36.あの時言えなかった事!?①

「もしかして、優太も来てるの?」


凛津達のいるという部屋の前まで来ると、中から二人の声が聞こえた。


どうやら有里ねぇが凛津のことを引き留めていてくれたらしい。


「あぁ! 来てるぞ」


俺はそう言って扉を開け、凛津の方をまっすぐ見た。



「……何しに来たの?」


「……凛津、少しだけ話を聞いてくれないか?」


「……話すことなんてないでしょ」


「頼む……この通りだ」


そう言って俺は凛津に頭を下げた。


すると、凛津は少し視線を彷徨わせてから


「少し……だけなら」


そう言って畳の上に座った。


俺もそれに続くように、凛津の近くに腰を下ろす。


そんな俺たちの様子を見た2人は


「私たちは向こう行ってるね」


「僕もそうしますね」


そう言いながら部屋を出て行った。


部屋に残されたのは俺と凛津の2人、会ったのは昨日のリビング以来だ。


あんな別れ方をしてからの今日なので、何から話せばいいのか躊躇ってしまう。


「あの……さ、凛津」


まずは昨日の事を謝ろう。


静かな部屋に俺の声だけが鳴り響く。


「……そのさ」


俺がそう切り出すと、凛津の体が少し強張った気がした。


「一昨日の花火大会の話……なんだけど」


「……」


「あの日、俺と有里ねぇがキスしてたのを見た……んだよな」


「……」


凛津は何も言わず、頷くように顔を俯けた。


その姿は、昔神社で凛津を見つけた時のあの感覚を自然と思い出させた。


「凛津……俺さ、好きな人が出来たんだ」


俺は静かにそう切り出した。


が、


「……聞きたくない」


「その人はさ……」


「やめて……」


凛津はそう言って俺の言葉を遮ろうとする。


普段の俺ならここで止めてしまっていたかもしれない。


けれど今、この瞬間だけは、俺はここで止めるわけにはいかない。


「その人に、初めて会った時には全然そんなふうに見てなくてさ……。……正直、こんな気持ちを抱くなんて想像もしてなかったんだ……」


凛津は両手で耳を覆った。


まるで、聞きたくないとでも言うように。


しかし、俺はそれでも続ける。


凛津が聞いていようと、いなかろうと俺自身が改めてその気持ちを確認するためにも……。


有里ねぇには『物事には順序ってものがあるでしょ』なんてことを言った。


そして凛津には『お前がまだ俺のこと好きなんだったらな』なんて事も言った。


俺はあの時、本心からそう言っていたはずだ。


それは間違いではない。


けれど……それらは結局、一歩踏み出せない自分に理由をつけて先延ばしにする為のものでしか無かったんだ。


今ならそう分かる。


「凛津……」


俺は耳を塞いだままの凛津にもう一度呼びかける。


依然として返事はなかった。


けれど、


「凛津、俺が好きなのは……お前なんだ!」


俺は一息にそう言い切った。


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