12.さらわれました。
「貴様は聖女だ。」
「聖女じゃないって言って追い出したのはそっちでしょう?」
「うるさい。いいから、聖女としてモンスター討伐に参加しろ。」
「まあその討伐っていうのは、行ったっていいんだけど。」
「なんだ偉そうに!」
「偉そうなのはそっち。召喚されて帰れない以上、仲良くなった人もいるし、その人たちのためにもできるだけのことはしたいと思う。」
「お、お前! 不敬だぞ!!」
「うるさいっ! できることはやろうと思うけど、あなたみたいな偉そうに言ってるだけの人の言うことは聞きたくない! まずは謝ったらどうですか? へっぽこ鑑定スキルの王子様?」
とりあえず言いたいこと言っとこうと思って口撃する。王子は真っ赤な顔して憤慨ーって感じだけど、後ろに控えている側近さんかな? その人は笑いを堪えてる。
そして脇には、以前ギルドに来た圧力オジサンこと騎士団長さんがいた。隣には、本屋で会った人、たぶん、私を連れ去った人……。
「王子が謝るわけなかろう! いいから言うことを聞け!」
「いや王子でも間違えたら謝ろう? そんなんじゃ誰も着いてこなくなっちゃうよ?」
「貴様……次から次へと……!! その服を剥ぎ取って無理やり言うことを聞かせたっていいんだぞ?」
「えっ、キモ。」
「きも?」
「あっ、いえ、何でもないです。」
ほんとうに、キモいことこの上ないんですけど。でもついにあの後ろの人吹き出しちゃってるし、堪えてるけど爆笑してるし、なんなのこの空間カオス。
「ふん、まあいい。黒髪は好みではないが……うむ。確かに、ハイデルドの言う通りなかなかいい体をしているな。これなら充分楽しめそうだ。」
「や、キモっ!」
「だからなんだ、その『きも』というのは。」
「あ、いえ。」
「やめてくださいよ王子。私が変態みたいじゃないですか。」
「いやお前が言ったんだろう、おっぱいおっきいって。」
「何言ってんですかこの王子は。」
「え?! 言ったよな?!」
「さあ、覚えていません。」
「なっ! お前……こんな時だけ都合よく忘れるな!!」
「え??」
「くっ…………まあいい。それより聖女だ。ほら、見せてみろ。腕をどけるんだ。」
ずいぶん仲良さそうにしてたから話がそれたと思ったのに、こちらに向き直って徐々に距離を詰めてくるキモ王子に鳥肌が立つ。顔は良くても無理、生理的に無理。
キモ王子のキモ手が胸元をかばう腕をグッと掴んできたところで、騎士団長さんの手が止めに入った。
「殿下、それは流石にやりすぎです。」
「騎士団長、俺のやることに文句を言うのか?」
「それは……申し訳ないが、悪いことは悪いと言わせていただきます。それに聞いていた話では、聖女として働くのが嫌で逃げ出したとのことでしたが、その女が言っていることはまるで逆です。あなたも否定しない。どういうことですか?」
意外とちゃんとしている人だった圧力おじさん。しっかりと自分を持っているし、自分で見極めようとしている。この人がいるなら、無理矢理連れてこられたのには腹が立つけど、悪いことにはならないだろう。
「なんて聞いたのかはわかりませんけど、私はこのお城に召喚されて、聖女はその力を使って瘴気を払うものだと言われ、そこのキモ王子に鑑定されて聖力がないって言われて街に放り出されました。街でいい人に出会えたから、いま生活できている。その恩返しもしたいから、力があるなら、みんなの役に立つなら、瘴気を払いにだって行く。逃げたりしない。けど、その人の言うことを聞く気はない。」
「………そうか。」
言いたいこと言わせてもらったら、騎士団長さんは私の言葉をちゃんと受け止めてくれたみたい。
なのに、王子は自棄になったのか、腰に差していた剣を引き抜いた。それ飾りじゃなかったんだ?
「黙れ! 俺はこの国の第一王子だぞ!! 王位継承権第一位で次期国王だ!! 逆らうことは許さない――」
「王子、さすがに剣はヤバいって……あ。」
「『あ』?」
なんとなく、この王子が剣を抜いても騎士団長さんが止めてくれるんじゃないかと思っていたが、止めたのは側近らしき男の人で、その人がいち早く扉が開いたのに気づいて声を上げると、皆が扉の方を向いた。
「何を、やっている。」
「っ?! ……ち、父上!」
扉が開いて現れたのは、なんとこの国の王様だった。
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