第6話「久々に見ると、ちょっと強烈ね」
農家の朝は早い。この日も私、ミア・ブロンソンは日の出とともに起きた。
ここモカロの町でも美人の方に数えられる顔を冷たい水で引き締めて、スレンダーだが胸はそこそこある自慢の体を、いつものブラウスとロングスカートに収める。
寝癖を整え、赤みを帯びた少し癖のある茶髪を手早くポニーテールに結ぶ。そして鏡の前で「よし!」と気合を入れてキッチンに向かえば、既に母が竈に火をくべていた。
「おはよう。お母さん早いね」
「おはよう。パンとサラダの用意を頼むね」
エプロンをつけつつ「はーい」と返事をするけど、どうもいつもと様子が違う。
「あれ? お母さん。皿数多くない」
「何言ってんだい。昨晩二人増えたろ」
「あ、そうだった。チーズ足りるかな」
「なんなら新しいの出しな」
普段より少し忙しい朝食準備だけど、お母さんもちょっと浮かれているみたいで、会話も弾んだ。
「さて、そろそろ二人起こして、お父さんも呼んできてくれるかい」
「わかったー」
サラダを食卓に運びつつ、普段は使う人のいない部屋のドアを叩く。
「お兄ちゃんたち、もうすぐご飯だよ。起きて!」
わざと大きい音でノックしたけど返事がない。昔から寝坊助な兄たちだ。どうせ大いびきだろうとドアノブを掴む。
「ほら、お兄ちゃんたち! ……あれ?」
予想に反して部屋はもぬけの殻で、ベッドは整えられ窓も半分開いていた。
「お母さん、二人ともいないよー」
「え? そうなのかい? 散歩でもしてるのかね。お父さん呼ぶついでに見てきてくれる?」
ケープを肩に、部屋履きをブーツに履き替えて畑に向かおうとするけど、ちょうど父スパイク・ブロンソンが、兄であるアニーとオットーが畑から戻ってくるところだった。
朝日に照らされる、ガタイのいい父。そして朝の爽やかさのまったく似合わない、凶悪な世紀末ヅラをした二人の男。
流石にトゲや鋲のついたあのジャケットではないけど、まるで徹夜で飲み明かしてきたワルにしか見えない。
「久々に見ると、ちょっと強烈ね」
「ようミア。どうした頭抱えて。二日酔いか? しかし朝からいい汗かいたぜ」
「畑仕事もたまにはいいね兄貴」
「せっかくの爽やかな朝が……まぁいいや。朝ごはんできるから三人とも汗拭いてきて」
「おう待ってたぜ」
「腹減ったぜ」
水場に向かう二人を見送って、その後を歩く父をねぇと小突く。
「お兄ちゃんたち、手伝ってくれたの?」
「……ああ」
「へー。畑仕事、昔嫌がってたのに」
「……」
「お父さん、嬉しそうじゃん」
「フン……」
普段から口数の少ないお父さんは、何かをごまかすかのようにその分厚い手で頭をワシワシとなでてくる。正直やめてほしいけど、お父さんもどこか嬉しそうで、ま、いいか。
さて、少し賑やかになった一日が始まる。
私は懐かしいような浮かれたような気分で、肩を小突き合う仲のいい兄弟と、普段より機嫌のいい父の背中を眺めた。
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