第13話 私はノックするよ!
ボロいロープを確認がてら私が先に降りると、降りきる寸前でロープは切れてしまったよ! まぁ、帰りは何とかなるだろう! はっ!
「しまった! ローズ君!」
「私はこっちよ」
なんと、ローズ君はいつの間にか背後に!?
「飛び降りたのかい? 危ないぞ! 次は私が背負って共に降りよう!」
「絶対にイヤ。安全に降りたんだから別に良いでしょ」
まぁ、それもそうか! そして、私たちの目の前には鉄の錆びた扉が存在している。
「ふむ」
ドアノブは無い。小さな格子が着いているので、内側と意思疎通を図り、開けて貰うタイプのモノかな?
私はノックするよ!
「すみませーん! ちょっと良いですかー! 変なマルチ勧誘じゃありませーん! 開けてくださーい!」
どれだけ厚みがあるのか分からないのでとにかく強く、ドンドン! とノックするよ! 向こうに聞こえなければ本末転倒だからね! ドンドン! すると、
「おい、冗談だろ……あんたどうやってそっち側から来た? ロック鳥に運ばれてる最中に脱出して落ちてきたのか?」
格子から覗くのは単眼の巨漢だった。サイクロップスと言うヤツかな? 中々のワクワク具合だよ!
「私の名前は黒船正十郎。少々友達が困った事になっているのです! 助けるのに手を貸してもらえませんか?!」
「声がデカい! もっと音量を落としてくれ……」
「いやー、申し訳ない! こちらは突風が強くてですね! こちらの声が聞こえているのか良く分からないのですよ! あ、そちらの声も殆ど聞こえませんので、声を張り上げてもらえませんか!?」
「今開けるから静かにしろ!」
すると、ギギギ……と錆びた扉が重々しく内側から開く。すると、やっぱり扉を開けたのはサイクロップスだったよ。
筋骨隆々で私よりも頭二つは背が高い。ローズ君と比べれば頭二つと半分だね!
聞こえていたのか分からないので、改めて自己紹介。
「私の名前は――」
「待て! 頼むから静かにしてくれ」
と、大きな手を、シー、とされれば黙るのは世界共通のジェスチャーだね。
「申し訳ない。何かお取り込み中ですかな?」
「詳しい事情を説明するから入ってくれ。そっちのお嬢ちゃんも」
「ローズ君、行こうか」
私が促すとローズ君は何かを感じるように少し不機嫌に続いてくれた。
「俺はサイロだ。アンタらは?」
「黒船正十郎です。名刺をどうぞ。こちらの彼女はローズ君と言います」
「なんだ、この紙切れ……まぁいい。よろしくな、セジュロ、ローズ」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
私はサイロ君の閉める扉を背に改めて山の内部へ、ちなみにローズ君は、
「チッ、あの女の匂いがするわ……」
と、呟いているね。
サイロ君が開けてくれた扉は作業で外に出る時以外に使われないらしいよ。だから私達の声が外から聞こえた事に驚いたらしい。
「今、面倒な奴らが来ててな。親方がモメてんだ」
「ふむ、サイロ君。一つ聞いてもいいかな?」
私とローズ君はサイクロップス用に作られた大き目の石段を降りながら尋ねる。
「なんだ?」
「ここは何をする所なんだい?」
「この、『死の山』は魔石の採掘場だ」
「ほう」
「……『死の山』ねぇ」
ローズ君が少し嬉しそうな様子だ。ずっとしかめっ面だったから彼女の機嫌が直ったら私も嬉しいよ。
「『死の山』と言っても別にヒトが死にまくる不吉なトコってワケじゃない。採掘に危険はつきものだし、怪我や事故には特に気を使ってるからな」
「安全性の確保はどんな現場作業では鉄則だからね!」
「まぁ。それ以上に、俺達『サイクロップス』って種族は『死の神』を信仰してるってのもある」
「『死の神』?」
「
意外にもローズ君が答えてくれた。どうやら、ある程度の学がある者ならば誰でも知っている事らしい。
「別に死に急ぐとか、そう言う危険な思想は全くないんだ。大昔に『サイクロップス』は種族的な奴隷にされそうな所を『死の神』に救われた事があったんだと。それから、種族全体で『死の神』を崇拝する文化が続いてる」
「ちなみに具体的には何をするのかね? ミサ? 巡礼?」
「ミサもジュンレーもよく分からんが……俺は仕事に行く前に銅像の前で今日も“死にませんように”って簡単に祈ってるな」
「偉いわ! アンタ偉い!」
と、ローズ君は実に嬉しそうにサイロ君の背筋を叩いてるな。彼は、お、おう……と少し困惑気味だが、ふっ……ローズ君も『死の神』信仰なのかもしれないね!
