第47話 エピローグ【っておーい!】
はい?
今なんて?
振り向くと、ひとりの少年? 少女? どちらとも判別できない可愛らしい子が立っていた。
「二股なんて、ボクが絶対に許しませんから。ボクの目が黒いうちは好き勝手にさせませんっ!」
えっと……。
だれ?
ぽかんと見つめているのは俺だけではない。カナコも木掛さんもクワミさんも。皆、一様に口を半開きにして、その可愛らしい子を見つめている。
クワミさんが超絶美人ならば、こちらは中世的で神秘的な美しさ。黒目がちな瞳が意志の強さを物語っていた。小柄な木掛さんより少しだけ身長は高いが、線が細く華奢な部類に入り、思春期特有のフレッシュ感に満ち溢れている。一見すると爽やかなのだが、灰色の上下ジャージに似つかわしくないほど、指輪、イヤリング、ブレスレッドなどなど大量の宝飾品を身に着けており、これでもかと言わんばかりに輝かせていた。
「ボク、チャラチャラした人ってあんまりいい印象持ってません。なんか虫が好かないって感じです」
……。
とりあえず頭の凝りをほぐそうとこめかみを揉んだあと、皆を代表して尋ねた。
「えっと……、あなたは誰ですか?」
「え? ボクですか? ホタルです」
「ほたる?」
「はい。ボクはホタルの妖精です。名前はホタルと言います」
……(①驚愕)。
………………(②熟考)。
…………………………………………っ(③結論)。
って、なんだそりゃあああああああああ―――――――――っ!!!!
また、ややこしいやつが一人、いや一匹、いや一人!
もう、カナコとクワミさんだけで『元虫の妖精シリーズ』はお腹いっぱいだってーの!
「いくらなんでもアクセサリー身に着けすぎじゃない? さっきから太陽の光に反射して眩しいんだけど。ちょっと品が無いって感じ?」
カナコが冷たい視線を向ける。
「い、いや、ボクはホタルなんで……。光らないとダメですんで……」
「なんでダメなのよ。光り輝きたいなら、見た目じゃなくて、あなた自身から溢れるオーラで輝けばいいじゃない。あなた随分若くて可愛らしいのに、なんか物質主義でクッソチャラチャラしちゃって素直じゃないわね」
クワミさんが心を見透かすように瞳を光らせた。
「だって、ボク、ホタルですよ? 中身も大事だけど、人は第一印象が九割っていうじゃないですか? まずはパッと見で光らないとダメだと思いまして」
「でも、その第一印象が『チャラチャラしてる』って、かなりマイナス印象からスタートしてるよね。最初から失敗してると思うんだけど。俺も初対面なのに、いきなりサイテーやらアスホールやら、虫が好かないって言われてるし」
俺も凍てつく視線で切り込んだ。
「そ、それはボクも謝ります。でもエイジさん、二股はダメですよ。もし、もしですよ、ボクがあなたの手のひらで弄ばれてることがわかったら、ショックでひっくり返って、オーマイガッ状態になってしまいます。それは人も虫も同じですっ」
ホタルと名乗る胡散臭い疑義妖精が放つ『二股』ワードに、再び女子たちがぴくりと反応した。三者三様に腕を組み、今度は俺の方をじい――っと睨んでくる。
こいつ、意味がわからないことを叫んで、矛先をこっちに向けやがって。
男? 女? いや虫の風上にも置けない!
「ああもう、またややこしい話を蒸し返してから。まずはそのチャラチャラした格好を見直してから俺に言え!」
「でも、これがボクのあいでんてぃてぃですから……」
「そんなもん知るかっ!」
ぎゅうぎゅうと羽交い締めにする俺。
こちょこちょと揶揄うカナコ。
うふふと眺めるだけのクワミさん。
木掛さんはそんな俺たちのどたばた具合にくすくす笑いだす。
どこか眠たそうな、退屈してそうな、それでいて暖かい眼差しで、
「大丈夫ですよ。夏祭り以外でも売ってますからっ」
と。
素敵なえくぼを見せた。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます