第4話

 王都の剣術大会が開催される日になった。

 アーヴィンは母親の世話をした後、ケネスの家に向かった。

 ケネスはアーヴィンに会うと、こう言った。

「アーヴィン、お前は十分強くなった。自信を持って戦ってこい」

「ありがとうございます、ケネスさん」


 ケネスは良く磨かれた剣を取り出し、アーヴィンに渡した。

「この剣は、お前の父親の形見だ。今ならこれを十分に使いこなせるだろう」

 アーヴィンはずっしりと重い剣を構え、振り下ろしてみた。

「悪くない」


 ケネスはそう言うと、優しく微笑んだ。

「さあ、剣術大会に向かおう」

「はい、ケネスさん」

 アーヴィンとケネスは剣術大会の会場に向かった。


 王都はお祭り騒ぎで賑わっていた。

 人々の話し声が聞こえてくる。

「さあ、どの剣士が勝つか」

「俺は騎士団長だと思う」

「アーヴィン? 聞いたことがない名前だな」


 ケネスがアーヴィンに話しかけた。

「緊張してないか?」

「大丈夫です」

 アーヴィンは剣術大会の会場で出場手続きを終わらせると、ケネスと別れた。

 試合は順調に進んでいった。アーヴィンの強さに、民衆は歓声を上げた。


「あの若造、けっこうやるな」

「ああ、騎士団長との戦いが楽しみだな」

 観戦席から見ていたケネスはそんな声を聞いて、アーヴィンの強さを自慢したい気持ちを我慢した。

「さあ! アーヴィン、決勝だ!」

 ケネスは闘技場に立つアーヴィンに叫んだ。

 

 アーヴィンは緊張していた。

 目の前に居るのは、この国の騎士団長だ。

「それでは、決勝試合を開始する」

 騎士団長の剣が、アーヴィンの髪をかすめた。アーヴィンは軽くそれをかわすと、騎士団長の首元に剣を突き立てた。

「優勝は、アーヴィン!」


「……強いな、君は」

 騎士団長に言われ、アーヴィンは照れ笑いをした。

「さあ、王女から祝いの言葉が贈られるぞ」

 アーヴィンが王女に近づいたとき、観戦席から聞いたことのある声が響いた。

「盗賊が優勝したのか!? アーヴィンは盗賊団の一員だぞ!!」

 アーヴィンと王女が声の方向を見ると、マックスが笑っていた。


「今の言葉は、本当ですか?」

 美しい王女からそう聞かれアーヴィンが返答に困っていると、兵士がアーヴィンを捕らえた。

「王女様、僕は心を入れ替えて真面目に剣術を学んできました」

「盗賊だったというのは本当なのですね」

 騎士団長が王女とアーヴィンの間に割って入った。


「アーヴィンは失格とし、牢屋へ入れなさい」

 王女はアーヴィンを冷たい目で見た。

「この大会の優勝者は騎士団長とします」

 アーヴィンは腕を鎖でつながれ、牢屋に連れて行かれた。

 騎士団長は民衆の歓声につつまれ、大きく手を振り上げた。


「この盗賊が! 図々しいにもほどがある! ケネス様もこんな奴を推薦するなんて老いぼれて判断力が衰えたか……」

 兵士の言葉にアーヴィンは反論した。

「いいえ、ケネスさんは悪くありません。僕が……悪いんです」

「とりあえず、大人しくしていろ。お前の処分は追って知らせる」

 兵士が去った。

 アーヴィンは一人、牢屋でうずくまっていた。

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