20.ニ度目のお泊まり!?③
今からおおよそ7年前、島に来てから、その日初めて俺は凛津と喧嘩した。
「もうっ! お兄ちゃんなんて大嫌いっ!」
「あぁ! そうかよ? それじゃもう俺に話しかけて来るなよ?」
「当たり前じゃんっ! そっちこそ話しかけてこないでね!」
喧嘩の原因は……そんなに覚えていない。
けど、本当にどんでもいいことだったと思う。
子供の喧嘩なんて大体そんなもんだ。
俺はどうせ何日かすれば、すぐに仲直りするんだろうななんて思っていた。
喧嘩をしてからその翌日
ガラララっ
玄関の扉が空いた。
ほら見ろ! すぐ来たぞ!
俺はそう思いながら玄関の方へ行った。
扉が開くと立っていたのは案の定、凛津だった。
「おぉ! 凛津仲直りしに来たのか?」
俺は友好的に凛津に歩み寄った……のだが
「いたっ!」
突然、凛津が俺の足めがけてキックしてきた。
「おいっ! 何するんだよ! 痛いじゃないか!」
俺は凛津の方を向いて睨みつけたのだが……
「あっ……えっ……と……。ごめん……」
何故か凛津は泣きそうな顔をしていた。
「え、凛津……」
俺が何か言おうとすると……
バタンっ
そのまま家を飛び出してしまった。
「おい! 凛津!」
俺は慌てて追いかけたけれど、結局間に合わずに凛津を見失ってしまった。
「はぁ……なんだってんだよ」
俺はその日、一日中何故凛津があんなことをしてきたのかずっと考えていたけれど結局何も分からなかった。
明日にでも凛津のところへ行って俺から話してみるか
そう思いながら俺は自分の部屋のベッドに寝ころがる。
「はぁ……。早く仲直りしないとな」
そのまま俺の意識は夢の中に落ちていったのだが……
「優太! 起きて!」
俺はおばあちゃんの声で目を覚ました。
「……ん? どうしたの?」
外を見るとまだ真っ暗だし、近くにあった時計の針は12時を示している。
俺が寝たのは10時半だからまだ一時間半しか経っていない。
「優太! 凛津ちゃんどこにいるのか知らない?」
「え? 凛津?」
凛津がどうかしたのだろうか?
「わからない……けど」
「……そう。困ったわね」
「凛津がどうかしたの?」
「それがね……凛津ちゃん、まだ家に戻ってないんだって」
「え? 凛津が……」
凛月がまだ家に帰っていない……てことは誰かの家に泊まってるとか? いや、それだったらわざわざおばあちゃんのところまで知らせる必要もないし……
「おばあちゃん……俺、探して来るよ」
俺はすぐにベッドから起き上がって走り始めた。
後ろからおばあちゃんが何か言っていたけれど、もう俺の耳には届いていなかった。
「おーい! 凛津! どこだ! いたら返事しろ!」
俺は真っ暗になった島の中を走り回りながら呼びかける。
しかし……
「はぁ、はぁ、はぁ、ダメだ……全然返事がない」
俺はすぐ近くにあった大きな石に腰掛けて凛津の行きそうな場所を思い浮かべる。
山の中? いや、凛津は自分からは進んで入ろうとしないから違うか……じゃあ川の方か? でもさっき行った時は物音ひとつしなかった……。
じゃあ、どこだ?
考えても分からない……。
俺は考えるのをやめて再び凛津を探すために島中を走り回る。
そして神社の前を通った時……
「ん? いま人影が見えた気が……」
俺は神社の境内の裏の方で小さい人影が見えた気がした。
近づいてみると……
「はっ! 凛津!!」
そこには凛津がいて
「んっ、ゆう……兄ちゃん?」
壁に寄りかかって寝ていた。
「はーっ、良かった。凛津。おじさんもおばさんもすごい心配してたぞ! 早く帰ろう」
「えっと……私、ここに来てから……」
「どうしたんだ? 凛津、早く帰ろう」
凛津はどうやらここで寝ていた事を今思い出したかのようだった。
「うん、帰る……ありがとう、優兄ちゃん」
「あぁ。気にするな」
俺は夜暗い中、凛津と手を繋いで帰った。
「ところで……なんで凛津は神社にいたんだ?」
「……それは。優兄ちゃんが……」
「ん? なんだ? 聞こえないぞ」
俺は凛津の声が急に小さくなって聞こえなかったのでそう言った。
すると、凛津は大きく息を吸い込んで
「だっ、だから! 私が優兄ちゃんに結婚してって言っても『あぁ、お前が大人になったらな!』しか言わないくせに、有里ねぇが私の真似して言ってる時は……」
「なんだ?」
俺何かしてたか? 自分の行動を振り返って確認するけれど……なんもしてない? よな?