「それで? 銅像はどこにあるの?」
「それはあそこに――ってマジかよ……」
と、サイロ君が視線を向けた先には女性の銅像が立っているが、その前に『サイクロップス』と『人間』の二種族が向かい合っている。なにやら、口論をしている様だな。
「ローズ、セジュロ。アンタらは誤解されるかもしれないから、少し隠れててくれ」
私たちにそう言い残すとサイロ君は歩いて行った。
『死の神』の銅像の前でフードコートを身を包んだ『人間』達と、丸太のような上腕二頭筋で腕を組んで佇む『サイクロップス』達は口論をしていた。
「いい加減、『命の神』を信仰しなさい。この採掘場が潰れても良いのですか?」
「寝言は寝て言えタァコ。俺らにとって『死の神』は種族の大恩人だ。ボタ山に埋められたく無かったらさっさと消えろ」
『人間』の代表であるフロムは、『サイクロップス』の代表であるガンダと向かい合っていた。
「なんと愚かな……『死の神』は貴方の命など何とも思っていないのですよ? それに貴方達を救った事など遥か太古の事……加護さえも得られない神を信仰した所で何になると言うのです?」
「バーカ。俺らはお前らみたいな安っすい信仰に縋ってねぇんだよ。加護があるから、その神を崇めるってんなら、それは“加護”を崇めてんだろうが。神様の方じゃねぇよ」
「あまりにも頭が悪すぎますね。“加護”を得られるのは『命の神』を心から崇めている証です。ソレさえも説明しなければ理解できないのですか?」
「それなら、俺らも“加護”を受けてるぜ」
「ほう、どのような?」
「死なねぇ加護ってやつだ」
ガンダは『死の神』の銅像を見上げる。
「毎日、少しでも死に対して祈る事でよ、ふとした事に気をつける心構えを整える事が出来るのよ。そのおかげで何度も危険な兆候に気づいて、その都度、命を助けられてるぜ」
「ほう」
と、フロムは『死の神』の銅像を見上げる。そして手をかざすとその腕部分が吹き飛んだ。
「中々に硬いですね」
「! 何やってんだテメェ!」
ガンダは勢い良く殴りかかり、共に立っていた『サイクロップス』達もフロム率いる『人間』達へ殴りかかる。
「やれやれ」
「なにぃ!?」
しかし、ガキンッ! と鉄を殴った様な音を出して防ぐ障壁に拳は阻まれた。そして、フロムがガンダに手をかざすと、その巨体を吹き飛ばす。
そのガンダに向かって来ていたサイロが駆け寄った。
「親方ぁ!?」
「ヤロウ……」
他の『サイクロップス』達もガンダと同じ様に吹き飛ばされる。
「これが『命の神』の加護です。心得なんかは信仰とは言いません。今日はこの銅像は破壊していくので、明日までに信仰と言う言葉の意味を、よーく考えて我々に教えてくださいね」
と、フロム率いる『人間』達は、皆が揃った動作で『死の神』の銅像へ手をかざした瞬間――
「何してんのよ、このクソ野郎!!」
「ぐふっ」
ローズの飛び膝蹴りがフロムの側頭部に炸裂する。
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