第55話 ミリアムの交渉 2/2






▷▷▷▷ミリアム◁◁◁◁






「勘違いしてるようね。これから、あなたは私の配下になるのですから、口の利き方には気をつけなさい、ですわ」



私の言葉に、謁見の間は凍りつく。




「ミリアム王女。その発言は聞き流せんぞ!!」



マニーシアは怒りを隠すことなく憤怒の表情で私を睨んでくる。

私は横目で隣に座っている国王タバーニを見るが、全てを悟っているかのように頭を抱えていた。



このティーレマンスは、実質マニーシアが実権を握っていると聞いていましたが、どうやら違うようですわね。




「ふふふ。国王タバーニは分かっているのですね。ティーレマンスに残された選択肢は、契約を破棄し、マルティナ様に頼ること。それと•••」



私はクロスの首元に向けていた剣の刃先を、軽く首に触れさせた。

クロスの首からは血が流れ出す。



「や、やめてくれ•••」


「静かに、お話中ですよ」



クロスは額から大量の汗をかきながら、剣がこれ以上刺さらないよう、静かに首を縦に振る。




「それと•••、何でしたっけ?」


「•••」



タバーニ、マニーシア、ティエルとも私の変貌ぶりに驚いているのか、間抜けな顔をしたまま固まっている。



「そうそう。王国信頼度調査結果による財政難、ディコス村壊滅による資源損失、勇者パーティー壊滅による魔物被害の拡大•••」



クロスの首に更に剣を差し込む。




「これを解決するには、私の配下に、アルメリア王国の属国になるしか道はないのですわ」


「や、止めろ」




私は剣を思い切り突き刺した。

クロスは血飛沫を上げて倒れた。




「お話中、といいましたよね。いけない子•••。あとね、私は女性を粗末に扱う者が嫌いなのよ」


「な、何ということを•••」


「先に手を出したのはこいつですわ。それにしても、いくら私が幼少より武術、剣術を嗜んでいるとはいえ、これを勇者と勘違いしますかね?」


「ぐっ」




マニーシアとティエルは、拳を強く握り締めている。

横にいるタバーニは、どこか先ほどよりも表情が明るくなっていた。




「ティエル•••。終わりだ。全て真実を話し、契約を破棄しなさい」


「い、嫌•••。嫌ですわ。こんな欲の塊の女に全てを奪われるなんて•••」


「あら、侵害ですわ。私は信念を貫いているだけですわよ」


「信念ですって•••」



私はティエルの前まで歩いて進むと、顔が触れそうなほど距離を詰めた。



「1人の女として愛する人の力になること、そして、王女として民を守ること、民を幸せに導くこと。あなたは何のために王女でいるの?」



それだけ言うと、私は元の位置まで優雅に戻る。




「取り急ぎ、契約破棄は時間がありませんので早急にお願いいたしますわ」


「嫌よ、嫌よ!!私は破棄しない!!絶対に!!」



ティエルは喚き散らしながら、謁見の間を出て行った。




「やれやれですわ」


「すまない•••」


「まあ、私としてはティーレマンスがどうなろうといいのですけれど」


「あの子も、現実を見れば分かるはずだ。それで、一つお願いがあるのだが」




タバーニは玉座から立つと、右手を胸に当て、私の目を真っ直ぐに見てきた。




「謁見の間での嘘は、王族であっても死罪だ」


「ええ、そうですわね」


「ティエルは、きっと民を守るために真実を話し、契約を破棄にする。その時は、ティエルではなく、私の首で許して欲しい」


「あ、あなた!!」



タバーニは深々と頭を下げる。

マニーシアが止めようとしても、頑なに頭を下げ続けた。




「分かりましたわ」


「他国の王女如きが何を言って•••」


「止めろ!!お前も分かっているだろう。ティーレマンスが生き残るには、民を守るにはアルメリアの属国に入るしかいないのだ」


「そ、そんな•••」



タバーニは全身から力が抜けたように、床に突っ伏した。

タバーニは再度、頭を深々下げると、微かに笑みを浮かべる。




「それにしても、アルメリアはうちと財政にそれほど違いはないと思っていたが•••。その自信に満ちた瞳、信じてよいのだな?」


「ええ。可愛らしい取引先ができましたので」


「そうか。ティーレマンスを頼む。それと、妻と娘、孫のこともお願いする」




孫?

ティーレマンスの王族は、国王タバーニ、王妃マニーシア、第三王女ティエルのみ。

第一、第二王女は幼少の時に亡くなっていると聞いている。



そうなると孫とは•••





「安心して下さいまし。属国にはなりますが、酷い扱いはしませんわ」


「恩にきる。それと、国民への避難指示はこちらからも出しておく」





こちらかも•••

この言い方からすると、ナナイロが既に避難誘導を始めているのを察知していたようですね。




タバーニ。

表向き妻の影に隠れていたが、本当に実権を握っていたのはあなただったのですね。


妻同様、娘に甘くならなければ、最高の国王になれたかもしれないのに、勿体ないですわ。





タバーニは満足気な顔をして、マニーシアを抱き抱えながら謁見の間から出て行った。






タバーニの娘ならば、明日、ティエルが素直になることを信じてもいいかもしれませんね。




私はミヒナを連れて謁見の間を後にすると、愛するマルティナ様の元へ帰るのだった。









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