性は十分にあるな」
マレーサの学長であるアルテアは、死体が発見されたその日の内に全校集会を行って生徒に注意を促した。
「諸君。今朝、この学院内から白骨化した死体が発見された」
アルテアは感情のこもっていない声で淡々と話す。
当然、生徒の間ではざわめきが起きるが、彼らが気にしているのは亡くなった死体の身元よりも、それが悪魔による仕業かどうかだ。
学長は少し間をあけた後に続ける。
「詳しく言えんが、悪魔による術式の痕跡があった。外部の人間の仕業でないなら、この学院に"ウォーロック"に墜ちた人間がいる・・・」
それを聞いた生徒達は、悲しむでも恐怖するでもなく、"歓喜"した。一部の生徒からは歓声のような声が響く。学級崩壊並みだ、とフィオナは心の内でつぶやいた。
魔術師が悪魔に転生すると"ウォーロック"と呼ばれる。
魔術師の中で、才能はあったが落ちぶれてしまった者や、悪魔の狂信者として目覚めた者などがそうなりやすい。元々人間の世界に深く根付き身近に存在する分、地下の悪魔より質が悪い悪魔だ。
「悪魔に魂を売った魔術師などこの学院の生徒ではない!もしこの中に犯人がいるのなら名乗り出たまえ。吊るし上げられ非難を浴びるか、人知れず殺されるのとどちらか選ぶんだな・・・」
当然、名乗り出る者などいない。もし犯人がこの中にいたとしても、このタイミングで名乗り出るのは余程の度胸がいる。生徒達の間で長い沈黙が起きた。
「・・・・」
フィオナはこの学校に嫌な空気が充満しているのを感じた。
彼女はこの悪魔騒ぎが、差別や迫害を正当化する理由になることを懸念している。既に、他人種の血を受け継ぐ生徒に対しての差別は常習的に行われているので、その可能性は十分あった。
行き過ぎた行為はさすがに罰せられるだろう。しかし、そうなると今度は差別の対象が世俗的な感情に流れやすい。誰かにとって気に入らない人間であるという理由だけで、悪魔として迫害を受けることもあり得るのだ。
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