第4話 期待してあげる
好きな子と暮らすことになりました。この世は楽園です。
「この世界で過ごすことになったんだし、色々教えてあげる。ちゃんと聞いててよ」
「はい!」
お風呂をお借りしてスッキリしましたし、アンリさんに頂いたメモとペンの準備もバッチリです。
「まず……DHFって知ってる?」
「でぃーえいちえふ……知りません」
「ドールハウスファンタジーって言うMMORPGなんだけど、知らない?」
「すみません……MMOには詳しくなくて」
ゲームは好きですが下手なので、人様に迷惑をかける可能性のあるゲームやりません。
MMOなんてもう……怖くて無理です。
「そう。まぁ、この世界は
「つまり、ゲームの世界?」
「そういうこと」
なるほど……。なるほど??
「私がやり込んだゲームなの。だから1人でも店を開けたってわけ」
「さすがです」
どうしてか、榊さんにため息をつかれました。
おかしな事を言ったでしょうか……。
「……街の外には魔物がいっぱい居て危険だから球体関節魔法人形を操って戦うの」
「球体関節魔法人形……?」
街の外には魔物がいっぱいだから戦うのはほとんど全てのRPGゲームに共通する設定だと思うのですが、球体関節魔法人形というのはいったい……。
「ルネみたいなドールだよ。魔法で動いたり喋ったりするの。
「なるほど……。榊さんもオーナーをやっているのですか?」
榊さんが再度ため息。
もしかして僕、喋る度に彼女を不快にさせているでしょうか……。
「私は違うよ。ここではドールメーカーって呼ばれる職業に就いてるから」
「ドールメーカー、ですか」
ルネさんのパーツを作ったりしていましたし、ドールを作ったり修理したりする役職でしょうか。
「そ、ざっくり説明するとね、魔物は倒すと『パーツ』や『装備品』を落とす事が有るの。それらは一つ一つに『ステータス』が割り当てられてるから、ドールを強くする為にいろんなパーツを組みあわせてカスタムするの」
ここまでは分かる? と榊さんが1度説明を止めます。
現実のドールもアイやウィッグ、手の形やメイク、衣装でかなり雰囲気が変えられます。
カスタムドールと言われる、ドールの魅力の一つですね。
「はい、分かりました。カスタムドールという事ですね? 僕もドールオーナーなので分かります」
「そうそう。ダイヤ、ドール持ってたんだ。なら説明しやすいかも」
榊さんが少し嬉しそうです。
彼女がドールオーナーだと知ったその日からコツコツとバイト代を貯めて、ドールをお迎えした甲斐が有りました。
……下心からお迎えしましたが、今ではとっても愛していますよ。なにせ僕の食費3ヶ月分がほぼ毎月飛ぶようになりましたから……。
愛のためなら些細な事ですが。
「カスタムする時って、見た目が良くなるようにパーツを選ぶでしょう? でも、ステータス重視でカスタムするからさ、強い子はすごく不格好になるの」
「なるほど……」
ゲームあるあるですね、ステータス重視で装備品を集めた結果あべこべになるのは。
「そこでドールメーカーの出番よ。ステータスを変えないように見た目をオシャレにするの」
「なるほど!」
榊さんは手先が器用ですからね、ピッタリの職業と言えます!
「結構難しいんだよ、上手くやらないと見た目と一緒に性能まで変わっちゃうから」
「アンリさんが自慢していましたし、榊さんは上手くやっているんですね!」
「まぁね。DHF、やり込んでたし」
「さすがです!」
性能とか気にしなくても良いドールですら僕は怖くて修理も整備も作成も自分ではできませんでしたから。
「ダイヤは……こういうの得意そうなイメージないけど、どう?」
「苦手ですね。服は作れるのですが」
「へぇ! 私も服つくるけど、最近はもうパーツだけで忙しすぎて手が回ってないの。練習はしてもらうけど、装備はダイヤが担当してよ」
「分かりました! 榊さんのためですから、全力を尽くします!」
期待の籠った顔をしていた榊さんの表情が残念そうな顔になりました。
どうしてでしょう……そんな顔をされるような事言ったつもりはないのですが。
「アンタさぁ……はぁ……もういいや。私のためじゃなくて、お客様のために頑張ってくれる?」
「そ、そうですよね。ごめんなさい……」
やってしまいました。確かに、お仕事はお客様ありきで回っているものですもんね。
榊さんのため、だとお客様を蔑ろにするように聞こえてしまっても仕方ありません。
「まぁ……どうせ初心者が役に立つのなんて数ヶ月先だろうし、アンタに仕事任せられるようになるのはもっと先だろうし。良いよ」
ダメです、このままだと榊さんに嫌われてしまいます。
いやもう既に嫌われている気もしますが。
「ごめんなさい! 僕、本当にちゃんとしますから。お役に立ちますし、どんなことだってやります。弱いですが、榊さんやお店を守るためなら戦ったりだってしてみせます。だから——」
「あー分かった分かった、ごめんって。言い過ぎた」
僕の言葉を遮った榊さんが、大きくため息を着きました。
「期待してあげる。条件付きでね」
「なんでも応えてみせます!」
榊さんが再度ため息を着きました。
コンマ1秒でも早く榊さんがため息を付かなくても良い人間になりたいですね……。
「本当に応えてよ? じゃあ、全部書くからそれ貸して」
「はい」
榊さんにメモとペンを渡すと、すごい勢いでメモに文字を書いていきます。
僕は榊さんの出す条件に応えられるのでしょうか……?
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