異世界ジャンパー

茉莉鵶

第1話 年越しジャンプで異世界ジャンプ

 現在の時刻、二十三時五十五分。日付も大晦日から元日に変わるまで、あと五分を切っていた。

 ここは近所の人しか来ないような、いや逆を言えば地域の年間行事の祭事がある度に、近所の人たちで賑わいを見せる、とある神社の境内。既に年越し初詣を目当てに、近所の住民たちが集まりつつある。


 毎年、元日を迎えると、境内の中では数箇所火が焚かれ、更に近所の自治会の当番班が防犯も兼ね、お汁粉や甘酒などを無料で振る舞っていた。

 それと特別に零時から二時ごろまで限定だが、境内の授与所では、おみくじや絵馬、破魔矢などを、巫女さんから授けてもらうことが出来る。その為か、巫女さん目当てでくる参拝客も少なくない。


 そして、家族と一緒に年越し初詣をする為に来ており、スマホ片手にキョロキョロと周囲を確認している、地元の高校二年生の花杉かすぎ槙杜まきと。まさに彼も、元日の深夜帯限定で現れる、この神社の巫女さんを間近で見ることが本当の目的だった。


 「ほら、槙杜?もうすぐ年が明けるわよ?」


 そんな槙杜のすぐ右隣にいた一つ上の姉が、そう声をかけた。


 「えっ?!もうそんな時間!?」


 慌てた槙杜がスマホの側面のボタンを押して、画面を見ると、時刻はもう二十三時五十九分で新しい年を迎えようとしていた。


 「ほら、カウントダウンだぞ?ごぉっ…よんっ…さんっ…にぃっ…!!」


 左隣にいた槙杜の父親が、スマホの画面を見せると、そこにはTV番組と連動した生配信動画が映っており、カウントダウンをしていく。


 「いちっ…!!」


 ──ジャリッ…


 「ハッピーニューイヤー!!」


 それは、よくある年越しのひとコマだった。年越しの零時零分零秒に合わせて、年越しジャンプをして地球上に居なかったというアレだ。普段は初詣など行かない槙杜だったが、これから現れる巫女さんの件でテンションが上がっていたようで、何気なしに実践してみただけだった。


 ──ビュンッ…


 人にもよるが思い切りジャンプをする時、目を瞑りがちだが、槙杜もその一人だった。


 ──タッ…


 「って…あれ?」


 神社の境内の砂利が敷かれた場所で、槙杜は年越しジャンプを行った。だから、飛ぶ時は砂利の音が聞こえたのだが、降りる時は砂利の音が聞こえなかった。

 その代わりに、硬い材質で構成された地面へと降り立った感覚や音が、彼の身体へと伝わってきたのだ。


 「ええええっ!?ここは…?!どこ!?」


 槙杜は真っ暗な場所で、ひとり立っていた。先程までは、火が焚かれ明るい神社の境内で、姉と父親が彼の隣にいた筈だった。それに、他にも近所から来た参拝客が、境内に沢山いたのも彼はハッキリと覚えていた。


 「はじめまして。ハスギ・マキトくん。そして、おめでとう。君は、究極スキル“異世界ジャンプ”の適合者に選ばれたんだ。これから、究極スキル“異世界ジャンプ”について説明するから覚えてね?一度しか言わないから、ちゃんと覚えておいてね?」


 急に槙杜の名を呼ぶ若そうな女性の声が、真っ暗な場所に聞こえてきた。それも、究極スキルとか、“異世界ジャンプ”とか、適合者とか、訳のわからない単語を連発させて。しかも、彼の心の準備もつかぬまま、そのスキルについて一方的に説明を始めようとしていた。


 「ちょっと!!何言ってるか、全然分からないんだけど!!」

 

 「まず究極スキルというのは、誰でも持てるようなスキルではないからね?全ての世界の中で、ただひとりしか持つことの許されないスキルが究極なの。そして、スキルも下級、中級、上級、特級、真級、究極と分類されていてね?」


