5-2.イケメンに会いました。


どたんばたんと周りを気にせず暴れる男性2人を避けながら、テーブルから離れたかったが位置が悪い。一番奥まったところの角の席に居たものだから逃げられなかった。



(巻き込まれたらやだなぁ。)



少し他人事のように思いながら、眺めるしかない喧嘩を眺めていた。


罵倒と殴る蹴るが続く。


男1がテーブルに倒れ込んできて、男2がその上にダンッとのしかかってきた。動きが止まった、と脇を抜けようと動いたのだけど、タイミングを間違えたらしい。下にいた男1が上に乗った男2をガッと蹴り除けた。


男2は、私が通ろうとした方に蹴られてきたのだ。



「っ!」



衝撃を覚悟したが、こちらにぶつかりそうになったはずの男2の体がふっときえた。



「……え?」


「大丈夫か?」


「っ……!」



バッと向くと、薄墨色の髪と目をもつイケメンさんが飛んできた男2を確保してくれていた。



「あ、りがとうございます。」


「いや、災難だったね。」


「なんだよ、離せ!」



捕まえられた男2は暴れている。

もう1人はというと、まだおさまらないのか椅子を掴み上げ力任せにテーブルに叩きつけた。



-ガシャーン



「おら! どうした来いよ!」


「いかないよ……。」



興奮する男に、薄墨色のイケメンさんは呆れたように言う。



「こんなところで暴れて、どうなるかわかってるのか?」


「なんだよてめぇ関係ねぇだろーが!」


「お前たちのいざこざには関係ないな。」


「ああん?!」


「そこまでだ。」



激高する男1の後ろから、歴戦の将! みたいな風貌のイケおじさまが、低く唸るような声をかける。すると、男1も男2もすくみ上がって大人しくなった。



「ヴェッセル、あとは任せるよ。」


「ああ、迷惑をかけた。」



男たちは、震えながらイケおじさまに引きずられていった。



「粉々だね。」



イケメンさんは、喧嘩に巻き込まれたテーブルと椅子を見ていった。そしてパッとこちらを向いた。



「お嬢さん、怪我してない?」


「はい。してないです。ありがとうございました。」



私は改めてお礼を言った。


気にするな、といって優男風のイケメンさんは自己紹介をしてくれた。ジークさんというらしい。



「ヨリコです、よろしく。」


「よろしく。ヨリコは……冒険者?」


「いえ、パン屋の従業員です。」


「じゃあ、素材の依頼かな。」


「まあそんなところです。」



曖昧にうなずいておいた。

ジークさんは冒険者で、今日も依頼を片付けにきたとかなんとか話してくれていたところに、さっきの受付のお姉さんがやってきた。



「ギルド長から聞いたわ。迷惑かけてごめんなさいね。」


「え、あ、いえ。」


「さっきの厳ついオジサンがギルド長。」


「あ、へえ! そうなんですね! めっちゃ強そうなイケおじさまでしたもんね。」


「イケおじさま……」



私の言葉を反芻して、ジークさんは笑いだした。いや、だって、え?イケおじさまだったよ?

わけがわからないという顔をしていると、お姉さんがジークさんを一喝して黙らせていた。



「ちょうどいいわ。あなた家具職人なのよね? 迷惑かけたお詫びに、ここのテーブルと椅子の作成を依頼するわ。」


「わっ、ほんとうですか?」


「ええ。もちろん依頼料も払うわ。」


「へえ? 家具職人なの。」



壊れた4人がけテーブルと、椅子はあわせるために4つ新調してくれるっていう話だ。あわせて14万ギュル! これなら採取依頼が出せる。



「すぐやっちゃいますね!」


「え? すぐ??」


「はいっ。……クラフトッ!」



-ボボボボボボォン



フロアにかざした手から木が現れて組み上がっていく。イメージは、先ほど自分が座っていた椅子と、目の前にあったテーブル。材料は木だった。鉱石を入れ込んで少し強度を上げてみよう。


30秒ほどで完成した。



「うん、いい感じ。ほかのテーブルとも違和感ないし。あっ、ちょっと強度上げる工夫しておきま、した……?」



出来上がったテーブルセットを見て満足して振り向くと、お姉さんもジークさんも、変な顔をしていた。



「あ、あの」


「あなたスキル持ち?!」


「えっ、あ……!!」



スキルの披露は慎重になった方がいいとおかみさんと話していたのに、14万ギュルが嬉しくてつい普通に使ってしまった。



「えっと、、」


「すごいな。クラフトスキルか。」


「ほんと! 仕上がりも完璧だし、何より早い!」



褒められて嬉しいけど、これはまずいと思って2人には事情を説明した。つい金額にテンション上がってスキル披露してしまったけど、ほんとうはスキル持ちって周りに知られたくない、と。

すると2人は、私のスキルを口外しないことを約束してくれた。


ギルド内に人はいたけど、さっきまでの喧嘩のおかげで近くには誰もいなかった。幸いこちらに注目している人もいなかったので、騒ぎにはならなかったようだ。



「スキル秘匿の件は了解したわ。依頼料払うからカウンターへどうぞ。」


「はい。ありがとうございます!」


「ついでに採取依頼もしていくかしら?」


「お願いします。」


「何がいるの?」


「えっと、オオドリのうぶ毛かブラックシープの毛を5キロ、です。」


「オオドリならすぐ取ってくるよ。」


「えっ、ほんとうですか?」


「うん。」


「ジークさんはSランクだから、オオドリ7匹くらいならすぐね。」



カウンターでお金を受け取り、依頼書の書き方を聞きながら、指名依頼ができることを聞いた。指名料は冒険者次第とのことで、ジークさんを見上げたら100ギュルでいいと言われて驚いた。



「普通Sランクだと5万~上は果てしなくなんだけどね。」


「これも何かの縁だよ。」


「な、なんていい人っ!!」



指名のところに「ジーク Sランク 100ギュル」と記入し、依頼書と依頼料を出す。



「うん、承りました。」


「よろしくお願いします!」



今日中には完了するとのことで、あとでまたギルドに顔を出すことになった。




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