「鼻の下伸ばしてさ!! 有里ねぇと早く結婚したいな〜とか言っちゃってさ!」
「おい! 待て待て待て! 俺はそんなこと言ってないぞ?」
まぁ、確かに少し……ほんの少しだけ! 思ったけどさ……。
「ほらっ! 優兄ちゃんやっぱりそうなんだ!」
俺の心を読んだかのように凛津がそう言う。
「違うって言ってるだろ!」
もしかして……
「凛津と俺が喧嘩した原因ってもしかして……」
すると、凛津は黙って俯いた。
図星だったのか……。
まぁ、年頃の女の子だし、そんなこともある……のか?
俺はそんなことを考えながらも、一番気になっていたことを聞いた。
「それで、その事と神社に来たことの何が関係あるんだ?」
「……それってやっぱ言わなきゃダメ?」
「……凛津が言いたくないなら良いけど、俺は知りたいかな」
凛津は少し時間が経ってから顔をあげて、俺の質問に答えた。
「……私が、有里ねぇだったら……って思ったの」
「ん? 凛津が有里姉ちゃんだったら?」
「そう……。だからお参りしてたの……私を有里ねぇにして下さいって」
「……」
俺はなんて言えばいいのか分からなかった。
子供のそんな冗談など、笑って済ませればいいものだと思う。
俺もそう思っていた。
けど……そう話す凛津の顔があまりにも暗くて……
「なぁ、凛津」
「……」
「俺はさ、凛津の良いところたくさん知ってるぞ!」
「……」
「まずはそうだな〜! なんたって可愛い! それに真面目だし! それから……ちょっと抜けてて……恥ずかしがり屋で……」
「……」
凛津は俺の話を俯きながらも聞いていた。
「俺はさ……そんな凛津が大好きなんだ」
「だからさ……俺は、凛津が他の人になりたいだなんて思って欲しくない……かな。だって、凛津はもう俺にとって大切な存在なんだから」
「……本当に?」
凛津は少し顔を上げてそう言った。
「あぁ! それにいつも言ってるだろ? 凛津が結婚してくれって言う時に俺は『やだ』じゃなくて『大人になってお前がまだ俺のことを好きなんだったらな』ってさ」
「……そう」
俺たちが話し終える頃にはもう既に凛津の家の前まで来ていた。
「それじゃあ、また明日な! 凛津!」
俺は別れ際、凛津に向かってそう言う。
「……うん。また明日」
凛津はそう言ってから玄関の扉を開ける。
これは仲直り……でいいのか?
俺はそんなことを思いながら、背を向けて帰ろうとした……
「まって!」
その時、凛津が俺を呼び止めた。
俺は驚いて、再び凛津の方へ向き直る。
すると、
「ごめん」
突然、凛津が頭を下げた。
「いきなりどうしたんだ? 凛津」
「あの……昼に蹴ったりして……ごめん」
「それは昼に謝っただろ?」
「そう……なんだけど」
それから凛津は少し間を開けてから
「私ね……最近おかしいの」
「おかしい?」
「うん……。なぜか、もっと仲良くなりたい……とか、仲直りしたいとか……それから好きな人な気づいてもらいたい……って思うと……なぜか全く逆のことをしちゃうの……」
「逆のこと?」
「そう……その人と喧嘩になったり、仲直りするどころか仲悪くなっちゃったり……前まではこんなじゃなかったのに……」
そう言いながら凛津は泣き始めてしまった。
「だっ、だから……今回も……優兄ちゃんに迷惑かけちゃって……」
俺は泣き始めた凛津の頭の上にポンと手を置いて
「迷惑? そんなの俺が迷惑だと思わなきゃ、迷惑っていわないんだよ?」
それから
「凛津はさ……自分ばっかりが迷惑かけてるとか思ってるんだろうけどさ、案外みんなそんなもんなんだよ。だから気にするな、それにさ凛津は自分のことをそんな風に考えることが出来てるだろう? 普通はそんな所までみんな考えてない……ていうか考えられない。だから、凛津はすごいと思う」
そう言った。
「だからさ……これからはそんなこと気にせずに、どんどん迷惑かけてくれ!」
そのくらいの事で俺が凛津の事を嫌いになるはずがない、そういう意味を込めて言った。
俺がそう言うと
「クスッ」と凛津が笑った。
「どんどん迷惑かけてくれ……って優兄ちゃん……おかしいよ」
「おい! 俺はお前のことを思ってだな!」
「分かってる……だから、嬉しい……」
凛津はまだ流れていた涙を拭き取りながらそう言った。
俺は何故かその時、無性に気恥ずかしくなって
「おっ、おう! そうか……じゃあ! 俺は帰る! また明日な!」
そう言って、家まで走って帰った。
以上が俺と凛津の最初で最期の喧嘩の話だ。
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