第25話 魔王国





冒険者ギルドを出た私は、そのまま魔王国アンヘルマリアに向かった。




魔王国からの魔物流入被害は、サングラニト王国の北に位置するティーレマンス王国、ティーレマンス王国の北に位置するアルメリア王国に及ぶ。


もちろん、流入以前に元々魔物が多いため、それ以外の国にも影響は出ているが、特にこの3カ国が顕著だ。




それと魔王国と人間国の関係だが、良くも悪くもない。

お互い干渉していないと言った方が正解かもしれない。



勇者パーティーに入って田舎の村を訪れると「魔王を倒すのが最終目標なのか?」とよく聞かれたが、そんな考えは毛頭ない。



ならば、逆に人間国より力を持つ魔王国が攻めてくる可能性はというと、これも現時点では低い。





魔王国6カ国に対し、人間国は30カ国もあるのだが、この大陸を見事に半分づつに分けて暮らしている。


6カ国で充分な広さを確保している上、鉱山や緑、湖、作物等、資源がより豊富な大陸の左側を充てがわられている魔王国としては、人間国を侵略する意味がないのだ。





そんな魔王国の一つ、アンヘルマリアとサングラニトとの国境には馬車で10日程。



いつキュクロープス(SS)の被害が出るか分からない状況で10日もかける訳にはいかないので、馬に『身体強化』の無属性魔法を使って急ぐ。



ただ、出発時の体重が85キロのため、▲3キロ消費する『身体強化』は注意して使わなければならない。




『身体強化』

カロリー摂取

普通の馬車旅

『身体強化』

カロリー摂取

普通の馬車旅




これを繰り返しながら進み、今日で4日目、魔王国との国境まであと少しの距離まで進み、体重は90キロとベストに回復していた。




魔王国との国境付近になると、緑も水場も一切なく砂地が続く。

こんな所に住む人間がいるはずもなく、村はもちろんない。



それから少し進んだ所で国境線の印となっている魔王国の緑あふれる土地が見えてきたため、今日の旅はここまでにし、明日のキュクロープスとの戦いに備えることにした。




私は『亜空間収納』から『家』を出した。



辺りは更地で隠れ蓑はないが、基本的にここは魔物も少ないし問題ないだろう。




『家』に入ると、何よりも先に浴槽にお湯を張り、ゆっくりと浸かった。


水場もない更地でこんな贅沢ができるなんて、悪神様には本当に感謝しかない。



お風呂から出ると、夕飯にモウモウを使った『ビーフカツレツ』を作り、炊き立てのご飯と一緒に食べた。


デザートには、いつものシュークリームを用意。

紅茶を淹れて、席に座る。



それにしても、『家』に備え付けられてるポットという物は、あっという間にお湯が沸けるから本当に凄い。








コンコンッ





シュークリームを食べようとした時、扉をノックする音が聞こえた。


こんな辺境の地で訪問してくる者がいるとすれば、魔物か魔族だろうが、魔物はノックしない。

ならば、答えは一つだろう。


家を囲まれている気配もないため、『千里眼』スキルを使わず扉を開けた。



そこには、透き通るほど肌が白く、腰まで伸びたストレートな銀髪、赤色の目、何より体のラインを強調したタイトな服が目を引く女性が立っていた。



美人だが、人間ではない•••



直感的にそう感じた。





「ど、どちら様でしょうか?」


私は平静を装い聞いた。



「お主、人間か?ならば、妾を知らないのも仕方あるまいか」


「はあ•••」


「妾はマリア。お主に危害は加えぬ。と、いうか、お主からは何か、ただならぬ高貴な存在を感じるな」


「と、とりあえず、中にどうぞ」



高貴なとは、悪神様の加護のことだろうか。

とりあえず、悪意は感じなかったため、私はマリアを部屋に招き入れた。




「こ、これは•••??」



中に入ったマリアは、私が食べようとしていたシュークリームを喰い入るように見つめている。



「シュークリームです。よかったら、食べます?」


「よいのか?」


「人間の私が作った物で構わなければ、ですが」


「人間の作った物など普段は食べんが、お主が作ったとあれば別だ。遠慮なくいただくとしよう」



そう言うと、マリアは躊躇うことなくシュークリームを一口食べた。

次の瞬間、マリアは体を震わせ、目から涙を零し始めた。


魔族の口には合わなかっただろうか?





「うみゃあーーーーーい♡」



マリアは顔を綻ばせ、シュークリームを一気に食べ始める。




「お腹が空いてるのでしたら、夕飯も食べます?」


「何!?真か!?頼む!!それと、お主は人間だが最早、妾のお気に入りだ。砕けた言葉遣いで構わんぞ」


「なら、お言葉に甘えて」




妾のお気に入りと、そうビシッと言い放ったマリアの口元にはたっぷり生クリームがついている。


少しだけ、可愛らしいと思ってしまった。




私は、夕飯で自分も食べた『ビーフカツレツ』と炊き立てご飯を『亜空間収納』から出すと、マリアの前に出した。



「亜空間収納とは、お主、やはりただものではないな?」


「ただの人間ですよ」


「そんな訳あるま•••。ふみやぁーーー。これも、うまうまーーーーー♡」




ビシッと大人の女性だと思うと、デレッと少女のように変わる。

こうして魔族と話したのは初めてだが、人間と話しているのとあまり違和感がない。




「美味かった。お主には随分世話になった」


「遅くなったけど、私はマルティナ」


「マルティナか、良い名だ。して、お主はなぜこんな魔王国との国境に?」



私はキュクロープスの討伐に来た経緯を簡単に説明した。




「キュクロープスか。魔族でも並のやつでは敵わん相手だ。マルティナには恩があるからな、助けてやりたいのは山々だが•••」


「そう言えば、マリアこそなんでこんな所に?国境沿いとは言え、ここは人間領だよな?」


「うむ。魔王国アンヘルマリアの一つの村で異変があってな。それを調べてる内にいつの間にか国境を超え、腹が空き、この家を見つけたのだ」


「異変?」


「うむ。だから今はキュクロープスの討伐を助けてやれんが、マルティナなら問題ないだろう」




マリアは真っ直ぐ私を見つめてそう言うと、両手で丸の形を作った。

初めは問題ない『◯(丸)』という意味だった思ったのだが、シュークリームのお代わりだった。




「マルティナよ。キュクロープスを倒したら、魔王国アンヘルマリアまで来るがいい」



マリアはそう言って、自分の首元に着けていた煌びやかな宝石の中から青色の物を一つ外し、渡して来た。



「これがあれば魔王国アンヘルマリアに入れる。待っているからな」


「わ、分かった」




私の返事を聞くと、世の男を全て虜にしそうな綺麗な笑顔を浮かべ、マリアは家から出て行った。










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★


今後の更新頻度の参考にしたいと思いますので、是非、感想や★マーク、どんな形でもいいので反応いただけると幸いです。



【更新頻度】

 9月22日:1話分投稿

 9月23日:1話分投稿

 9月24日:1話分投稿

 9月25日:1話分投稿



 を予定しています♪



また、更新頻度は予定となってますので、ブックマーク後に通知機能をONにして待っていていだけると嬉しいです⭐︎

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