 全く、槙杜の言葉には耳を傾けようとせず、女性の声は淡々と説明を続けていく。


 「はぁ…?!そんなウルトラレアなスキルを、この俺が!?ただの…いや、普通以下の高校生なんだぞ?」


 どうして普通以下の高校生と、槙杜は自分のことを初対面?の相手に言うのかはまた今度、説明することにしよう。それに、槙杜が語る事があるかもしれない。


 「特級スキルまではね?誰でも頑張れば習得可能なんだ。でも、真級スキルと究極スキルについては、そのスキルの持ち主を殺すか、そのスキルを譲渡する手続きをした際、スキル自身に適合者として認められなければ、習得できないからね?折角、マキトくんはそんなスキルに認められたんだ!!だから、スキルを奪われないように頑張ってよね?」


 「なんだって…。頑張れって言われてもな…。ああ、そうか…そうだよな!!他にも、攻撃スキルとか貰えたりするんだよな?」


 この女性の言葉をしっかりと、槙杜が受け止められていたのなら、究極スキルである“異世界ジャンプ”が譲渡されたのではとなったはずだ。全ての世界で、一人しか習得出来ないスキルなのだから。


 「そうだ!!マキトくんには特級スキル“翻訳:会話”を授けてあげるね?これから、たくさんの異世界を駆け巡るんだ、絶対必要だよね?そろそろ、“異世界ジャンプ”の説明始めるけど良いよね?」


 「あの!!こ、攻撃スキルとかは…?!」


 「おほんっ…!!究極スキル“異世界ジャンプ”には、マキトくんがいた世界でいう“レベル”が存在していてね?“異世界ジャンプ”を使えば使う程、スキルの“レベル”が上がるんだ。こういうのマキトくん、ワクワクするよね?ああ、そっか!!“レベル”上がると、スキルが教えてくれるから、それを聞くのもいいけどね?まず、いまの状態で使える付帯スキルは、“コミット”と“ロールバック”だけなんだ。それを使うには、まず“異世界ジャンプ”と想像するでも言うでもいいけど、跳躍するんだ。そうすると、スキルがどうするか聞いてくるから、付帯スキルを決めるんだ。“コミット”は、現在居る世界に対して、マキトくん含めたそこまでの全ての事象を確定・記憶させることができる。“ロールバック”は、」


 「なんかデータベースみたいだよな。ロールバックとかコミットとか。」


 データベースに興味のある槙杜は、その二つの用語を知っていたようで、思わず口を衝いて出てしまったようだ。


 「マキトくんが“異世界ジャンプ”してきた時点まで、全ての事象を巻き戻すことができるんだ。ただ、“コミット”と“ロールバック”には、再使用待機時間が“初回一分間”って決まっているんだ。ただ、二回目は二分間、三回目は四分間って感じで、マキトくんの世界でいう“二の冪乗”で増えていくから注意してね?“レベル”が一つ上がると、“ジャンプ:ランダム”が使えるようになるよ?その名の通り、どこに行くかは運次第だけど、異世界への転移が可能になるんだ。これの再使用待機時間は“初回一日”だから気をつけてね?“ジャンプ:ランダム”で別の異世界に移動してしまうと、それまで居た異世界はマキトくんがきた直前まで、巻き戻ってしまうから注意が必要だよ?万一、同じ異世界に転移しても同じ結果になるから、使用する場合は覚悟しておくようにね?」


 「再使用待機時間はあるけど、任意でタイムリープが可能ってことか。自分の都合の良い状況になったら、コミットすればいいんだもんな。これって俺、マジで最強かもしれないな!!」


 「更にレベルが一つ上がると、“リターン:スキップ”が使えるからね?これは、二つ前に訪れた世界へ戻ることが出来るんだ。それと、“リターン”と言えど“ジャンプ”して戻るので効果は一緒、でも再使用待機時間が“初回一ヶ月”だから注意してね?それから更にレベルが一つ上がると、いよいよ“リターン:スキップ・セレクト”が使えるようになる!!二つ前に訪れた世界へ戻ることが出来るのは同じなんだけど、転移する際巻き戻しするか確定させたままにするか選べるんだ。あ、そろそろ時間みたいだね?頑張って、ワタシに会いにきてね?」


 ──ブチッ…


 一方的に通話が切れたような感じになり、槙杜と声だけの女性の会話は終わりを告げた。


 「おい!!『ワタシに会いにきて』ってどういうことだよ!!」


 ──フッ…


 急に真っ暗な空間から、ファンタジー世界のような街並みが現れた。気付けば、そこの石畳のような大通りのど真ん中に槙杜は立たされていた。

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